ノモセシティ前にて
212番道路
ヨスガとノモセを繋ぐこの道は、一部が湿地となっている。
ノモセシティ手前の辺りには深い沼もあり、通り抜ける為にはそこへ踏み込まなければならないほどの広さだ。
「うえー……靴ん中にまで泥入ってんじゃん。なんだってんだよー」
そこを今しがた抜けた金髪の少年が1人。ポケモントレーナーのジュンだ。
穏やかな気候とカラリとした土の上で育った彼にとって、この道は大変険しいものであった。幾度となく泥濘に足を取られ、お気に入りの服はすっかり泥まみれになっている。
終わることのない雨が、少年に降り注ぐ。
それを見上げると、ジュンの頭の中で名案が駆け抜けた。
「そうだ!こうすれば……」
一休みできそうな木陰に移動し、ジュンはいそいそと身に纏っていた服を脱ぎ始める。
生まれたままの姿になった少年は、その身体を雨雲の下に曝け出した。
「冷たっ!」
ジュンの脳内で浮かんだ名案、それは『雨で泥を洗い流してしまおう』というものであった。
思惑通り、髪や顔についた泥があっという間に足元へと落ちていく。
「……ジュン?何してるの?」
少年の耳に聞き慣れた声が届く。
そちらを向けば、隣人の少年……コウキがこれまた泥まみれでジュンを見ていた。
「コウキ、お前も泥だらけじゃん!」
「うん。深いところに入っちゃったから、靴の中までドロドロ」
困ったように笑うコウキに、ジュンは先程の名案を共有する事にした。
「お前も雨で泥、流しちゃえよ」
「え?」
「折角天然のシャワーがあるんだから、浴びなきゃ勿体ねーよ!泥まみれのままノモセに行くのもなんか嫌だろ?」
いつになく真剣なジュンの話に、コウキは頷きながら聞き入った。
「……じゃあ、僕も洗い流して行こうかな」
「決まり!ほらほら、俺の荷物の横にそれ置いてこいよ」
言いながら、せっかちな少年は友人の背中をぐいぐいと押す。
「や、でもさ、服は脱ぐ必要ないんじゃないかな?」
素裸のジュンに向かって、服を着たコウキは疑問を投げかける。
「だって、全身で雨を受けた方が気持ちいいじゃん」
「……」
何とも言い難い回答にコウキは……
「確かに!」
納得してしまった。付き合いの長さ故か、妙なところで似たもの同士な2人である。
そうと決まればもう誰にも止められない。コウキも自身の帽子や服を木陰に置き去って、ジュンと同じく全裸になる。
大自然のなか、まるで浴室にでもいるかのように2人の少年は、暫くはしゃぎ続けた。
その後隣町の少女、ヒカリの甲高い悲鳴が響き渡り、おまわりさんにこっぴどく叱られる事になるのだが、それはまた別のお話。