ネクロフィリアの薔薇水葬
※2022年10月27日現在までの本誌(〜1064話)ネタをかすめている
※ノベルロー前提
※連れ戻されたifローを追って正史連合軍がif世界に突入し、みんなでお屋敷中を探し回っているところ
*
荘厳な光景ではあった。
ガラス張りの天井から明るい日光がさんさんと差し、真っ白な内装をますます純白に見せている。
はるか彼方に窓を臨むこの部屋には、しかし床がほとんど存在しなかった。
「…………!!」
息を飲む。
部屋に踏み込んだペンギンとシャチが見たのは、眼前いっぱいに広がるプールと、その水面を埋め尽くす赤と白の薔薇の花だった。
天使の梯子と薔薇と水に満ちる部屋。
幻想的ではあった。
ただ一点、薔薇に囲まれて水の中央に浮かぶガラスの棺――これもまた紅白の薔薇と水で埋まっていた――その中で眠っているのが、我らがもう一人の船長でさえなかったら。
『誰か、泳げる奴は金の扉の部屋に』
チョッパーからの通信だった。扉の外に立ち尽くしていた彼の理由を、二人はようやく思い知る。
ちゃぷ、とさざなみが爪先を打った。
喉が細まる。息が上がる。
波間の人影。さらわれた大事な人達。
薔薇に混じって、あるはずのない潮のにおいが立ち上り。
ペンギンが叫んだ。
「チョッパー連れてこい!!」
言葉の最後には既に帽子を宙に置き去りにして、ペンギンは空を飛んでいた。
助走も惜しみ、プールの縁を蹴った純粋な脚力のみによって。
手の指から足の爪先までが水を潜りきるより先に水をかく。一蹴り、二蹴り、一かき、二かき、妄執的な薔薇の海と匂いを掻き分けて、ペンギンは永遠じみた距離をものの一息で泳ぎきった。
「ローさん!!!」
水の上に顔を出す。息を吸うより先にガラスの棺にかじりつき、まとわりつく薔薇をどけ、水面ぎりぎりに浮かべられた彼の顔を覗き見た。
青白い瞼は固く閉じられている。しかし、よくよく見れば、その鼻には透明なチューブが繋がれており、それを辿れば、体の下に隠れるようにして大きなボンベが沈んでいた。
もう一度彼を見た。顔、喉、組まれた腕の下の胸が、緩やかに上下している。
「……クソッ!!! おい、どうすりゃいい!!!」
チョッパーを背負って泳いできたシャチが悪態をつく。敵船の船医の言う手順通りにあらゆる戒めからローを解放した。
速やかに全員を岸へと連れ戻し、チョッパーに次の指示を聞く。その通りに動く中で、二人は互いをちらと見た。瞳の中には同じ思いがあった。
この戦いの終わりは近い。
だからドフラミンゴは水葬したのだ。この世界のローを、自分でも触れない不可侵の薔薇の海に浮かべて。
終
2022/12/10追記
同じ小説を2022.10.27. 22:27:56付けで「ぷらいべったー」に投稿しています。非公開です。
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