ドムサブ
麦わら×白猟
DomSubユニバース
見たいとこだけ書いた
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海軍将校のスモーカーは駄犬である。それは海軍にとっては周知の事実だった。違反上等、生意気、気に食わないなら上官であろうが噛みつきに行く。指示をすれば、独断でそれ以上のこともしてくる。上官なら逸品だが部下とするには非常に厄介な男であった。情報を“取ってこい”と言えば海賊丸ごと“取ってくる”のがスモーカーである。指示“通り”に動かないその様を見た誰かがいつしか彼を野犬——駄犬と揶揄するようになったのだ。
ひどい呼吸音が狭い路地裏で響く。嫌に高く掠れた音が何度も繰り返された。音の発生源の足元はおぼつかず、倒れないよう慎重に一歩ずつ踏み出される。それでも背の丸まった身体は徐々に傾いていき、ついには壁にもたれた。支離滅裂になった頭の中はいつまで経ってもまとまらず、涙はボロボロと煩わしいくらいに流れてくる。
(とまらねえ……)
痛い頭と涙で揺れる視界では歩くのも困難だった。蹲り、そのままジッと渦巻く不快感が過ぎ去るのを待つ。それは男——スモーカーにはどうにもできないモノだった。
なにも今に始まった事ではない、十数年付き合ってきたモノだだ。待っていれば、大人しくしていればいつかは落ち着く。そう頭の中で繰り返しながら愛用の十手を抱え込み、壁に背を預けた。固い十手を額に当て、嫌な熱が奪われるのを待つ。少しでも早く嫌なコレが終わるようにと願っていた。
「ケムリン……?」
全身が粟立つような感覚に襲われる。つい先程まで嫌というほど味合わされていたソレはスモーカーから再び正気を奪おうとする。耳を撫でた、まだ幼さの残る声には聞き覚えがあった。しかしよりによってなぜ今なんだ。涙で滲んだ視界を声の舌先に向けた。暑さの象徴の麦わら帽子が嫌に眩しい。
(なんでだよ……ッ)
恨み辛みを込めた目で、スモーカーは因縁の男を見つめた。なんでよりにもよってお前がDomなんだと言いたげに。
この世には男女とは別に第二の性が存在する。もしもこの世に神がいるとするならば、スモーカーは「なんでこんなメンドクセェもん作ったんだ」とぶん殴りそうになるくらい厄介なものだ。ダイナミクスの力量関係で決まるらしいその話の中心はDomとSubである。単刀直入に言えばSMのSがDomで、MがSubになる。しかし現実はもっと複雑で、むしろその説明の仕方では勘違いを起こし多くのSubが犠牲となるのだ。
改めて説明すると、DomはSubに対して「支配したい」「褒めたい」「お仕置きしたい」などの欲求を持ち、反対にSubはDomに「支配されたい」「褒められたい」「お仕置きされたい」という欲求を持つ。これらの欲求はDomやSubの数だけ好き嫌いがあるわけで、つまり褒めるのが一番好きなDomもお仕置きされるのが一番好きなSubも同時に存在するのだ。またDomとSubの間にはPlayと呼ばれるコミュニケーション方法があり、通常DomはSubに対してCommandと呼ばれる命令が使える。その数種類のCommandを使う事で互いに欲求を満たすのだ。このDomのCommandは何も別にplay中でしか使えないわけではなく、日常生活でもその効力を遺憾無く発揮する。
「ケムリンだよな……?どうしたんだよ……それ」
握りしめていた七尺十手が音を鳴らしてスモーカーの手から落ちる。先程までの熱は一気に冷め今度は逆に冷蔵庫に放り込まれたようにガタガタと震え始める。善意で伸ばされた手すら凶器に見え、不安から変な息の飲み方をした。
「ッ来るな!!」
伸ばされた手を叩き落とす。呆気に取られた相手の顔を確認し、今の内だと言わんばかりに立ちあがろうとした。したが立てなかった。あれだけの休息で体が満足するはずもなく、それどころか震えが余計に酷くなっていた。普段ならば問題ないのに、今の状態では無理もない。Domに逆らったという要素が、スモーカーの身体をどんどんおかしくしていく。
「あ〜ッもう『待て』!!」
「ぐうっ……」
喉元を掴まれたような威圧感、枷でも嵌められたかのようにスモーカーの動きが止まった。止まったことを確認した声の主は、スモーカーに近づいていく。ブーツや革靴と違いヒールのないサンダルからは地面を擦る音がする。そして声の主は——ルフィはスモーカーの前にしゃがみ込んだ。
「、……」
ガチリと緊張で歯がなった。
「なァ、ケムリンなんで逃げようとしたんだ?」
「ぁ、やめ……」
「『教えろよ』」
弱りきったスモーカーはCommandに逆らえない。見つめてくる目が無理矢理にでも己を暴こうとしている気がして、それだけは嫌だと抵抗するように口を開く。
「さっき……店で、Glareを少し、浴びた」
「うん」
「それで、Subってバレかけたから、逃げてきた」
Glareとは、Domから放たれる威圧感のようなものだ。本来はDom同士が牽制する際に使われたりするが、強制的に跪かされたりなどSubからしてみれば迷惑極まりない代物である。もちろんPlayに使われることもあるがそれでSubを蕩けさせられるかはDom次第だが。
ルフィの顔を見たくないのか、ギュと目を閉じながら何があったか話す。全て本当のことだ。比較的チンピラの多い店に入ってみれば、Domの客同士が喧嘩していて、そのDom達がGlareを無差別に放つものだからスモーカーにも被弾してしまったのだ。チンピラ達が加減を知るはずもなく、次の瞬間スモーカーは二人分の刃物を突きつけられる感覚に襲われた。
スモーカー自身、命令にはちゃんと答えられたと思う。ルフィがどんな顔をしているのか見たくなくて目を閉じたが、話し終わった今も目を開けるのが恐ろしい。いつ目を開ければいいか考え込んでいると、頭を撫でられた。
「教えてくれてありがとな、ケムリンはエラいなァ」
——褒められた
「ぁ……」
本能が悦ぶ。チリッと火がつくように、体が微かな熱を持った。驚いた拍子に開いた目からはいつもより幾分かは落ち着いた笑みが覗く。焚き火のような、穏やかな顔をしていた。戦いに使う拳はザラザラとしているが、心地よい。
「コマンド使ってごめんな、ケムリンそうでもしないと話してくれそうになかったからよ」
「わか、って……」
「がんばれてすげーなあケムリン」
手玉に転がされるとはこのことか。先ほどから小雨のように降り注ぐ賞賛が、確実にスモーカーから不快感を取り除く。一瞬海に突き落とされすぐさま引き上げられたのに、苦しくない。浅くなっていた呼吸が深くなる。止まらなかった涙が止まった。
「落ち着いてきたな、良かった」
「ん……」
「なんか他にして欲しいことあるか?」
「……なにも」
無いワケではないが、なんとなく言いづらくて黙り込んでしまう。落ち着いたのに、欲がさらに顔を出した。本当は褒められ足りないし、頭だってもっと撫でて欲しくて仕方がない。飲み込んだ熱が腹の中で渦巻く。口から本音が溢れないようスモーカーはそっぽを向いた。
「なーケムリン」
「な、んだよ……」
「足りない?」
さりさりと、刈り上げた後頭部をルフィは撫でながら言った。普段は鈍いクセに、こういうときに鋭くなるのがルフィという男である。逸らされたスモーカーの心情を雄弁に語る目を見逃さなかったのだ。撫でていた手を止め、ルフィはその場を立ち上がった。スタスタと重くない足取りでスモーカーから数歩離れると、ドカリと箱の上に座る。なんの変哲もない木箱も堂々とルフィが座れば玉座とでも勘違いしていそうだ。
「こっちに『来いよ』」
穏やかな水面に波紋が広がるように、スモーカーの身体にCommandが染み渡る。それでも立ち上がることはできず、震える手足で這うように移動した。ズルズルと鈍い動きでどうにかルフィの前まで辿り着く。見上げれば、二人の視線がぶつかった。それを見たルフィは、満足げな笑みを浮かべ口を開いた。
「良い子」
猫をあやすように顎を擽る。その感触にスモーカーは目を細めた。
「名前呼んでくれよ」
「あ……?」
「呼んだら、ちゃんと褒めてやるから」
褒めてやるから、という言葉に揺れる。すでに形を留めていない理性はないと言っても等しいのに、この男は意地でもそれを認めようとしない。しかしたった一度名前を呼べば、もう一度あの掌と甘言が貰えるのだ。たった三文字を口にするだけで、ご褒美がもらえる。
「なァ」
「ッ……」
「おれの名前わかるだろ?(please call me )」
ただの問いかけを、命令と錯覚した。ワックスで固められた髪を梳かされる。撫でられる髪の毛一本一本がまるで神経でも通っているようで、スモーカーにルフィの指の存在を知らしめる。蕩けそうな目で見上げれば、スモーカーを見下ろす目はジトリと熱を孕んでいた。同じか、それ以上の熱を持つ瞳が誘う。その視線に耐えきれず、言葉が溢れた。
「る、ふぃ」
つっかえたバリトンを聞き、ルフィの知らないうちに口角が上がった。
「うん、よくできました」
ブワリと熱がぶり返す。しかしそれは風邪のような茹だる熱なんかではない、力が抜ける心地の良い熱だった。犬のようにワシャワシャと指を使いながら頭を撫でる。整えられた頭が鳥の巣になろうが、構わずスモーカーも頭を押し付けた。撫でられ、褒められ背中にゾクゾクとしたものが駆け抜ける。歓喜か、恐怖か、どちらであろうとクセになりそうなそれを求めた。
1/29追記
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