ネタバラシ
夜中、アサの身体を乗っ取ったヨルは煩悶のままに枕を殴り、握りしめ、顔を埋めて唸った。
「どのツラ下げて…出てきやがったあ〜…!」
歯を食いしばるヨルに、アサが眠れないと不満を漏らす。
「…チェンソーマンがいたの?」
「違う!銃の悪魔だ!あの仮面の男…魔人のようだが間違いない!」
アサはヨルの答えを聞いて驚愕した。13年前の米国に出現、世界中を回って100万人以上の犠牲者を出したという恐怖の権化。行方は知られていないが、それがあの場にいたと言うのか?
「…それ本当?」
「…私は昔、武器の悪魔達と共に、チェンソーマンと戦った!だから奴の匂いはわかる」
かつて武器の悪魔達と四人の騎士がチェンソーマンと戦った。何度殺しても蘇ってくるチェンソーマンに敗北して、体を食われた戦争の悪魔は弱くなっていた。
「そのせいか世界大戦後、戦争が一度も起こらなくなり、戦争は映画やゲームの世界の出来事になり、戦争の恐怖は忘れられ、さらに弱くなった…」
「あいつらが不甲斐ないばっかりに…私はこんな目に…!」
「私は…このままでは皆から…忘れさられてしまう…チェンソーマンのせいで…」
ヨルは声は段々と小さくなり、やがて聞こえなくなった。彼女は忘れられるのが怖いのか?アサが問いかけるが返事はない。どうやら眠ったらしい。
(もう死んでもいいってずっと思ってたのに、今は死ななくてよかったって思ってる)
アサは助けに来てくれたハンター達のことを思い出す。あの恐ろしい悪魔をあっさり倒し、てきぱきと事後処理に入った彼ら。
角の生えた少女の振る舞いには不快感を覚えたが、彼女はユウコの怪我を治してくれた。4課の面々への憧れが、僅かだがアサの中に芽生えた。
(ありがと、公安の人たち…)
後日、アサはユウコ、ヒロフミと共に屋上で昼食をとった。
「噂で聞いたんだけど、悪魔に襲われたんだって?」
「そう!危なかったんだけど、公安のハンターの人達が助けてくれたの!超カッコよかったあ〜!」
ユウコはヒロフミにコウモリの悪魔と遭遇した件について、熱を込めて語っている。ユウコ達と別れて1人になったタイミングで、ヨルが話しかけてきた。
「時間がとれ次第、銃の魔人に会いに行くぞ」
「はっ…はあっ!?」
「あの男を仲間か、もしくは武器にする。顔見知りになって損はない」
ヨルは淡々と語るが、アサは聞いた瞬間から気が気ではない。同年代の男友達すらまともにいないアサが、どうやって年上の男を惚れさせると言うのか?それも相手は…銃の魔人。
「ヨルってさあ…ちょっと馬鹿だよね」
「私が馬鹿…!?」
「銃の魔人だよ!?武器になんてできるわけないじゃん!」
「私は馬鹿じゃない…!今日明日のうちに彼氏にできるとは思っていない!あの時のお礼が言いたいとか、そんな言い訳なら、探しても怪しまれないだろう!?」
「…本気で言ってる?」
「やる気がないなら殺すぞ?」
また会ってみたい、という気持ちはアサにもあるのだが、ヨルに正体を聞かされた途端に萎えてしてしまった。
「ねぇ…あの角の生えた女の子は?」
「あぁ?……あれには関わるな」
「なんで?」
「あれは超越者だ。一度も死んだことのない悪魔をそう呼ぶのだが、あれは全盛期の私よりも強い」
深刻な調子で話すヨルだったが、アサはいまいちピンとこない。銃の悪魔と同じくらいか、それ以上にヤバいヤツとだけ理解する。
「なんで下っ端のデビルハンターなんかやってるんだ…アイツら」
そういえば、デビルハンターに相談しようとしてた事もあったな、とアサは思い出す。あの時はヨルに考えを見抜かれて失敗したが。
超越者の少女や銃の魔人は公安に勤めているようだ。万が一正体を知られても、事情を話せばヨルと一緒に殺されずに済むかも知れない。
「放課後はユウコと悪魔探しにいくから、魔人の人と何喋るかとか、代わりにヨルが考えといて!」
「ああ…うん」
アサとユウコは街に探索に出ると、テントウムシの悪魔と遭遇。これを倒すと先輩部員らのもとまで持ち帰る。女二人のため、中々苦労した。
3人1組のルールの為か、アサ達はヒロフミの行方について尋ねられたが答えようがない。
入部試験の合否についてはその場では保留となり、2人は帰る事になった。ユウコも入部を認められなかった事で落ち込んでいるのか、いつもより静かだ。