トール・トーラー・トーレスト
日課の個人戦をしにラウンジへ赴く。最近は防衛任務のシフトが多く、トリオン兵ばかりとやり合っていたのでどうにも対人戦のなまりを感じる。さて今日は誰がいるかと見渡すと一際目立つヤツを見つけた。
「勝じゃねえか。お前も個人戦か?」
「鷲尾さん。こんにちは。いえ私は…」
武市勝。坂田隊の射手……なんだが戦闘のスタイルがどうにも独特で面白いヤツ。長い腕でアステロイドでぶん殴ってきたり正気かコイツ。バレーボールのメンバーにいたらブロックとして優秀だろうな。
「悪いな勝。待たせた…辰則もいたのか」
「いえ、大丈夫です秋鹿さん。鷲尾さんとは今会いまして」
「なんだ、お前らで個人戦しようとしてたのか?なら俺も混ぜて…」
「いや、これから食堂に行くつもりだ。腹が減ったんでな」
「んだよ…じゃあその後個人戦やろうぜ」
「いいだろう。ハンバーグ定食が売り切れる前に行くぞ」
んなもん頼むのはお前くらいだろ、という言葉は飲み込む。秋鹿八尋。水端隊の銃手で散弾銃型の2挺持ちなんて諏訪隊みたいな戦闘のスタイルにこだわっているらしい。こいつ曰くかっこいいとかなんとか。
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「ははははは!!テンション上がりすぎてぶつけただぁ!?」
「うるさい。くっ…俺としたことがかっこよくない真似を…」
「私たちは背が高いですからね。それでもそうそうあることではないですけども」
秋鹿のやつ、食堂のおばちゃんにハンバーグを一つおまけしてもらったからってカウンターの上のへりに頭をぶつけたらしい。これはしばらく笑い話には困らなさそうだ。
「…まあ実際、私も隊室の出入り口に頭をぶつけたことは何度かありますから」
武市のフォローにニヤついたまま頷いて同意する。普段ならぶつけねえが意識が別に向いている時に何度かぶつけた時がある。特に一虎の野郎と小競り合いをしてる時にぶつけた時はそれはもう煽られまくった。思い出したらクッソムカツく。
「あとはまあ合う服が見つからないってところか。せっかくかっこいい服を見つけても合うサイズがなかったりする」
「確かにそうですね。私も徳島にいた時には古着屋行っても意味がなかったので…」
「その時から背高かったのかよ。すげえな勝。俺はバレーボール部だったしそんな困ることはなかったわ…あ、ちょっと待ってろ」
食堂の片隅に見知った顔を見つけて席を立つ。アイツあんなところでキョロキョロして何してるんだ?
「桜、そんなところでどうした?」
「あっ鷲尾さん。あの、ぼくあれが取りたくて…」
そういって桜が指さした先にあったのはシンクの上の戸棚にある詰め替え用の洗剤。トレイを洗うための洗剤なら手の届く位置にあるはずだが。
「あの、この洗剤もう残り少なくて…なら詰め替えておこうかなって」
「次使うやつに任せればいいんじゃないのか?」
「でも、ぼくが気付いちゃったから…やっておこうって思ったんです」
こういうところが周りに可愛がられる理由なんだろうな、と思う。小動物みたいだが本人は一生懸命に動く。仕方ない、と思いながら戸棚に手を伸ばし、詰め替え洗剤を取ってやる。
「ほら、詰め替えは自分でしてくれよ」
「あ、ありがとうございます…!助かりました!」
「ん。そんじゃあな。ツレ待たせてるから行くわ」
「えっごめんなさい…その、わざわざ」
「気にすんな。同じ隊の仲間だろ」
『ツレ待たせてる』は余計だったな、なんてことをその場を離れて思う。アイツはそういうの気にするタイプだったか。そんなことを思いながら秋鹿と勝が待つ机に行けば2人して穏やかに笑ってやがる。
「なんだよ、その笑顔は」
「いや?かっこよかったぞ。辰則」
「私たちのこの高い身長もああいう時に役立つと嬉しいものですね」
あぁクッソ見られてたのか。というかさっき勝を見つけたのも目立つからだったはずだ。それをすっかり忘れていた。
「…同じ隊の仲間だからな。助け合いは当たり前だろ」
「一虎が困ってたらどうするんだ?」
「あいつは別だ」
「仲間意識はどこにいったんですか……」