ナンパ
いい物をもらったから返します。エピ視点。「そうだ、明日。ズナの野郎とロゴと出かけてくるね」
「はい、行ってらっしゃい。お買い物ですよね?」
「うん」
なんて、コンちゃんとやり取りをしたのはたった十数時間前のこと。昨日の夜である。買い物は買い物なんだけど、メインはズナの野郎がやりたがっていたナンパ。ぼくとロゴはそれの付き添い。
「なぁ、エピ」
「何エピ。エピは、早く春物をみて帰りたいんエピ」
「あの子可愛くね?エピの好みなんじゃねえの?」
「あー。確かに。エピ君、ああいう子好きだもんね」
ズナの野郎とロゴが目線で追いかけた先の子を、思わず目を向けると。確かにそこには、エピのタイプの子が誰かを待っていた。まあ、あんなかわいい子はそりゃ彼氏さんの一人や二人いるよな、なんて思うのだけれど。
「ほら、行けって。俺もロゴも行ったんだから」
「頑張ってー」
「いや、明らかに断られて笑いのネタにする気満々エピじゃん…。あー、はい。行くから、行くから押すなズナ野郎」
渋々、と目線の先にいる女の子に近づくぼく。なんて声をかけたものか、なんて悩みながらも。
「お姉さん、一人エピ?もしよろしければ、エピ達とお茶しない?」
なんて、声をかけて。近くで顔を見れば、とても、言葉に言い表せないほど美少女で。鼓動が早くなるのが分かってはいるけれども、外だし、エピモードを保持しないといけない。ロゴだけならともかく、ズナの野郎に素を見せるのはぼくの気持ちが許さなかった。
「いいですよ。お金はお兄さん達持ちですよね?」
「エピッ!?…ま、まあ、それはもちろん。あ、お名前は?」
「…ソング、です」
「ソングさん。エピはエピファネイア、あそこでこちらを見てる連中はズナの野郎とロゴエピ」
なんて、話しながら、二人の元へと歩いていく。まさか成功するとは思わなかったから、ちょっと驚いている。だって、断れると思ったし、さらに言えば彼氏がいると思ったからである。…少しだけ、コンちゃんに似ているような気がするから、彼氏がいないのは安心したけれど。
…いや、何を思い浮かべているのか。とりあえずはエピモードでメスガキでありながらかっこいいところを見せるお時間である。
お茶をしてる時は、上座にソングさんを優先的に座らせ、もちろんお金は持ち。話題はこちらから振ることもあるけれど、基本聞き役。ロゴとズナの野郎は割とフリーダムだったから、その辺はきちんと処理しつつ。いや、こういうのはナンパを始めたズナの野郎がやるべきでは…?なんて視線を送ったものの、スルーしてくれやがったのでちょっと脇腹に一発入れておいた。
そんな、楽しい時間はあっという間に過ぎて。ズナ達は用事を思い出した、ということで先に帰ったところで。
「な、なんかごめんエピ。ホストはズナ野郎なのにエピにばっかり振ってるから、困っちゃうエピね。…あ、惚れちゃったエピ?」
「………エピさん」
「エピ?」
「ここまでしないと、気が付かないんですか?」
「えっ?どういうこと…えっ、えぴっ!?コンちゃん!?!?!?!?!??」
いつのまにか化粧を落としていた、コンちゃんがそこにいた。いや、いつ落としたの!?そりゃ、さっきトイレから帰ってくるのちょっと長かったかな?と思ったけれど、そんな…えっ?
「エピさん、女性の前だとあんな感じなんですねー?」
「あっ、あのねっ?ぼくにもその…イメージがあるから」
「僕の前ではあんなんみせてくれないのになー?」
「だ、だって………その………惚れた弱みというか…その…」
「ちょっと嫉妬しちゃいますけど…」
「えっ…。あぅ……。で、でもねっ、ぼくがぼくでいられるのはコンちゃんの前だけだから…」
「………ふふっ。わかってますよ。さ、帰りましょ」
ぼくの手を取り、一緒に歩いてくれるコンちゃん。…今度はぼくがぼく自身で、エスコートしたいな、って思うのだけれど。それができるのはいつになる事やら。
……がんばろう。ぼく。