ネクタイと結目
短文SS前提
神斬回避ルート
拠点にしてる家がある2人
クロコダイルの年齢は16くらい手は無事
メルニキ20くらいパンクファッション期(ダイス外)
日が沈む前に今日の訓練を終えてシャワーも浴び終わったというのに珍しくアニキが菓子を持って会いに来ないので様子を見に行くと案の定ソファをベッド代わりにして完全に寝入っていた。
最近趣味にしているらしい仕立ての本を腹の上からどけてやりしゃがんで顔を覗き込むが間抜け面の寝顔は変わらない。
顔の近くまで近づいても目覚めないのはいくらなんでも鈍感過ぎやしないだろうか。
すっかり増えた耳のピアスはジャラジャラうるさくないのか、とか。この一部分だけ髪の色を変えて何が面白いのか、とか。海賊になるならやはり見た目にも強そうな格好が良いんじゃないだろうかなどと思索する。
兄が今着ているのはスーツだが如何せん魔改造が酷く元の原型を留めていない。唯一まともなのはネクタイだが、リボンの様な結び方で今一迫力に欠ける。
一緒に海賊になって並んだ時の兄の理想の服をあれこれ考えながら無意識にネクタイを弄くり回して──気づいた時にはスルリと解けていた。
元々緩くなっていたのだろうしまあいいか。と手を離そうとしてふと、気まぐれにネクタイを結んでみる。
おれにできる事はアニキもできるしアニキができる事はおれもできるはずだ。
ソファに乗り上げて起こさないように体重をかけずに跨りネクタイの両端を持ってたまに兄がしていたまともな結び方を思い出しながら手を動かしていく。
確か幅の小さい方に巻き付けて⋯⋯二度だったか一度で良かったか。とりあえず二回まわすと何だかもう長さが足りなくなりそうだと一回減らして確かこのまま輪っかになった首元からとそこまで進んでも何かおかしいと進んでは戻りを繰り返して考えていた思考に声を抑えた笑い声が混じる。
視線をあげると目を瞑ったまま小さく震えているのにようやく気づいた。
「笑うな」
「ん、ごめ⋯⋯ふふ⋯⋯練習するなら邪魔したくなくて」
「起きたならさっさと教えろ」
笑いながら起き上がろうとするので退いてやると絡まったネクタイをスルリと抜いて膝を叩く。
「正面からだと分かりにくいかな。座って」
「同じくらいの背丈だろ」
「えぇ。大丈夫だよ」
「座ってもできねぇだろ」
「でも毎日フルーツ牛乳飲んでるし」
「だからなんだよ」
何度言っても引き下がらないアニキに押し負けて渋々乗ってやる。
「ぐえ」
案の定潰れた。
ほらみろ、と呆れて振り返るも相手は
「重たくなったねぇ」
などとヘラヘラ笑うばかりだ。腹が立つので内心もっと鍛えて重くなってやる事を決意する。
片手で軽く持ってダンベル代わりにしてやろう。
「幅が広い方は大剣。反対は小剣ね。大剣を長めにして小剣の上に、こう」
後ろから伸びた白いマネキンみたいな手がゆっくりとおれの首にネクタイを締める普段は大雑把なクセに服に関連する事は丁寧だ。
結んだネクタイを解いて今度は手早く動いて手だけ見ていると兄らしくない鮮やかさがある。
「はい。やってみて」
手順を見ればこんなに簡単なものはない。サッと立ち上がるとアニキの前で手早く見栄え良くネクタイを締めてやれば小さく手を打つ音が部屋に響いて少し満足する。
アニキができるならおれもできる。
そう教えてくれたのは目の前の男だ。
「飯の準備しようぜ」
腕を引っ張ってソファから立ち上がらせてキッチンへ向かう。ショコラにもせっかくだから見せてやろうと考えながら。
「クロはすごいね」
当然だ。