バトンは渡されて

バトンは渡されて





久しぶりの道をあたしは愛する子を連れて歩いていた。変わらぬ道のりと変わった風景、時の流れを実感しながら。

「ほら、そろそろ見えてきたよ」

「うわぁ〜おおきい…ここにおとうさんがいるの?」

「そうだよ、昔はお母さんもいたんだぞ」

行先はあの人の仕事場——トレセン学園


「お久しぶりです」

「こちらこそ、よく来てくれました」

「おかあさん、このひとは?」

「この人はたづなさん。あたしもお父さんもここのみんながお世話になる人なんだ」

「ふふっ、よろしくね。エースさん、あなたの旦那様はグラウンドにいますよ」

「ありがとうございます」

そう言って挨拶しながらグラウンドの方へ向かう。今日はあの人には内緒でここに来たのだ。当然学園側の許可は得ているし、あの人へは内緒にしてもらっている。

グラウンドに着くと…いた、あの人だ。

「おーい!あなたー!」

「へ?エース!?」

あの人の近くには担当の子達と…横には見覚えのある男の人の姿………あれ?男の人のそばにいるあの子どもは確か…

何かを感じたあたしがコースの方を見ると…

「あ、来た!おーい!エース!」

そこにはコースを走っていたあたしの親友(ライバル)、シービーの姿がいた。


「し、シービー!?来てたのか?」

「アハハ、実はさエースがここに来るってたづなさんから連絡があってさ、是非ともどうですかって言われたんだ。勿論オッケーって答えてここにいるってワケ。あ、勿論みんなにはアタシ達の事内緒にしてたから」

そう言って答えるシービー。あの人の隣にいた男の人というのはシービーの元トレーナー……もとい旦那さんで近くにいた子はシービーの娘なのだ。


「おとうさん〜」

「よしよし、よく来たな。エースもここには久しぶりだな」

「おうよ!なんだかあの頃を思い出すなぁ…こうやってあなたの指示を受けてさ」

そう言って思い出に耽っているとあたし達の事を聞きつけた学園の人達が集まってきていた。

「じゃ、エース。みんなも来たしさ…久しぶりに走る?」

「あぁ!久しぶりに血が騒ぐなぁ!いいよな、"トレーナーさん"?」

「よし!久しぶりに楽しんで行ってこい!けど…無理はするなよ?」

「ふふっ、じゃあ決まりだね。エース、"アレ"持ってきてるよね?」

「あぁ、もちろん!」

暫くして———あたし達は"アレ"…勝負服を見に纏いコースへ戻ってきた。

「あ!テレビでみたおかあさんのかっこ!」

「よーく見てなよ。お父さんがね、お母さんが学園にいた時に一目惚れした姿を…」

そう言ってあの子に語りかけるあの人…そう言われるとなんだか恥ずかしいな…


そうして位置に付いて、合図とともにあたし達は走り出した。

あの時の様に先へ先へ走り出す。シービーはあたしの後ろにやっぱりいる。

———来る

あの時憧れた走りが、超えようと思ったあの姿が長年の時を経て再び迫ってきた。

だが負けてられない。そっちが更に迫ってくるならこっちは更に突き離すだけだ。

この時、この瞬間、あたし達はあの頃に戻っていた———


「ふぅ…久しぶりだから疲れたぁ…」

「相変わらずの走り…流石シービーだよ」

結果は同着らしい。でも勝ち負けよりまた一緒に走れた。それだけで充実していた。

「おかあさん!あたしもはしる!」

「あたしも!」

目をキラキラと輝かせながらあたしの娘とシービーの子が一緒に言ってきた。

流石に同じ距離は大変だから…少し離れた位置であたし達はゴールになってあの子達を待つ。

幼いとは言え、流石はウマ娘。あっという間にこっちに向かってきて抱きついて来た。

「もういっかい!」

「こんどはまけない!」

そう言って何度も走るあの子達。将来応援するのが楽しみだな…

その後は在校生からの質問に答えて学園を探訪してあっという間に時間が過ぎていった。


帰り道———

「お母さんどうだった?」

「かっこよかった!おとうさんがおかあさんに"めろめろ"になったのがわかった!」

「こら、どこで覚えてきたのその言葉」

学園側の計らいであたしは子供と旦那の3人で家へ向かっていた。

「おかあさん!あたしね!おおきくなったらあそこにいくんだ!そしたらもっともっとかけっこして、いちばんになるんだ!」

「おっ、これはお母さん応援しないとね」

「お父さんも将来が楽しみだ!」

そう言ってわしゃわしゃと頭を撫でながらあたしと彼は目を合わせる。

———あなたに出会えて、本当に良かった

そう思いながら、そして今晩のご飯の事を考えながらあたし達は歩いて行ったのだった…





そんな話があったとお母さんからよく話してもらった。

あの時走っていたお母さんの嬉しそうな顔、それがやっと分かった気がする。

向こうを振り向くと席で手を振るお母さん。それに対して大きく手を振り返す。

そしてゲートへ向かうと隣にはあの時一緒に走ったあの子の姿。

「負けないからね」

「こっちこそ」

そう言葉を交わしてゲートに入る。

思えばあの時、お母さんに頭を撫でられたあの瞬間にバトンは渡されたんだと思う。

だから今度は私の番。あの時のお母さんのように夢を向かって駆け抜ける。


さあ行こう!

星より明るく輝くように!

風より速く駆け抜けるように!

ここからは私だけの道なのだから!


そしてゲートが開かれた———



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