ハナコハ

ハナコハ




 好きになれなかった。人より少し要領が良かったばかりに、こちらに向けられる期待の目も。私自身ではなく、私の才ばかり興味を示す人も。

 私の意思に関わりなく、勝手に身体を疼かせるこの体質も。


「はあっ、はぁっ、はぁっ……!」

「はっ、やっ、あ゙っ♡イっ、ぐっ、イっちゃ、ゔっ♡はっ、はっ……あ゙ーーっっ♡♡」


 それを御する事もできずに、大切な友達に欲求をぶつけてしまう、私自身も。何もかも、好きにはなれなかった。


「こはる、ちゃん」


 名前を呼ぶ。揶揄ってみるととっても元気に反応してくれて。可愛らしくて、照れ屋さんで、素直になれなくて、友達想いで、曲がったことが嫌いな、とっても優しい女の子。

 「エッチなのはダメ」なんて。本当は人並み以上に興味津々な事への裏返しで、いつもいつも顔を真っ赤にして可愛らしく否定していたあの子。

 きっと、物語の中にあるような、いやらしくも愛のある関係性を夢見ていたであろう彼女に。自らの身体を開け渡す事を決めさせて、歪で間違った性的なしがらみを持たせてしまったのは、私の罪でしかない。そう思うのに。


「……………………ッッ!!」

「は、はぁっ、来たぁ♡はっ、またっ、イ────っ♡♡」


 気持ち良くて堪らないと、喘ぎ散らす口やくねらせられる全身が目一杯伝えてくる。自分の中を貫いている、私に備わっている忌まわしいソレを、愛おしいとでも言うようにきゅうきゅうと甘く食い締めてくる胎内。

 それに耐えられなくなって、無責任に精を吐き出した。喜色の混じった嬌声を上げながら、コハルちゃんが小さな身体を盛大に反らしながら絶頂した。


「あ、ぁ…………」

「はっ、はっ、はあっ♡♡」


 瞳を潤ませ、強い感覚に時折涙を流しながら、それでも表情には妖しい笑みが浮かんでいる。

 年に見合わない色気を纏わせて、私の下で組み敷かれ乱れている。そんな姿にどうしても昂ってしまう。そんな自分が自覚できてしまうのが、何よりも気持ち悪い。


「………………………………」


 やっと見つけたのに。やっと得られたのに。自分らしくいられる場所。楽しくて仕方のない空間。私の居場所。策謀や裏に隠した思惑なんてない、ただ一緒の時間を過ごすして笑い合う、そんな"友達"。

 辛そうな顔をしていたから、なんて。そんな理由で自分の全部を差し出してしまえるくらい、優しい子を。私は、私は────!



「…………ハナコ、ってさ。やさしい、わよね」



「え……?」


 私の欲望を受け止めて、乱れ切った顔のまま。誰よりも優しい女の子は、そんな事を言って笑った。シーツを握り締めていた手を、こちらの顔に向けて伸ばしてくる。


「そんなに、くるしそうなかおになっても、わたしのこと、おもいやってくれるんだもん」


 ぴと、と。頬に触れさせられた両手は優しかった。違う。思い遣ってなんていない。できてない。そう思うのに、声にならない。


「うれしいけど……やっぱり、いや。…………つらそうな顔をするのは、ダメ」


 するり、とコハルちゃんの手が動いて、私に緩く抱き付くように、うなじの後ろできゅっと指を絡めて止まる。まるで、私を誘うみたいに。



「きて、ハナコ」



 性に溺れたいやらしい顔のまま、慈愛に満ちた眼差しで、コハルちゃんはそう言った。


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