ドラムの空
「キャプテン!もうすぐだよ!」
明るい声が艦内に響き、クルーたちの歓声がそれに続いた。
いつも話し声やらなにやらでそれなりに賑やかなこのポーラータング号は今、とある冬島を目指している。
ドラム王国。十年ほど前までは、世界一の医療大国と呼ばれた国だ。
医者狩りとヤーナム医療教会の台頭により名声は過去のものになっているが、国中の医師が愚かな王とともに逃げ出してなお、一番の名医がひとり残っていることをおれは知っていた。
ヤーナムに引き入れたドラムの医師たちから揃って聞いたその医者の噂は二つ。
ひとつ目。どんな病でも必ず治してしまえる国一番の名医である。
ふたつ目。患者に法外な治療費をふっかける、がめついババアである。
だが、使える医者なら医師団に加えてやろうと用意した多額の契約金は、鼻で笑われ突き返された。
そして、究極の悪魔の実とも呼ばれるオペオペの実でさえ天竜人の血の病を治せないと知り、半ば自棄になっていたおれを張り飛ばしてこう言ったのだ。
「究極の悪魔の実だって?そんな実ひとつで万病を治せるならね、この世に医者なんていらないんだよ!!!」
目の醒めるような言葉だった。その頃のおれにとって、もはや医者を集めるという行為さえヤーナムの地盤を固めるという程度の意味しか持ってはいなかったから。
「"奇跡"なんてもんを起こせるのは、いつだって人の意志だけさね…」
それであんたは、泣き言を漏らしたくてわざわざこんな国まで来たのかい?
「……おれは」
おれは、何がしたかった?
あの夢で、優しい声に返した答えを、もう一度。
ロー、夢はあるか?
「おれは立派な医者になって、産まれて来たことが罪になる命なんて無いって証明したい。おれの病を治してくれた恩人を、今度はおれが治すんだ!!」
そのためならなんだってしてやると啖呵をきったおれに、彼女は高笑いをしてこう返した。
「"ドクトリーヌ"と、そう呼びな!」
奇跡の医療者と呼ばれていたおれは、そうして一人の医者見習いになった。