バルチャ丼乙夜編
「あ、落ちた」
蜂楽が気絶した。最初はギャースカ言って抵抗――と言っても正直抵抗には見えなかった――していたが、最後は息をするのもやっとの有様で、ヒイヒイ言うばかりだった。顔は涙と鼻水と涎で大変なことになっているし、体もベッタベタのどろっどろである。
「蜂楽寝た? 乙夜ごめん、タオル取って。サンキュ」
事前に準備していたらしいタオルを投げてやると、潔は蜂楽の顔と体を優しく拭ってやっていた。さっきまで蜂楽を虐め抜いていた人物と同一人物なのが信じられない。死ぬ……と言って逃げようとした蜂楽を、死なねえよと言って引き戻していたのは乙夜が見た夢だったのかもしれない。いや、これはそうだと思いたいだけかもしれない。
だって俺今からあれに抱かれるんだぜ? たった今チームメイトを抱き潰した男によ? なんか人の体から鳴りそうにない音してたんだけど。あと体が柔らかいせいですんごい体勢になってた。
「じゃあ次乙夜ね。準備はしたって聞いたけど……初めてだよな?」
「あー。うん。そう」
「そんな緊張しなくて良いよ」
緊張しないとか無理じゃね? さっきまでの行為思い出して? 初心者に見せるにはハイレベルすぎん?
尻の準備をするのにかかった労力と、今感じている恐怖を天秤にかける。ここで逃げるのは簡単だ。素直に嫌だと言えば潔は無理矢理したりしないだろう……たぶん。普段ならしないだろうと言い切れたけれど、今さっきまでの蜂楽のことを見ていると言い切る自信がなくなってしまった。青い監獄の申し子はこっちの方でもエゴイストってか。この文章、三流週刊誌に書かれてそう。
心臓がバクバクなって、血の流れる音が轟々と聞こえている。忍者の末裔として忍者キャラでやってきたけど、今日で見納めかも。それくらい緊張してる。ケツ処女喪失怖〜!! 今度から俺女の子にはもっと優しくするわ。今までも優しくはしてたけどね。いや混乱してるわ。怖いのは潔の方だわ。ケツ処女喪失もそりゃ怖くないと言ったら嘘になんだけど。
「まあゆっくりやってこうぜ。せっかく準備したんだしさ。無理なら途中で止めるし」
まずはハグなー。潔と抱き合うと背中を撫でてくれる。お前……さっきまでの厳しさどこ行った? てか潔なんか良い匂いするわ。シャンプーもボディーソープも全員同じだしたぶん潔の体臭。匂いフェチ的には高得点。……しゃあなし。
乙夜の顔色が変わったのを見た潔が問いかける。
「お、腹括った?」
「おー。でも出来る限り優しく、で頼む」
「まかせろ。天国見せてやるよ」
このタイミングで天国見せるは怖いんよ。そう思ってももう止まらない。乙夜が出来るのは潔が最後まで優しいことを祈るだけであった。