デッドエンドの冒険⑥

デッドエンドの冒険⑥


 暗闇の奥から現れたガスパーデは薄ら笑いを浮かべながらルフィに話しかける。

「何が知りたい?宝の場所か?レースの情報か?それとも…おれ様に関する情報か?」

 まるで品定めをする様にルフィを見るガスパーデに、ルフィは睨みながら問いかける。

「なんで海軍を辞めて海賊になったんだ?」

 ルフィはただ、ずっと抱いてた疑問をガスパーデに問いかける。海軍将校にまで上り詰めたのなら何故その正義を貫かなかったのか。莫大な懸賞金をかけられた大物海賊としてどんな矜持があるのか。かつて海賊に憧れ、今は海軍に身を置くルフィは目の前の海賊に問いかける。

「簡単だよ。力さ!海軍はただの世界政府の犬だ。正義なんて都合のいい幻想で言いなりになってる現実から目を背けてやがる。力だよ。力さえあればなんでも手に入る。つまらない正義ごっこをする必要も無い。だから海軍を辞めた。」

 ルフィの問いにガスパーデはさも当然かの様に答える。それをルフィはただ黙って聞いていた。

「さて、わざわざ答えてやったんだ。おれ様からも聞かせてもらうぜ。」

 先程までと比べ物にならない威圧感がルフィを襲う。ルフィを睨むガスパーデの顔に笑みは無く、その瞳はルフィの全てを暴こうとするかのようだ。

「そっちの若いのは覚えがある。最近噂になってる賞金稼ぎだ。確か名前は…」

「シュライヤだ。賞金稼ぎをやっているしがないどっかの馬の骨さ。」

 ガスパーデの声を遮る様にしてシュライヤは名前を語る。ルフィは、ウタに聞けば何かしら知っているだろうと思い、忘れない様に胸の内で何度かその名前を反復する。

「そうだ。海賊処刑人だったな。お前はまだわかる。だが小僧、お前はわからない。その歳でその実力。なのにおれ様の記憶にもない顔だ。お前は何者だ?」

 得体の知れない相手を理解しようとするかの様にガスパーデはルフィを睨む。大海賊の眼光を前に、ルフィは帽子を深く被り名乗る。きっと海賊のルフィならそう言うだろう事を。

「モンキー・D・ルフィ。海賊王になる男だ。」

 その瞬間、ガスパーデの隣で待機していた大男がフロアを蹴った。素足が床を掴み、深い前傾姿勢のダッシュは獣のスピードだった。完全に意識外からの不意打ち。

 だが、その爪はルフィには届かなかった。見聞色の覇気で初動を察知したルフィはギリギリの反射神経で攻撃の位置を予測する。大男がルフィに攻撃を当てるつもりが無かったのもあり、その得物である爪を間一髪で鉄パイプで弾く。

 完全に不意を突いたと思っていた大男は驚愕に顔を歪め、シュライヤはその一瞬のやりとりを無言で眺め、ガスパーデは興味深そうに目を細める。

 ルフィと大男は互いに油断なく自らの得物を構える。

「やめろニードルズ。ルフィとか言ったな。イキがいいのは構わねェが、おれ様の前であまり舐めた口をきくな。命を落とす事になる。」

「海賊やってんだ。そんなの当たり前だろ。お前は命を賭ける気も無いのに海賊やってんのか。」

 ガスパーデの言葉にルフィは油断なく構えなから言葉を返す。その、ルフィの言葉にガスパーデは少し思案したのちに口を開く。

「良いだろう。デッドエンド前の余興だ。少し相手をしてやろう。」

 そういうや否や、ガスパーデは立ち上がる。ガスパーデはニードルズと呼ばれた大男を凌ぐ超巨漢であり、目の前で対峙した時のプレッシャーは距離を取り会話していた時とは比べ物にならない程だった。

 ルフィの額から汗が溢れる。それでも気圧されないのは、普段からもっと強いプレッシャーを纏う相手と対峙しているからだろう。

 ガスパーデはただそこに立ってるだけだ。だが、そこに隙が無いことをルフィは本能で感じ取り、その本能が攻撃を躊躇わさせる。

「どうした?来ないのか?」

 再び薄ら笑いを浮かべたガスパーデは、ルフィに声をかけ、ルフィから仕掛ける気が無いことを察すると拳を握り攻撃体制を取る。

 ルフィは跳び上がり先程までルフィが居た場所をガスパーデの蹴りが通過する。

「ゴムゴムの槍!」

 空中のルフィへの追撃を防ぐ為に、ルフィはその両足を槍の様にしてガスパーデに突き出すが、その一撃は呆気なく塞がれルフィは衝撃を利用して距離を取る。

 地面に着地したルフィは顔を顰める。全力では無かったとは岩ならば砕ける一撃だ。それを片腕で塞がれた上に両脚に痛みが残る。それはガスパーデの武装色の覇気がルフィの武装色の覇気を上回った証拠だった。

 あくまで攻め立てず、相手の出方を見る体制のガスパーデに今度はルフィが仕掛ける。一直線に距離を詰め、手に持った鉄パイプを突き出す。金属同士がぶつかり合う音がなり鉄パイプがガスパーデの体に当たり止まる。

 ニヤリと笑うガスパーデを前にルフィは右脚を捻り地面を踏み締める。

「ゴムゴムの独楽!」

 捻った右脚を軸にゴムの弾性力を使いその場で回転する事で鉄パイプを横薙ぎにする。

「ゴムゴムの面小!」

 回転が緩やかになった所で構えを変え上段から鉄パイプを叩き付ける。攻撃は直前の独楽で防御が不安定になったガスパーデの脳天に直撃するが、またしても金属同士がぶつかり合う様な音が鳴り響く。

「捕まえたぞ。」

 先程の様に衝撃で距離を取ろうとするが、手に持った鉄パイプがズブズブとガスパーデの体に埋まっていく。その状態にルフィの行動が一歩遅れた。

 ガスパーデは右腕を振るいルフィの両腕を絡めとる。完全にアメとなったガスパーデの体はルフィが何をしようとも外れそうに無い。

「これで終わりだ。」

 ガスパーデは左腕を槍状にしルフィの心臓に狙いを定める。左腕を引き絞り、その腕を振り抜いた。

(ウタ…)

 ルフィの瞼の裏に浮かんだのは8年間ずっと共に過ごしてきた幼馴染の顔だった。

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