ドラム島編inウタ4
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血を吐き出しながらバクバクの真の力"バクバクファクトリー"、それを見せてやろうと立ち上がるワポルを見てチョッパーはあいつ何かする気だと警戒を強める。
そこへくれはが油断しないこったねと忠告する。
「あいつらがもし本当に弱かったら…"医者の追放"なんてバカなマネ…国民全員で止めてたはずさ………それにあいつ…ワポルの兄ムッシュール、"ノコノコの実"の能力者…!!あいつはやばいよ」
「"ノコノコ"…?キノコ!?」
「へェー…あのおかっぱおじさん、あいつのお兄さんなんだ。どうやばいの?」
「…あれは確か20年前のことだったかね……」
そしてくれはの口から語られたのはムッシュールの過去。20年前、当時13歳だったムッシュールは世界会議で先代の王が国を留守にしてる間に城の大砲を使って一つの爆弾を打ち上げ多くの死者を出したという。退屈しのぎに能力を試してみた…そんな理由で。
その後、世界会議から戻ってきた王は国民達に詫びムッシュールを国外追放したという。
「それからさね…この国が医療大国だなんて大層な名前で呼ばれるようになったのは」
「…そ、そんなことが……しかしくれはさんよ、爆弾一発でなんでそんなことに?」
「………"ノコノコの実"最悪の能力、"胞子爆弾(フェイタルボム)"…こいつを打ち上げちまったからさ」
"胞子爆弾(フェイタルボム)"…それは腹に貯めた猛毒胞子を10年に一度砲弾として体外へ出す事が出来る技だという。不幸中の幸いか、20年前のその日は風が強く胞子の滞留時間が短くどうにか全滅は免れたのだとか。
しかし、今はそれから20年…もし一度も使われずにいたとすれば当時のものとは桁違いの威力を有する事は間違いない。無論キノコの性質を持つがゆえに火に弱いと言われてはいるがとくれはは付け加える。
そしてくれはによるムッシュールの能力解説が終わるとワポル達はルフィらを消すために動き出す。
「チェス…!!今朝からのおれ様の献立を言ってみろ…」
「はっ!!…え〜〜船内にて"大砲のバターソテー"1門と"生大砲"1門、"砲弾と火薬のサラダ"に村で"焼きハウス"一軒分となっておりますが」
「何食ってんだお前」
「ほんとに雑食この上ないね…」
「見るがいい…食後こそバクバクの真の能力…!!!食物はやがて血となり肉となる…!!!"バクバク食(ショック)"!!!!」
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「家!!?」
『スゲーーーっ!!!』
両腕を大砲に変え体を家の形へと変貌を遂げたワポルにルフィとウタのみならずムッシュールまで感嘆の声をあげていた。だがワポルのバクバクの能力はこれだけに留まらなかった。
「驚くのはまだ早い……!!!これが王技!!"バクバク工場(ファクトリー)"!!!」
『い!!!ぎゃあああああ!!!』
突如ワポルは味方である家臣二人に噛みつき咀嚼し飲み込んでいく。共食いだと驚き若干引き気味な一行とムッシュールを無視してワポルは腕の大砲と頭から生える煙突から煙を吹き出していく。
「さァ見るがいい"奇跡の合体"!!いでよ!!!」
「何……!!?まさか二人の人間が…」
「合体!?」
『我こそは…ドラム王国最強の戦士…』
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「肩車しただけじゃないかい」
『すっっっっげーーーーー!!!』
重々しく登場した割には肩車しただけの姿にくれはは辛辣なコメントを出すがルフィとムッシュールはいたく感動しキラキラとした視線を向け、ウタはキラキラとまでは行かなくとも感心したような顔で親指と人差し指で顎を挟みながらチェスマーリモを眺めていた。
そして戦闘準備万端といった様子のワポルはドラム王国憲法第一条「王様の思い通りにならん奴は死ね」とドラム王国のあるべき姿を語り、ヘボ医者の旗なんぞ掲げんじゃねェと腕の大砲から砲弾を打ち上げヒルルクのドクロのマークを吹き飛ばしてしまう。
「まっはっはっはっはっはっ」
「……海賊旗…おいトナカイあの旗…」
吹き飛ばされた海賊旗が何なのかをルフィはチョッパーに問いかけるが答えは帰ってこず、チョッパーはただただ吹き飛ばされた海賊旗を呆然と見上げるのみだった。それを見て何かを感じ取ったのかルフィがその場を後にし、チョッパーは何してんだとワポルに食ってかかる。
「ドクターは!!お前だって救おうとしたんだぞ!!!」
そして拳を振り上げるチョッパーだったがヒルルクの人間を恨むなよという言葉がそれを振り下ろすのを躊躇わせる。
「おれは…お前を殴らないから、この国から出て行けよ!!!」
「……………あ?」
「何言い出すんだいチョッパー!!!そいつが説得に応じる奴だとでも思ってんのかい!!?」
「………だって…やっぱり………」
「フン…」
チョッパーが拳を振り下ろさなかったのをいい事にワポルは容赦なく大砲から砲弾を撃ち放ちチョッパーを攻撃する。
そこへ城の頂上から吹き飛ばされた旗を立て直したルフィの声が響き渡る。
「おい邪魔口!!」
『ワポル様あれを…!!!』
「ん!?麦わら!!」
「ウソッパチで命も賭けずに海賊やってたお前らは!!!…この海賊旗の意味を知らねェんだ!!!」
「…何をォ!!?」
旗の意味を問われたワポルはそんな海賊どものアホな飾りに意味なんぞあるかと笑い飛ばすが、ルフィにだからお前はヘナチョコなんだと言われ顔を歪ませる。
そしてルフィは再び立った旗を握りしめながら口を開く。
「これは!!お前なんかが冗談で振りかざしていい旗じゃないんだ!!」
「カバめっ!!冗談でなきゃ王様のこのおれが海賊旗などかかげるか!!!その目障りな旗を立て直すんじゃねェよ!!!ここはおれ様の国だと言ったはずだァ!!!!何度でも折ってやるぞそんなカバ旗など!!!」
「あっ…!!また……!!!」
「よけろ危ない!!!」
「お前なんかに折れるもんか、ドクロのマークは…
"信念"の象徴なんだぞォ!!!!」
ドクロのマークの理念を叫ぶと同時にワポルの放った砲弾が直撃したルフィ。誰もが海賊旗もろともルフィが吹き飛ばされたと思ったその時、爆煙が晴れると同時に見えてきたのは根元の部分が折れながらもルフィが握りしめる事で折れない海賊旗の姿があった。
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そのイカれた姿に驚くワポル達に対してルフィは血を流しながら言葉を続けていく。これがどこの誰の海賊旗かは知らないが、これは命を誓う旗だから冗談で立ってる訳じゃねェんだぞと。
「お前なんかがへらへら笑ってへし折っていい旗じゃないんだぞ!!!!」
ルフィの激しい剣幕にワポル達が圧倒される横でチョッパーは海賊というものの迫力と偉大さに震えていた。これが海賊…!!!すげェ…!!!と。
そこへルフィからこいつらブッ飛ばすけどお前はどうすると問われたチョッパーはしばし考え込み、再びルフィを砲撃しようとするワポルへと向かっていく。
が、それをチェスマーリモが阻止する。
『ムハハハハ残念だったな、ワポル様にはこのおれが指一本触れさせんっ!!』
対峙するチョッパーとチェスマーリモの後ろでワポルは危ねェ危ねェといった様子で二人を見下ろしながらさっさと奴らを殲滅しろ!と命令を下す。だがそこへ横からまァちょっと待てよとルフィの行動を見て少し真剣な表情を浮かべたムッシュールが声をかける。
「ワポル…お前は先行って準備しておけ。おれはちょっと楽しませてもらおう…!!」
そう言いムッシュールは一気に飛び上がっていき、旗を城の頂上に刺し込むルフィの元へ行くと腕をドリルのような形に変え突きを繰り出していく。
「"スピンドリル"!!!」
「おあっ!!」
何とか躱し城の屋根付近に着地したルフィだったがすぐに追いついたムッシュールに怒涛の追撃を仕掛けられ宙へと投げ出されてしまう。
「"傘乱舞(シェードダンス)"!!!」
『ルフィ!!!』
「大丈夫か!?麦わら帽子!!!」
ムッシュールの頭から放たれた菌糸の弾丸により地面へと撃ち落とされたルフィをウタとサンジ、チョッパーが身を案じるが、チェスマーリモが他人の心配なんぞしてる場合かとチョッパーへ語りかける。
誰からも好かれねェ人生を送ってきた哀れな怪物で一人ぼっちのお前に何が出来るのかと嘲笑われ、チョッパーは仲間がいなくたってドクターの旗がある限りおれは戦えると啖呵を切る。
そこへ撃ち落とされたルフィが何事も無かったように立ち上がってくる。
「仲間ならいるさ…おれが仲間だ!!!」
「麦わら帽子!!お前大丈夫なのかっ!!?」
「おれは平気さァゴムだから」
「ゴム!?なんだそれ……」
「あァ…要するに……バケモノさ」
ルフィをバケモノだと言い笑いかけるサンジに困惑するチョッパー。そこへムッシュールがだべってんじゃねェと飛び上がり再び菌糸の弾丸を撃ち放とうとするが、ウタが持っていた槍を構えムッシュールへ向けて投擲する。
「今いいとこだから……邪魔しないでよ!!!」
「のわっ!!っとと!!……危ねェなおい」
ウタが投げた槍を空中で身を翻し躱したムッシュールはそのままワポル達のそばに着地する。
ウタも自分が投げ、落ちてきた槍を華麗にキャッチするとムッシュールを見据えルフィへ話しかける。
「ねえルフィ…あのおかっぱおじさん私がもらっていい?」
「おう頼んだ!!…おいトナカイ、お前あいつを仕留められるか?」
「なんて事ねェ!!!あんな奴」
「じゃあ決まりだな」
トントン拍子でそれぞれの対戦相手が決まり対峙していく。ルフィはワポルと、ウタはムッシュールと、チョッパーはチェスマーリモと向かい合う。
「おれの相手は邪魔口だ!!!」
「邪魔はお前だ麦わら、どこまでも歯向かいおって…!!!」
「そういう訳で、あんたの相手は私だよ!!!」
「おれはあの麦わら小僧と戦りたかったが……まァいい、精々楽しませろよおい!!!」
「…もう迷わないぞ…!!!」
「おまえがおれを倒せるって!!?えェ!!?化け物!!!」
一触即発の雰囲気の中、一番初めに動きを見せたのはチョッパーvsチェスマーリモのところだった。"ランブルボール"という丸薬を取り出したチョッパーは3分でお前を倒すと宣言してみせたのだ。その衝撃的な発言に対峙するチェスマーリモだけでなく、ルフィとウタばかりかワポルとムッシュールまで驚き戦いの手を止めてしまう。
そんな中で始まったチョッパーとチェスマーリモの戦い。チェスマーリモの4本の腕から仕掛けられる怒涛の攻撃を動物系の変形能力で躱すチョッパーだったがその変形数は動物系のあるべき姿である三段階に収まっていなかった。
"ランブルボール"の力により悪魔の実の波長を狂わせたチョッパーは七段変形の能力を手に入れたと口にし、七段変形というあまりにも魅力的すぎるその語感にルフィは完全に戦闘を放棄してしまう。
ウタとムッシュールもルフィ程ではなくとも七段変形の魅力に取り憑かれ、チョッパーの戦闘に釘付けになり戦闘どころじゃなくなってしまう。
そうして一人取り残されたワポルがこそこそとその場を後にした頃にはチョッパーとチェスマーリモの戦いはチョッパー渾身の"刻蹄「桜(ロゼオ)」"がチェスマーリモのアゴにクリーンヒットしたところで3分経過と共に終わりを告げる。
「やったーーーー!!トナカイーー!!!」
「トナカイ君すごいっ!!」
「中々やるなァおい!あのトナカイ!!」
戦闘を半ば放棄し観戦していた三人が思い思いに感想を述べる中、ワポルがいないことに気づいたルフィとサンジは毛カバで登ってきて2匹目が寝てこの場にいる以上、山を下りた訳ではないだろうとワポルを探しに城の中へと入っていく。
だがそれをムッシュールは許さず、腕を大きく振り上げ地面を伝う菌糸でルフィを拘束する。
「待ちなァ!!"走菌糸(ラン・ハイファー)"!!!」
「うわっ!!なんだ!?」
「ムッシュッシュッシュ!!あれでも一応たった一人の弟だからなァ……それを害しようとする輩をみすみす逃すかってんだこのカパ野郎が!!!」
「ルフィ!!じっとしてて!!"繰り返す協奏曲(ダカーポ・コンチェルト)"!!!」
拘束されたルフィの元へすぐにウタが駆け寄り、十字状の切り払いによりルフィを拘束していた菌糸を叩き切る。
自由になったルフィはウタに礼を言いながら城の中へと消えていきその一部始終を見ていたムッシュールはフンと鼻を鳴らしながら口を開く。
「ケッ!!余計なマネしやがって……中に入っていっちまったじゃねェか」
「余計なマネはそっちの方でしょう!?あんたの相手は私なんだから他には手を出さないで!!……それに同じ手のかかる弟を持つ者同士、仲良く行こうよ!!」
「弟ォ?そんな似てるようにゃ見えねェがなァ……」
「そりゃそうだよ。別にルフィと私は実の姉弟って訳じゃないし……でも、ここまでずっと一緒に過ごしてきたんだから似たようなもんでしょ!!?」
「そうかァ??……まーいい、ちゃっちゃと終わらせてこの腹に溜め込んだ爆弾派手に打ち上げて終いにするか!!」
言葉による問答を終え戦闘態勢へと移るウタとムッシュール。互いを見据えじっくりと伺い、最初に仕掛けたのは右腕をドリルの形に変えたムッシュールの方からだった。
「食らいな!!"スピンドリル"!!!」
「よっと!!当たったらひとたまりもなさそう…!!」
身軽に躱しそう言うウタの目の前では先程まで立っていた地面を鋭く貫通させたムッシュールがいた。
ルフィの拘束を解き、自身の攻撃も軽やかに躱してみせたウタにムッシュールは密かに苛立ちを募らせ、舌打ちと共に次なる攻撃を仕掛けようと雪に埋もれた腕を引き抜く。
「ったく……チョロチョロと動き回ってメンドクセーなこのカパ野郎が!!これならどうだ!?"大増殖(ロット・ステイフイン)"!!!」
「うわっ!!増殖した!?」
奇妙な踊りから放たれた紫色のキノコの形をした胞子はムッシュールの姿へと変形し、ウタを取り囲み猛烈怒涛の連打を食らわせる。
だがウタも負けてはおらず、その連打の全てを手に持つ槍や蹴りで対抗し、いなしていく。
「くっ…!!負けるもんか!!」
「ムッシュッシュッシュ!!辛そうだなおい!!今楽にしてやる……!!"雪胞子(スノウ・スポール)"!!!」
「まずい、毒胞子だ!!!避けな小娘!!」
「言われなくても……!!"低音域の遁走曲(フラット・フーガ)"!!!」
胞子の分身と打ち合うウタをムッシュールは毒胞子の波で飲み込もうとするがそれをウタは分身達を切り裂きながら後方へ飛び上がり回避する。
必殺コンボを躱されたムッシュールは不満げな表情を浮かべながらもやるな…とウタのすばしっこさに感心していた。
「だが……おれ様の毒胞子はしばしの間その場に漂う……吸えばひとたまりもないぜェ!?」
「なら吸う前にさっさとケリつけてあげる!!"急速な練習曲(プレスト・エチュード)"!!!」
「のわァああ!!!」
ウタの鋭い一撃がムッシュールの胴体を貫き決着がついたかのように見えたその時、貫かれたムッシュールの体が霧散し消えていく。先程生み出された胞子の分身より精巧な身代わりを用意していたムッシュールはウタの一撃を難なく回避し、本体は既に後ろに回り込んでいたのだ。
「残念!!"スピンドリル"!!!」
「キャッ!!!また分身を……!!!」
「まだまだァ!!"傘乱舞(シェードダンス)"!!!」
ムッシュールの攻撃を持ち前の身のこなしで直撃は回避したウタだったが手痛いダメージを負ってしまう。そこへ間髪入れずにムッシュールは頭から菌糸の弾丸を放ち追い討ちをかけていく。
誰がどう見てもムッシュール優勢の戦況。その上空気中に漂う毒胞子をウタが吸ってしまえば戦況は完全にムッシュールへ傾くと判断したくれははチョッパーへ指示を飛ばす。
「チョッパー…城の中から松明持ってきな。ただでさえ不利なのに毒胞子まで吸っちまったらただじゃすまないよ……早くしな!!」
「お…おうわかった!!」
くれはの指示に従いチョッパーは城の中へと入っていく。城の中ではスリムアップしたワポルとルフィが鬼ごっこをしていたがそれを一瞥だけしたチョッパーは松明を持ち出し火をつけ正門前へと戻っていく。
そこではチョッパーが城の中へ入っていく前よりもウタは追い詰められていた。
「ハァ…ハァ…!!」
「なんだ、もう限界かァ!?もう少し楽しめると思ったんだがなァ!!"ツイン・スピンドリル"!!!」
「ぐっ…!!キャアアア!!!」
息切れし始めたウタにトドメを刺そうとムッシュールは両腕をドリルの形へ変え、貫こうとする。それを両腕で握りしめた槍で防いだウタだったが、ムッシュールの強烈な突きにより槍を三分割されその場に倒れてしまう。
倒れたウタを見たムッシュールは下劣な笑みを浮かべると足を大きく振りかぶり、ウタを蹴り飛ばす。
「ムッシュッシュッシュ……さァ毒胞子を吸って楽になれい!!!」
「ああっ!!」
「させるかァーー!!!ええいっ!!」
毒胞子が漂う空間へウタが蹴り飛ばされあわや毒に侵されるという寸前のところでチョッパーが投げた火のついた松明が漂う毒胞子に引火し、瞬く間に全ての毒胞子へ火が回り落ちていく。
それによりウタは毒胞子に蝕まれることなく雪の積もる地面へボフっと落下する。
「あうっ!!」
「おいお前!!大丈夫か!?どこか体に痺れとかないか!!?」
「痺れ…?ううん大丈夫!!助けてくれてありがとうトナカイ君!!!」
「なっ……れ、礼を言われる筋合いなんかねェぞコノヤローが!!」
「感情が隠せないタイプなんだね」
松明を投げ助けてくれた頼りになる大男から可愛らしい小さな姿へと変形しニコニコとするチョッパーを見て頭の中でのみ可愛いと呟いたウタはすぐに目の前の敵へ視線を移す。
さてどうしようかと思考を巡らせた時、ウタは視界の端に捉えた松明に目をつける。
「……あ!いーいこと思いついちゃった!!これならいける!!!」
「んん…!?なんだよおい、まーだやるってのかァ?いい加減諦めろこのカパ野郎が!!!」
「諦める訳ないでしょ!?もうあんたを倒す算段はつけたからね!!!」
倒す算段はつけたというウタの両腕には三分割に折られ遥かに短くなった槍と再び火を灯した松明が握りしめられていた。
その内の片方、松明でメラメラと燃える炎をムッシュールは嫌なものを見るような目つきで睨むと大きくため息をつく。
「ハァ……そんな火を一つ持ったくらいでおれ様に敵うかカパ野郎!!!メンドーだ……こいつで終わらせてやる!"クロスシェード"!!!」
直接相手をするのも面倒になったのか、ムッシュールは体中から帯状の胞子を撃ち出しウタへ襲いかからせる。だがそれをウタは手に持つ短くなり小刀程のサイズになった槍と松明に灯る炎で振り払いムッシュールへと突進していく。
そして僅かに出来た隙を縫いウタは松明をムッシュールへと投げ飛ばす。
「これで……燃え尽きろ!!!」
「ぬうっ!?……チョアーッス!!!そう簡単に燃やされるかァ!!!んあっ?どこ行った!?」
投げられた松明を手刀で叩きおったムッシュール。だがその視界の中にウタを捉えられず、キョロキョロと辺りを見渡すと頭上から通りの良い声が響いてくる。ウタの声だ。
「そっちは囮だよっ!!こっちが本命……!!!」
「んなァっ!?炎!!?ぐっ……"クロス……!!」
「"重々しく燃え盛る受難曲(グラーヴェ・フレイム・パッション)"!!!!」
「ギャアアア熱ちちちゃあ!!!」
槍に灯した炎をムッシュールに悟らせぬよう松明で意識を逸らせたウタは大きく飛び上がり反撃する隙も与えずに素早く、かつ全力で振り下ろす。両断されたムッシュールは斬られた痛み以上に燃え移され焼かれる痛みに悶え雪の上でのたうち回る。
それをチラリと見ることもなくウタは槍に灯った炎をサッと振り払うとニコッと笑みを浮かべながらリトルガーデンで見たゾロの剣技を思い出していた。
「ゾロのあれ……私もやってみたかったんだよね〜!!フフ、満足っ!!」
「ヒッヒッヒッヒッヒ!!大した小娘じゃないか!!!」
「すげェ……!!」
「……でも、これでやられるほどヤワじゃないよね………やっと歌う隙も出来たし……二人とも!!耳塞いでてね!!今からこの戦い終わらせるから!!!」
「何かする気だね……ここは従っておくとするかね」
くれはとチョッパーが耳を塞いだのを確認したウタは持っていた槍をマイクに見立てて口元に持っていき、雪に埋もれているムッシュールに向き直る。
しばし雪の中で消化に勤しんでいたムッシュールは自分にまとわりついていた炎が完全に鎮火すると雪の中から飛び出し身震いする。
「クソッ!!なんてことしやがる……雪があって助かったぜ…!!このカパ野郎がァ!!!もう許さん………てめェはここで処刑してやる!!!食らえ!!"胞子(フェイタル)………!!!」
「残念、もう遅いの!──新時代はこの未来だ 世界中全部変えてしまえば──♪」
「ボ……?………んがァ……」
「───────♪ はい、一丁あがりィ!!はぁ疲れた……」
くれは達から見たらウタが何か歌うようにして口を開いたかと思えば焼き斬られてもなお元気なムッシュールが突然眠ってしまうという荒唐無稽なその光景にチョッパーは思わず声を漏らす。
「えっ…お前……何したんだ……!?」
「んー?あーこれね!!言ってなかったけど私能力者なんだ。"ウタウタの実"っていうやつで…歌を聴いた人をウタワールドに連れていくっていう能力なの!!今そこでこのおかっぱおじさんはガッチリ拘束してるし、ここにいるおじさんもしばらくは動けないから安心してね!!」
「……?よくわかんないけど、お前が勝ったってことでいいのか!?」
「もっちろん!!私の歌の大勝利だよ!!!」
「そうか……なんか、すげェんだなお前……………どうしたのドクトリーヌ?」
自身の能力について快活に話すウタを見てチョッパーは感心と困惑が入り混じったような表情を浮かべていたが、くれはは少し難しい顔をしていた。
チョッパーが声をかけ見上げてきた事に気づいたくれははなんでもないよと言いながらウタへ話しかける。
「"ウタウタの実"……確かにそう言ったね」
「…?それが何か……あ!もしかして知ってるの!?"ウタウタの実"!!実は有名な能力だったり?」
「いやァ……ほんの昔に聞き齧ったことがあるだけさね………まァいい、とりあえずそこにくたばってる奴らをさっさと縛り上げるよ!!また起きられたらたまったもんじゃないからね」
そう言いくれはが指し示す先にいたのはチョッパーに殴り倒されたチェスマーリモと大きないびきをかくムッシュールの二人。
くれはの指示通り縛り上げている最中にドラム王国を巡る戦いの決着を告げる一撃がドラム城頂上で決まっていく。
「やっちゃえルフィー!!!」
「ドクトリーヌ…ドラム王国が……!!」
「この国は………ドクロに負けたのさ。ヒッヒッヒ」
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