ドレスローザ編終盤(シャンクス顔面殴打)

ドレスローザ編終盤(シャンクス顔面殴打)


「マイク貸して!リッツさん!」

「ギャッツだ!!!マイクだな?別に構わないが…」

ギャッツの差し出したマイクをひったくるように奪い取るとウタは大きく息を吸い込み、足でタンタンとリズムを取り始める。

「フッフッフ…リク王の扇動も、マンシェリーの治癒も見事なものだった…だがそれも、俺が鳥かごの縮める速度を上げれば無駄な足掻きでしかない!」

そう叫ぶと同時に、周囲を囲む鳥かごの収縮は目に見えて早くなる。

「走れー!転んだやつは引きずってでも連れてこい!」

「てめえらもっと気合い入れて押しやがれ!」

民衆は必死に鳥かごから離れるように走り、戦士たちは何とか鳥かごを食い止めようとするが、収縮する鳥かごに少しずつ押し込まれていく。

「フッフッフ…あいつらは何秒持ちこたえられる?マンシェリーの能力は一時しのぎに過ぎない!奴らが瓦解すればこの国はやがて、血に染まる…」


~♪

~~~♪

___さあ、怖くはない不安はない


「……あ?」

「…………」

突如鳴り出す音楽。響く歌声。喧騒の鳴り止まない戦場の地でさえも、それは高く響いた。

ドフラミンゴは訝しげに表情を歪め、対照的にルフィは口元に笑みを浮かべた。その歌が誰のものなのか、理解したから。


♫~

私の夢はみんなの願い

歌唱えば心晴れる

~♪


この戦場の地に、楽器などあるわけが無い。だが、確かに聞こえるのはまるでライブ会場のように力強いメロディと歌声。

「なんだ…?力が、湧いてくる?」

「今だ!押せぇぇぇぇぇ!!!」

「走れ走れ!みんな足を動かせ!」

その歌声を聞いた者たちは力が湧き上がり、市民は走り、戦士たちはより力強く鳥かごを押し始める。


~♪

__大丈夫よ


その瞬間。


~~♪

「私は最強ォォォォ!!!!」


ズズゥン…

「おい、今…」

「あぁ…」

鳥かごが停止した。

だが

ズズ…ズズズ…

「いや、一瞬だ!また動き始めてる!」

鳥かごが止まったのはわずかな時間。だが、それでも止められたことは事実。そのきっかけを作った少女にドフラミンゴは激しく怒りを募らせ怒号を上げる。

「あの小娘が!」

「よそ見してんじゃねえ!」

「グッ!」

だが、眼前にいるルフィはそれを良しとはしない。目の前を掠めた拳と今も尚歌い続ける少女を忌々しげに睨みつける。

「鳥かごはウタとみんなが何とかしてくれる!俺はお前をぶっ飛ばすだけだ!」

「フッフッフ…。それが、続けばだがな」

~♪

さあ握る手とッ……

「うっ…ガッ!」

その時、唐突にウタは口から血を吐いた。

「ウタ!!」

「フッフッフ…よそ見するなと言ったのは誰だ?」

「クソォ!」

「はァ、はァ…げほっ!ごほっ!」

血が喉に入りむせ、それでもまだ血は吐き続ける。

そもそも、今の彼女がここまで歌えたことも奇跡に等しい。12年間使われることのなかった喉に、彼女の歌唱は余りにも負担が大きすぎた。

そして、歌が止めばまた鳥かごは勢いを増す。

「お母さん!」

その声が聞こえた方に思わず目を向けると、そこには倒れる女性と駆け寄る少年…そして、鳥かごが迫っていた。

「フッフッフ…さあどうする?始めの犠牲者が出るぞ!」

「させなっゲホッ!うぐッ……はぁ…はぁ…………………ぇ?」

歌おうとしても出るのは血液ばかり。親子が切り裂かれる姿を幻視しかけたその瞬間…鳥かごの外にある存在に気がついた。

ドレスローザの沖、遠く離れているためか小さく、しかし確実にそこに1隻の船がいること……そして、その甲板に立つ隻腕の人影に。

「ぁ………」

その人影は右手に携えた剣を横に振り抜くと……

「なっ!!?」

鳥かごは、上下2つに切り裂かれた。

ドフラミンゴはそれを引き起こした男に向かって声を上げる。

「赤髪…!!」

ドレスローザ沖に鎮座するその船は…四皇の海賊船だった。

ドフラミンゴが思わず赤髪に意識が向いた瞬間。

目の前にいる男への意識が疎かになった。

「これで…!終わりだ!」

「ッ!!」

ルフィは、その両手に強烈な覇気を纏い、更に空気を送り込み巨大化させる。

ウタもまた、血を吐きながらもマイクを構え、声を響かせる。

~♪

あぁ、きっとどこにも無い

ゲホッ

~~♪

あなたしか持ってないその温もりで


「ゴムゴムの…」


「お頭、行かないので?」

「……あぁ」


~~~♪

私は最強!!!


「キング…コング…」


「これは、ルフィとウタの、戦いだからな」


~~~~♪

あなたと最強!!!!!

「ガトリング!!!!」



「ルフィ!」

最後の一撃を出したルフィは急激に身体を縮めながら上空から降ってくる。ゴムの体を持つ彼にとって特に致命傷になる高さではないものの、ウタは慌てて下に駆け寄り受け止めた。

「ウタ…」

「あはは、疲れた?」

「……ごめん」

ルフィは力の入らない体でウタの背中に手を回し、引き寄せるように抱きしめる。本当にそこにいる事実を確かめるように。

「いいの。ずっと傍に置いてくれてありがとう」

「………」

ウタの答えにただ、抱きしめる手を強くするルフィ。少し苦しそうにするが、その感覚すらも心地よいと思える。少し経ち、ルフィは抱きしめる手から力を抜く。

「なあウタ、シャンクスのとこ行ってこいよ」

「え?…あ、じゃあルフィも」

「しっしっし…俺が会うのは、この帽子を返す時だ。だから行ってこい」

「………うん。分かった!」

そう言いながら、能力で生み出した音符に乗り海岸へと向かおうとするウタへと声をかける。

「ウタ。……お前は俺の仲間だぞ」

「…あはは、当たり前でしょ!」

ウタのその返答を聴き、勢いよく加速していくウタを見送ったルフィは、そっと意識を手放した。



「会わないのか?」

「あぁ。少し頭に血が昇っていたから来てしまったが、俺は今さらどの面下げて会えばいいんだ?」

「しかし…」

「いいんだ。1目見れて良かった」

そう言いシャンクスは拠点としている島へ向けて舵を取るように指示する。最後にドレスローザの方をちらりと振り返ると、海岸から勢いよく飛び出してくる人影に気がついた。

「あれは…まさか」

「シャァァァァァァァァンクスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

その姿、声は記憶とは大きく違う。しかし決して間違えようがない彼女は、音符に乗りながら海岸を超え海を渡ってくる。

「ウタ……」

会えないと思った。会う資格など無いと断じた。しかし、彼女の方から求めてくるのを受け入れないことなどありえない。

だからこそ、受け止めようと腕を広げたところで…

「ん?」

ふと、違和感に気がつく。長年会えなかった親に子供が飛びつく時など、諸手を上げているはずだろう。

しかし彼女は、深く腰を落とし、手のひらは開かず握り締められ、さらには上体を軽く捻った姿勢でやって来ている。

そして急激に加速した勢いのまま…

「おっ、おいウタ!?まさか!」

「オラァっ!」

「ブホォっ!!!!」

「「「お頭ァァァァァァァァ!!!!!」」」

拳を盛大に振り抜いた。

「フンスッ!」

鼻息を荒らげ少女はよーし!とでも言うように満足げな表情を見せる。だが、すぐに自ら殴り飛ばしたシャンクスの胸に飛び込んだ。

「痛たた…おっと、ウタ?」

「……シャンクス」

「…」

「私は、あの時のこと忘れてないからね」

「うぐっ…ごめん…」

「でも…」

ウタはシャンクスにしがみつきながら、溢れ出る涙を抑える事が出来ないまま…

「会えて、よかった。会いたかった」

「…」

シャンクスは、少し迷ったがウタの身体を抱き寄せる。すると、決壊したようにウタは声を上げ泣き始めた。それを彼女が落ち着くまで、シャンクスたちは静かに見守っていた。

「ん!スッキリした!」

そう言いウタはシャンクスの体から離れる。

「…これからはどうするんだ?」

「決まってるでしょ。ルフィのとこに戻る。だって私は、麦わらの一味の歌姫、ウタだからね!」

「そうか…」

「それじゃ、私は帰る!…ねえシャンクス」

「なんだ?」

「ルフィは会わないって言ってたけど、何かないの?ほら、伝えることとか」

「ルフィ…か。そうだな、じゃあ1つ…_____と、伝えてくれ」

「ふふ、分かった!じゃあ次会う時は敵同士!容赦しないからね!」

「あぁ、受けて立つ」

互いに不敵な笑みを浮かべ、笑い合うとウタは船を飛び出しドレスローザへと戻って行った。


_____翌日

「うがァァァァァァ!肉ー!!!」

「ハイハイ、そこに用意してあるよ」

「お、ウタ!ありがとな!」

「お前寝起きに…いや、寝ながら食ってるような奴だから今更か」

目覚めたルフィは傍に用意してあった肉に手をつけ始める。しばらくは夢中で食べ進めていたルフィだったが、ふと隣にいるウタに問いかける。

「そうだ、ウタ。シャンクスには会えたか?」

「え?あぁ、うん。ちゃんと会えたよ」

「にししし、なら良かった」

満足げに笑うルフィを見ながら、ふと伝言を頼まれていたことを思い出す。

「あ、そうだ。ルフィ、伝言があるんだけど」

「あ?シャンクスからか?」

「うん。_________ってさ」

「…………しっしっし、よしウタ!」

伝言を聞いたルフィは食べるのを止め、立ち上がる。

「海岸まで競走だ!」

「え…?ふふ、いいよ。競走ね」

「は?おいルフィ!ウタ!」

ウソップの声を聞き流し2人は扉に向かい構え始め…

「よーい…」「「ドン!」」

「……騒がしい奴らだな」

2人が飛び出した扉を眺めながら、ゾロは笑いながら呟いた。

海岸へ向かう競走は白熱していた。

ウタは能力で生み出した音符に乗りながら飛行し、ルフィは既に体から蒸気を発しながら駆け抜けていた。

「へへ~ん」

「こんのぉ…」

ルフィが僅かに早く、ウタがその背を追う形になっているため、ルフィが振り返り笑みを浮かべる。ウタは悔しげに口元を歪めるが、すぐに笑みを浮かべ口を開く。

「あ、ルフィ!そこ!ヘラクレス!」

「なんだってぇ!?」

その言葉にルフィは反射的にそちらの方を向いてしまい減速したルフィの隣をウタは通り過ぎる。

「おさき!」

「あー!!!!!!!!」

ルフィを抜き去り、先に海岸に到着したのはウタだった。

「はい、私の勝ちー!って、うわぁ!」

「ウタ!」

海岸に着いたはいいがその勢いあまりウタは海に落ちてしまう。幸いにも浅瀬のため溺れることは無かったが、ルフィは慌てて腕を伸ばし手繰り寄せる。

「ウタ、大丈夫か!?」

「あはは、大丈夫大丈夫。あ、でも…ねえ、ルフィ」

「どうした?」

「濡れると、寒いね。……でも、ルフィは暖かいね」

そう言いながらルフィの身体を抱き締めるウタ。その温もりを感じるために。

「あ、でも海岸には私が先に着いたら私の勝ちだよ?」

「なわけあるか!落ちたんだから俺の勝ちだ!」

「出たー負け惜しみー」

「うがー!!」

しばらくは言い合っていた2人だが、やがて笑い声に変わっていく。

「行っちゃったね」

「また会うさ。帽子を返すために」

「…うん」

水平線にはもう影も形も見当たらない。だが、あの時確かにシャンクス達はそこにいた。

「よーし!!!」

「…?どうしたのルフィ」

急に立ち上がるルフィをウタは不思議そうに見上げる。

そんなウタを横目にルフィは海岸に立ち、両手を上げ大きく息を吸い込みはじめる。

そして…


「海賊王に、俺はなる!」

水平線の向こうにいるであろう人物に向け、大きく叫んだ。


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