ハッピーハロウィン前日譚

ハッピーハロウィン前日譚



もうすぐハロウィン。今年から娘が通っている幼稚園では、毎年仮装した子供達がクラス毎に集まって、先生と一緒にご近所の家に訪問してお菓子を貰うイベントを行なっているらしい。

お菓子を貰う家には予め許可をもらっていて、しっかりお菓子を準備してもらっているそうだ。

けど、最近は物騒な事件が多いため、数年前から防犯の為にひとクラスにウマ娘の親が最低3人、子供達と同じように仮装して同伴することになっている。

なので、あたしも娘と一緒にイベントに参加する事になったわけなのだが…。


「駄目!絶っっ対に駄目!!エースが参加するなら俺も仕事休んで参加する!と言うか代わりに俺が行く!!」


旦那が、あたしがイベントに参加することを許可してくれない。


「いくら君がウマ娘とは言え、そんな危険が伴いかねない行事になんて娘ともども参加させられない!!」

「イベントは昼間にやるし、あたしの他にもウマ娘の母親が3人参加するし、警察も見回ってくれる話だから大丈夫だって」

「で、でも仮装するんだろ!?娘と同じ魔女の仮装で行ったら他所の男共にエースの可愛さがバレる!!」

「…あたしのこと可愛いなんて言うのアンタくらいだよ……」


……とまぁこんな感じで、旦那はあたしに変な輩が寄ってくるのを危惧しているみたいだ。

心配しなくても、あたしは浮気なんかしないし、あたしなんかに手を出そうと思う奴なんか旦那くらいだと思う。

それなのに信用されてないみたいで、ちょっと悲しい。


「ママー、まじょのおようふくきさせてー」


その時、ハロウィン当日に着る衣装を持って娘がやって来た。

あたしはちょっと旦那を懲らしめようと、わざとらしく泣いたフリをして娘に縋り付いた。


「え〜ん娘ぇ〜!パパがママをいじめるよぉ〜!」

「ちょっ!?」

「パパなんでぇ!?どうしてママをいじめてるのぉ!?」

「ちが、パパはいじめてなんか!」

「ママと娘にハロウィン参加しちゃいけないって言ってくるんだよぉ〜!」

「やだ!ママとおかしいっぱいもらいたいのに!イジワルなこというパパだいっきらい!!」

「ゴハァア!!」


娘必殺の『パパ大嫌い』攻撃がクリティカルヒットし、旦那はその場に崩れ落ちた。

あたしは娘を抱き上げて、旦那を見下ろす。


「ほら娘もこう言ってるんだから、これ以上嫌われたくなかったらいい加減諦めてくれよ」

「……いやだ……」

「……おい、なんでそんなに頑固なんだ」

「俺の命より大切な君達に、危険な目に合ってほしくないんだ…!」

「え」

「君や娘にもしものことがあったら、俺は後悔してもしきれない……!」

「……ママぁ、パパ泣いちゃったよ…」


旦那の目から涙が溢れて、床に落ちる。

自分が思ってたよりも旦那があたし達の事を心配してくれている事にやっと気付いたあたしは、娘を使って旦那を傷付けた事に罪悪感を抱く。


「……ごめんな、あなた、あたし達のこと、そんなに大切に想ってくれて、嬉しいよ」

「……」

「でも、娘が楽しみにしていることを諦めさせたくないんだ、あなただって、娘の楽しみを奪いたくないだろ?」

「……うん……」

「心配しなくても、あたしはあなた意外眼中にないし、現役を引退してからも毎日筋トレだけは欠かさずやって鍛えてるから、ちょっとのことじゃあ怪我なんてしない


……信じろよ、あたしのことを


あんたの、カツラギエースを!」

「!……ああ……ああ!信じるよ、俺のカツラギエース…!」


現役時代の時を思い出し、あの頃のように、あたしと泣き止んだ旦那はハイタッチをした。


「ママ、パパ、なかなおりしたの?」

「おう!バッチリな!」

「よかったぁ!じゃあママといっしょにハロウィンしてもいいよね?」

「う、うん…けどやっぱり仮装は…」

「あーさっきからなんか勘違いしてるけど、あたしは娘と違う仮装するからな?」

「え!?」

「あたしに魔女の服なんて似合わないし、肌が露出しないやつ着る予定だからさ、ホント、心配すんなよ」

「そ…そっか……よかったぁ〜…本当にそれだけが心配で……」

(どんな格好予想してたんだろ……)


そんなこんなで、旦那から許可をもらったあたしは、無事に娘とイベントに参加できる事になった。



〜〜〜⏰〜〜〜



………しかし、ハロウィン当日。


「…………それ……吸血鬼……?」

「ああ、長袖のブラウスに黒いズボン、それにマントと、どこも露出してないだろ?」

「ママかっくい〜!」

「……駄目ぇーーー!!エースのカッコよさがマダム達にバレるーーー!!!」

「はぁああ!?」


あたしの格好に旦那が訳のわからない事を言って駄目出ししてきた。

もう面倒になって、あたしは「俺が吸血鬼になってイベントに出る!!」と駄々をこねる旦那を一喝して仕事に行かせ、娘を連れて幼稚園へと向かった。


そして何故か、あたしの格好を見たママ友達と女の先生達から黄色い悲鳴を上げられ、ちょっと地響きが起きた。


終わり

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