ナイスアイデア
「うへ~・・・!もう疲れたよぉ・・・」
「お疲れ様です、ホシノ様・・・」
アビドス生徒会長の椅子に飛び込む様に腰掛ける。
秘書についている生徒は私に優しく微笑みながら、労いの言葉を投げかけてくれた。
この子は私が選出したお気に入りの生徒だ。
実務能力にも長けており、規模を拡大し続けるアビドスを一緒に支えてくれている。
どこかふわふわとした印象で、胸も大きく私を優しく包み込んでくれる点もまた良い。
・・・あの子に似ているのが、私の最低さを表しているのだろう。
「はぁ・・・しっかしあの学園の生徒会長さん、頑固だねぇ・・・」
「まあそこそこ有名でしたから・・・」
疲れの原因は単純に、幾たびの交渉決裂によるものだった。
アビドスから輸出する砂糖の流通拠点に最適な自治区があるのだが、そこの生徒会長が頑なに首を縦に振らないのだ。
小さな学園故に、武力で擂り潰すことは容易いが、私としてはそうしたくはなかった。
「気分転換に、ちょっと散歩でもしよっかぁ・・・」
「でしたら、元トリニティ生の人達が作った庭園に行きませんか?」
「お、いいねぇ~。」
そうして私は庭園に向かう。
道中には私を敬ってくれるアビドス生達がいた。
以前までは自分を除けば4人しかいなかったのに。
でも、あの4人の代わりにはどれだけ数を揃えてもならない。
私はこの心の飢えを、ずっと抱えたまま残りの人生を生きていくのだと考えると、疲れよりも先に酷く憂鬱だった。
「良い匂いだねぇ・・・」
「はい・・・そうですねぇ・・・」
庭園のど真ん中。
花に囲まれた空間はとても居心地が良かった。
日の光も程よく差し込み、すぐにでも眠ってしまいそうだ。
この幸福感は砂糖にすら匹敵するのではないかとも思ってしまう。
「あの生徒会長さんも砂糖を食べてくれれば、穏やかに話ができるのにねぇ。」
「難しいでしょうね・・・でも、あの方の妹さんであればあるいは・・・」
そんな時に、ふと思い立った事を口にしてみる。
「じゃあ妹さんを砂糖でベロベロにしちゃって、交渉役にしちゃうとかどうかな~?」
「っ!良いアイデアですね!あの方、妹さんへの溺愛も有名なんですよ!」
「ははっ、でも溺愛してるなら無理だよね~。まあ、誰かがやってくれたら最高かもだけど。」
もちろんそんな非道は本気ではない。
だが、多少はカルテルのボスとしてそれらしいことは口にしておかねば。
内側から瓦解など、絶対にあってはならないのだ。
だから私は、何気なく放ったその言葉を放置していた。
──────────────────
「・・・我が校は・・・・・・・・・アビドスの流通拠点の設営をぉ・・・・・・・・・ぐ、うううう・・・・・・!!!」
「認可・・・・・・す、するぅ・・・・・・・・・!!!」
「おめでとうございます、ホシノ様!!」
「「「ホシノ様万歳!!アビドス万歳!!」」」
「・・・・・・・・・」
どうして、こうなったのか。
簡単な話だ。私のアイデアを聞いていた秘書と周囲にいた生徒達が、成し遂げてしまったのだ。
ああ、どうしてこんなことになったのだろう。
砂糖で狂って理性のタガが自分含めて外れてるなんて、分かり切ってたのに。
「はっ、はっ、はっ・・・!ホシノ様万歳!ワン!」
私が握るリードの先には、砂糖で調教されきり、裸に剥かれて犬の真似事までしている生徒がいる。
目の前で奥歯を嚙み砕き、血の涙を流して私に憎悪をぶつける生徒の、愛する妹だ。
ああ、全ては私の責任だ。本当に、どうすればよかったのだろう。