トレーナーさんにだけハートを作れないメイドエース概念
トレエスに脳ミソ焼かれまん民皆が待ちに待ったトレセンの感謝祭が来た!
あたしたちのクラスは、誰が言い出したかメイド喫茶をやることになった。
普段着なれないメイド服を着て接客をしているが、動きにくくて仕方がない。誰がこんなの用意したんだ?
それに流石トレセンだけあって、客もほぼほぼひっきりなしに来るから中々に大変なもんだ。
それでもあたしは、ずっと応援してくれていたファンに感謝の気持ちを示すために、働いていた。
注文を受けて、料理役が作ったオムライスを運びケチャップでハートを書いて、手でハートを作って、笑顔で言う。
「美味しくなーれ♥️萌え萌えきゅーん♥️」
何が面白いのかは良くわかんないけど、お客さんは皆喜んでくれている。たまに椅子から崩れ落ちたり、家宝にします!って持ち帰ろうとする人もいる。いやもったいないし危ないから食べてってくれ。
色々な人がいるけれど、それでも皆笑顔になってくれるから、あたしもいい気分だ。たまには良いもんだな、こういうのも。
そしてある程度客足も収まった頃になって、トレーナーさんがやってきた。
「おー、エース!可愛いな!」
開口一番そう言われる。
「えへへ!ありがとうな!」
今日何度も同じことを言われてるけど、不思議とトレーナーさんに言われると照れちまうな。
あ、そうだ!
「トレーナーさん、よかったらあたしが接客してやろうか?」
折角来てくれたんだし、トレーナーさんにはいつもお世話になってるからな。
丁度良い機会なので日頃の感謝も込めて、そう提案した。
「お、良いのか?いや~実はエースが凄く可愛いことやってるって聞いたから。内心期待してたんだよな~。」
そういってトレーナーさんが笑って応えてくれたので、あたしも笑い返す。
「ああ、任せてくれ!じゃあ早速。ご注文はお決まりですか♥️」
ちゃんとメイドとしての接客を始める。
「ん?オムライス以外ってあるのか?」
「ございません♥️」
「ははっ、なんだそれ。じゃあオムライスで」
どうやら定番の流れらしいこのやり取りに、トレーナーさんも笑いながら注文してくれた。
オーダーを伝えて、オムライスを受け取り、トレーナーさんの元へ運ぶ。
「お待たせしました♥️」
「お、早いな。ありがとう。」
そして、今日何度も繰り返した作業。オムライスの上にケチャップをかけていき、ハートを作る。トレーナーさんのオムライスに、ハートを作る。トレーナーさんに…ハートを…
あれ、これ実は凄く恥ずかしいことしてないか?
今更になって気付く。
「エース?エース!ケチャップがヤバい量になってる!」
トレーナーさんの声に、ハッとするも遅かった。
既にオムライスの姿はなく、皿の上に赤い塊が出来ていた。しかも少しテーブルに溢れてる。
「ああ!ごめん!すぐ拭くから!」
メイドの役も忘れて、慌てて布巾で机を拭く。
何やってんだあたしは!トレーナーさんに感謝を伝えるためにやってるのに!
取り敢えず、溢れた分を拭き終える。
「失礼しました。直ぐに新しい物と交換します。」
自腹になるけど仕方がない。トレーナーさんにこんなものを食べさせるわけにも行かないからな。
そう思ってたのに、「いや、良いよこのままで。折角エースが作ってくれたんだから。」って凄く楽しそうに言った。
「でも・・・」
本当に食う気か?オムライスのオム部分見えてないぞ、それ。
「良いって、俺はこれが良い。」
そう言われると、こちらもそれ以上は何も言えなくなってしまうが、やはり申し訳なさが残る。
「それよりさ、あれやってくれないか?美味しくなーれってやつ。」
「あ、ああ!任せてくれ!」
そうだ、今日はこれで皆を笑顔にしてきたんだ。トレーナーさんも、きっとこれで笑顔になってくれる筈だ。いいや、絶対にして見せる!
「じゃあ!行くぜ!トレーナーさん!」
もはやメイド役になりきることも忘れていた。今はただ萌え萌えきゅーん♥️をやることにあたしの全身全霊を注ぐ。
両手でハートを作って、トレーナーさんに向ける。ハートを作って・・・トレーナーさんに、両手で、ハートを…
あれ、これさっきより恥ずかしくないか!?
いや、大丈夫だ。落ち着け、親指は下で、それ以外の指は上で合わせて・・・
「エース?指の形おかしくない?気功砲じゃないそれ?」
ああああ!ただ指を曲げればできるのに、何で出来ないんだ!
恥ずかしさと不甲斐なさで顔が熱くなっているのを感じる。
ええい!こうなりゃ自棄だ!声を出しながらその間に曲げてやる!見ていてくれ!トレーナーさん!!
「美味しく!!なあれ!!萌え萌え!!」あ、トレーナーさんがこっち見てる。
「っ、…キュン…」
気付いてしまったら、もう終わりだった。
結局勢いでごまかすことはできなかった。
しかも大きな声を出したせいで店中の視線を集めてしまっていた。その中でこの醜態だ。誰か介錯してくれないか?
店内で倒れた人がいるみたいで、騒がしいけれど、今のあたしはそれどころじゃない。
目の前のトレーナーさんが胸を抑えている。その視線はあたしの胸元に向けられていた。
そこには親指以外がしっかりとハートを描くように曲げられた両手が有った。
そしてトレーナーさんから見ても、多分ハッキリとわかる程、その手と手の間は離れていた。
トレーナーさんがハッとしたように言う。
「あ、エース。そのなんていうか。その、凄く可愛かったぞ!!」
あたしはもう恥ずかしさと申し訳なさで、「ごめんなさ~い!」って言って赤い顔を手で隠しながら、逃げてしまった。
後で接客を変わってくれた友達に聞いたら、トレーナーさんはそのあと、凄くニコニコしながら、あのケチャップの海を食べたらしい。大丈夫なのか?色々と。
あたしはそれを聞いてホッとしたのと同時に、結局まともにお礼できなかったことの申し訳なさを感じていた。
他の客にはあんなにできたのに、何でよりにもよってトレーナーさんにだけ。
・・・いくら考えてもその結論は出なかった。
でも、必ずこの埋め合わせはしないとな。あたしはそう固く自分に誓った。
────
「流石にキツかったな…」
腹の底からケチャップの臭いがしている気がする。
当分ケチャップは見たくないな。そう思う。
(いや~それにしても)
軽くノビをしながら思い出す。
先程までの担当ウマ娘の姿を。
(エースのドジっ娘メイド役。可愛かったな~)
最後のキュンのところなんか、本当にときめいてしまった。
ダメだダメだ、俺はトレーナーだぞ。
でも、今日は本当に来て良かった。
エースのあの可愛い姿を思い出すだけで、これからも頑張れそうだ。