デリンツォ
カイロレ R18 OK?- 店長「多分一番語学が堪能なの俺だ……聞かんかったことにしよ」 -
「なぁ〜どしたの?ミヒャ、遠くね?」
「……黙ってろ」
「なんでそんなに不機嫌なん」
「黙れ」
ソファの向こうから、プリンを片手にジトっとした目で見てくるロレンツォに、さすがになんと言うべきかカイザーは言い淀んでいた。
なにしてんだテメェ。こんなところでどういうつもりだ。どういう人選なんだ、とか言いたいことは山ほどあるがそんなことを言おうものなら「だぁ、お前がそれを言うのぉ?…こんなとこで買おうとしてるミヒャがぁ?」と舌を出して笑うに決まってるから口には出せない。
そんなことを言われるのは屈辱の極みだ、絶対に言わせるか。
「ミーヒャ?ここ、お前の部屋だろ?なんでそんな隅っこにいんのって」
「っ!」
「ばっ♪」
先ほどまでソファの先にいた男がにゅっと首を伸ばして、覗き込んできた。不意を突かれてカイザーの瞳孔がキュッと小さくなったのを面白そうに笑う様子は先ほど思い描いた舌を出した煽りに似ている。
「近寄んなクソ金歯」
「だぁー、酷くね?ミヒャが誘ってくれたんじゃん。OK?」
「…………」
いや、それは何かの誤解であって。誤解ではないのだけれど。
と、いうのも。つい30分ほど前、カイザーはデリヘルを呼んだ。日本の子とヤるのは面白いぞというチームメイトに拐かされて。
いやそれだけではなく、極東の風俗にも多少の興味があった…というのがある。なんたって祖国はFKK発祥の地だ。興味がないわけがない。
いつもならネスも同泊するが、この度はホテルに一人泊まり。絶好の機会というわけだった。
確かに、悪い予感はしていた。電話先の相手はカイザーが英語で電話をしてきたことにクソあわテンパってる様子があった。知っている英語が少ないのだろう。最終的には「語学の堪能なものに行かせます」という返しで終わった。どう考えても選ぶ店を間違えたとしか言いようがないが、もうすでに滞在ホテルも伝えてしまっていたせいでキャンセルは難しかった。
HPで見た子を指名する暇もなく、語学最優先で派遣が決まってしまったことを踏まえ、カイザーが口コミを書くまめなタイプであれば確実に☆マイナス5がついた上で考えうる限りの罵詈雑言を並べたことだろう。
断ろう。来たら即帰らせるか。多少多めに金でも渡せば口止めも簡単だ。
何もしてない上にキャンセルで金を払うという点においていささか疑問を呈すところではあるが、カイザーは金がものを言うことは知っていた。
そうと決まれば話は早い。
頭の中で話がまとまった瞬間、チャイムが鳴った。グッドタイミングだ。カイザーは静かに扉の前に立つとその表情を真顔にさらして、スコープも見ずにドアノブに手をかけた。
「だぁ〜お招きありがと♡」
なぜか、ケーキ屋のプリンを手土産に持ったロレンツォがいた。
「………?」
「ミヒャ、プリン好き?ここの、俺一押しなの。一緒に食おうぜ」
「なっ……は……?」
「どーしたの、ミヒャ。あ、驚いた?俺も日本に来ててよ」
「まて……」
急な出来事に意識が宇宙に飛んでいた。そのせいで、距離感のバグっているロレンツォがその顔を近付けてドヤ顔で笑っていることに反応が遅れた。
後手後手になりまくっているカイザーを差し置いて、あれよあれよという間にロレンツォは家主を押し除けて部屋に上がり込んだ。勝手知ったるというように奥に進んでソファに腰掛け、ガサガサと手土産を開封し出す。
このデリヘル、マイペースすぎる。いや、こいつはデリヘルやってちゃダメだろ。何考えてんだ。……仕事しにきてこれでいいのか?いいに決まってるだろ、真面目に仕事されちゃ困る。
いつもは冷静に合理的に状況を整理する自慢の思考回路はショート寸前、叶うなら今直ぐベッドに入って全て悪い夢として終わらせたい。
だがそれも虚しく賢い脳みそは立派に機能していた。
というのが、現状である。
「なぁ、ロレンツォ」
「あ〜?なぁに?」
再びソファに座り、2個目のプリンの蓋を開けたロレンツォが振り向きむもせず返事をする。
「お前、いくらで働いてるんだ」
「は?」
は?という顔をしながら振り返った。なんなら二度見していた。
そんなロレンツォに見られながら、カイザーはようやく廊下に立っていることをやめて一流ランクに似つかわしいソファに並んで座る。
「だぁ〜2億2千…だけど俺みたいなこと言って、なんか変なもん食ったぁ?」
「いやそ、うじゃなくて」
お前のデリヘルとしての料金の話だ。とは、言葉にしにくい。
「それともなぁに?スカウトォ?わりぃけど俺ぁスナッフィー以外に靡くつもりはねーぞ」
「そんなこと言ってねぇ。じゃあこれは趣味か?」
「これ……あ、コレね♡日本に来たら絶対やるって決めてんだ。いい国だぜ?日本。OK?」
嬉しそうに語る横顔は初めて見る表情で、長い指が絡まったスプーンがプリンをかき混ぜているのが何とも言えない艶かしさを感じた。
「な…」
「みーんな優しいし、色々教えてくれるし。ま、シャイな人間も多いけどなぁ?イタリアと違ってグイグイくる人間は少な…」
「もう黙れ」
思ったよりも低い声が喉から出ていて、気付けばロレンツォの胸ぐらを掴んで唇を奪っていた。なんなら舌も入れていた。
「っん、んんっ?!!?」
「……?」
よく知ってるとでも言うように口内を犯しながら、しかしその実カイザーも現状を理解していない。
くちゅくちゅと唾液同士が混ざる官能的な音を聞きながら、長い舌へ擦り合わせて思考を回す。
こいつはデリヘルとして俺の家に来たのだからこれくらい普通だろ。そもそもなんでデリヘルやってんだ、趣味とか嘘だろ?何監視サボってやがんだクソスナッフィー。日本人は優しい?俺の方が万倍優しくしてやる自信がある。このキスはあれだ、……優しい方だろ。
いやなんの言い訳だよ。知ってるやつが急にデリヘルとして俺の部屋に来て、別の客との話をしてたらもう訳がわからなくなるだろ。
ぐちゃぐちゃに絡まる思考に呼応させて、ツルツルの金歯を舐めて、上顎をくすぐって、喉の奥に逃げる舌を追いかけて蹂躙して。
「んっんん!…ぐる、じ……み、…ひゃっ!」
ドンと強く突き飛ばされて、さすがのカイザーもその身を離した。ツっと銀糸が引いたが直ぐに切れ落ちた。
「なに、急に、何の真似だ?流石に悪ふざけがすぎるぜ。OK?」
「………」
口の端から垂れるよだれを手の甲で拭きながら、苦言を呈する。手からこぼれたプリンのガラス瓶を拾い上げ、落ちた分を「あーあー勿体ねぇ」と呟いているがロレンツォは特に怒っているわけではないだった。
ティッシュも使わず、溢したプリンがまた長い指の間からずるりと溢れるのを見て、キュッと喉が鳴った。
「ったく、酒でも飲んだかぁ?ここは日本だぜ、ミヒャはまだ酒飲んじゃダメなんじゃねぇの?」
それはまだ二十歳前のロレンツォにもカウンターが入るセリフだ。
そもそもデリヘルしているやつのセリフではない。
「ロレンツォ」
「あ?」
「この後の予定は全部キャンセルしろ。それで起こり得る不利益は俺が全部補填してやる」
「は…?」
「拒否は認めねぇ」
「ちょ」
ソファがぎしりと不穏な音を立てた。
♡
何が起こっている?意味が分からなくて、理解不能だ。積み上げた経験にもない未知の状況。スナッフィーにも教えられなかった現状。
ロレンツォはソファに押し倒されて押さえつけられたまま、足を割り開かれてカイザーを受け入れていた。
「い゛っ……だ…、痛、いたいっ!みひゃ、やめろって、っっ!」
「拒むな」
抽送できるまでにはほぐれて、容器半分以上のローションでどろどろにされて引っかかりはない。だが、内臓を混ぜられるような不快感と圧力のそれは痛覚を刺激していて、限界を超えて広げられた穴が裂けるかもしれない恐怖がある。
まさに、拒むなの一言ではすまない。尻からスイカでも出産してから言えといつもなら言うが本当にそれどころでもない。
ぐちゅ、ぐちょ、ぐちゃ、にちゃ
粘着質な音と、奥を突かれるたびに喉から漏れる悲鳴、そしてカイザーの吐く息の音を聴きながら、何故こうなったかを考える。
メールで「人間がゴミのようだぜ?ロレンツォ。お前も近くにいたら遊びに来い:)」と煽り全開のMr.ムスカみたいなことを送ってきた。天空の城ラピュタ面白いよな。OK?
アキラ・クロサワも好きだけど、ハヤオ・ミヤザキも好き。
そんな上機嫌なカイザーからのお誘いが嬉しくて、ちょうど日本に行く予定があったからサプライズを仕掛けてみた。本当に来ると思ってないカイザーの鼻を明かすのは面白そうだ。
………下心もあった。
ミヒャが好きだ。綺麗で、美しくて、金の髪がキラキラしていて、美しい海の色の瞳とロイヤルブルーの薔薇のタトゥー、3億円の価値もついてる。見た目だけで一瞬で惹き込まれて気づけば目で追っていた。
いつも余裕があって飄々としていて、ギラついた獣の瞳をしている。誰よりも状況が見えて、動いて、サッカーに一途で、上昇意欲がすごくて。泥臭い向上心に気付いた時にストンと腑に落ちた。
夢を追う人間が好きだ。夢を叶える人間が好きだ。夢を夢で終わらせない人間が好きだ。
ロレンツォは、カイザーが好きだった。
プリンを持って、ホテルに行った。自分の好きなものを共有したくて。話がしたくて。驚かせたくて。
「ん゛…あ゛っ、あ、あっ…ぎっ…ったい、う、ご、くなぁ……」
「っは、別の、こと考えてただろ。目の前に、俺がいるのに」
考えていた。なんなら、この経緯のことを。
ロレンツォはカイザーを見上げて腕に爪が食い込まんばかりに力を加えると、カイザーは動きを止めた。今、目の前のことから意識を逸らすのは許さないというような動きだった。
「はっ……はぁっ……っ、みひゃ、ぬい、て」
「趣味でヤってんだろ」
「……は、ぁ?」
何の話だ。趣味?日本のお菓子が大好きで、それを買うことだ。それがこれと何の関係があるんだ。
引き戻された意識は現状をありありと伝えて、すでに情報と奥をつく圧迫感で脳みそは処理落ち状態だった。
「…きつい。動いていいか?」
「だっ、め!抜くなら、抜くならいっ、けど」
「出そうとするな」
押し出そうとギュゥと力が入る。しかしそれは、下腹部に入れた力をモノともしない。
苦しい。いつまでこの状態が続くのか。
動けないカイザーも相当辛いだろう。だのに動くなと言われて、あのカイザーが動かず耐えている。
カイザーが好きというマインドが、これまでの経緯を吹っ飛ばして愛されていると錯覚を起こす。
あのミヒャが。
ミヒャが、俺のために。
俺が、慣れるまで待ってる。
苦しくて、熱い。奥がじんわり熱くて、脳の奥から感じてはいけない何かが背中を伝ってくる。
ゾクゾク、ゾクゾク…と。それが二度、三度、と続いて「あっ……?」とはっきり違和感を持った瞬間、フッと力が抜けた。
「……?ロレンツォ」
「あ゛っ?!あっ、あ……あぁ…!」
締め付けが弱くなって、動いていいとは言われなかったが限界が近かったのでそっと奥を穿つように突き進めると悦の入った声が漏れた。
「ぁひっ!え……なに、ひっ…んで、ぇ」
グリッ、と浅いところを押し上げるように突き上げる。いわゆる前立腺と呼ばれる弾力のある肉を抉ると、途端に高い声が上がった。
これは、感じ始めている。
ぐに、ぐにっと自分の快感よりも優先して押し上げてやる。「ひっ、あっ」と鼻を抜ける吐息と、熱に浮かされた目が彷徨うように動く。
「こっちだ、ロレンツォ」
頬をするりと撫でて、視線を誘導する。カイザーの青い瞳が、ロレンツォの紫に映り込んで青紫を作った。
「あっ、み、ひゃ…っ、んぁっ!はぁ……ミヒャ、ァ…」
「いいこだ、俺のことだけ考えてろ」
頭を撫でて、高い鼻先にキスを送る。そして、ミヒャ、ミヒャとうわごとのように漏れる唇を愛しむように吸い付いた。
ちゅっと軽く、そしてちゅぅと唇を舐めて、くちゅっと舌を入れて。さっきの噛み付くようなキスとは違って優しく、尋ねるように、ゆっくり。
「んっ……ふ、っ」
角度を変えて何度も重ねて、くちゅ、ちゅっと舌を合わせて、舐め合う。
名残惜しく、舌先をチュッと吸って唇を離す。吸った舌をぺろんと出したままになっているロレンツォを見て、堪らないくらい昂ったのを感じた。
「動くぞ」
「うご、いていーよ。うごいて、きもちくなって」
「お前も」
薄い腰を掴む。まだまだ肉付きが足りない。
サッカー選手らしい筋肉の厚い太ももを撫でて、持ち上げる。折り曲げるように前傾になって抽送を開始した。
「あ…っ!ふ……んっ、んぁ…みひゃ……みひゃっぇ…ぅ」
「んっ、…なまえ、呼ぶの好きだなお前は」
ミヒャ、なんて不遜にも愛称で呼んでくるのはお前くらいだ。
皇帝の名前を冠したからには一番でありたい。天使よりも、人間の最上位に立ちたい。そして人は、良い意味でも悪い意味でも皇帝にふさわしいカイザーと呼ぶ。
ミヒャ。
天使のように崇められるわけでもなく、ただその人間を認めるように。
「もっと呼べ」
「み、ぃひゃ…っ!ミヒャ、ミッヒ……ん、んんっ」
名前を呼ばれるのは好きだ。ロレンツォに、呼ばれるのは心地がいい。
…なぜかは、分からないけれど。気安くて、力が入ってなくて、皇帝を休めるような。
太ももを持つ手に力がはいる。
太もも同士が当たって、パンッパンッと肉の当たる音がして、ぐちゅ、じゅっ、と動くたびにローションが溢れる。
ズリッ、ズリュッと奥を穿って、開いて、侵して。
金の歯が見える唇の端から、唾液があふれる。赤い舌がちろちろ見えて、名前を呼ぶために出っ張った喉仏が震える。
「あっ、そこ…っ!そこ、イぐっ、……みひゃ、ぁ…ぐるっ!きてる…っ!イっ!!」
「んっ、はっ……」
ギュウゥゥと収縮して、腰と足が魚のようにビクビクッと撥ね、筋肉の収縮に背中が逸れる。胸を張るように突き出されて、腹がヒクヒクと引き攣った。
「っはぁーー……、はっ、はぁぁっ…あっ、はぁ…、あっ?」
大きく息をついて、無意識に動く足を制御しようとして、また大きく震えた。
動きを弱めたカイザーが、またどちゅんと奥へ突き入れたせいで。
「な、んで……ぇ、とま、ミヒャ…とまってっ…ぇ!あ゛ぁっ、んぅッ…みひゃ、イっだ、がらっ、うごかなっ、でぇ」
「俺は、まだイってない」
「はっっ?…そん、みひゃぁ」
「何も考えずに、俺のせいでおかしくなってればいいだろ」
………お互いに。
♡
「で?俺が何だって?ミヒャ」
「………………………」
「黙ってちゃ分かんねえけど?」
「……………」
「みーひゃ?」
散々無体を強いられたロレンツォは「尻痛え、腰爆発した、お前に吸われすぎて唇腫れてねぇ?見ろ俺のちんこ、元気全くねぇぞ使えなくなったらどうすんだ?その前にトイレに行く力もはいんねぇぞ」と昨晩何回も気絶させられながら犯され尽くした身体を怠そうにしながら喋り続ける。
舌は元気だな、と少し思ったが言ったら「反省してねぇ?もしかして?」と言われそうだったので何も言わない。何も言わずに、腰をさすっていた。
「俺がデリヘル、デリヘルねぇ?……んなわけなくねぇ?サッカーの方が儲かるのはミヒャもよくってんだろ?」
「…趣味なのかと思って」
「はぁ〜〜???趣味は日本のケーキ屋とかお菓子屋めぐり!OK?プリン見えてただろ?」
「……」
プリンをかき混ぜてる指にしか目がいってなかった。
「お誘いありがとうとか言ってたろ」
「だぁ〜?一週間前にメールくれたの忘れた?」
「……メール」
送った気がする。日本に遠征に来て、絶対無理だと思っていたから「近くにいたら遊びに来てもいいぞ?」とかなんとか。だからって本当にくるか?……いやコイツのことだから「ミヒャから誘ってくれるなんて珍しーね?」って来そうだ。まさか日本に来ることがあったとは。
「……ねぇミヒャ。ちゃんと責任とってくれるんだよな?」
「はぁ?」
「昨日散々抱き潰されて、女抱く以上の快楽覚え込まされた俺の責任取る必要があるよな?…取らないってんならレイプで訴える」
「お前…」
「ミヒャが言ったんだぜ?拒否は認めない、OK?」
「OKだ、ロレンツォ。そもそもそんな脅しなんかしなくても、俺はもうお前以外に勃つ気しねぇから覚悟しろ」
「……それはそれで熱烈すぎねぇ?」
ちょっと引き気味なロレンツォに、カイザーが近づく。
一晩で性癖が狂った2人は、パッと目を合わせて唇を重ねながらベッドへ沈み込んだ。