デスピアンフェリジットビフォー3日目
―3日目―
部屋の隅で丸まって休んでいたフェリジットは、その浅い眠りから目を覚ました。
(……まずは2人、か)
足音が近づくのを聞き取ったのだ。浮遊している者のことを考えると、最低2人、である。やがて今日の訪問者達が檻に手をかけるのを、動じるでもなく暗く鋭い瞳で見つめていた。
あと一日。
あと一日耐えれば、シュライグは起きてくれる。
入ってきたのは嫌にテカテカしたぎこちなく動く大きなピエロ。ほとんど蝿の姿をした芋虫の手足を持つ者。滑るように移動する人影は他の個体とはシルエットも動きも違う。何より壁にかかる影に仮面が付いている。別個体だろう。3体。
フェリジットは二の腕を掴まれ、海藻のような質感のピエロの上に座らされた。そのまま張り付くような両腕で抱き締められるように固定される。
ここまで大丈夫だったんだ。あと半分、耐えればいい―――そう思い、覚悟を決めた彼女の顔はしかし、凍りつくことになる。
首をうにょんと伸ばし、覆うように覗き込んでニタニタするピエロ。その手には、仮面が握られていたのだ。
(あの仮面…!)
昨日の身体の異常。恐らくその元凶が、ジリジリと迫ってくる。顔を振り、必死で抵抗するが、逃れられる筈もない。
「やめて!それは嫌…っ!」
懇願も虚しくそれは再びフェリジットの顔に吸い付いた。
冷えていた身体がみるみる熱を持っていく。
ピエロは更に伸び広がり、フェリジットの身体をつつ、と撫で始めた。触れてくる手、悍ましかった筈のその手に撫られる度に、ぞくりとするような甘い痺れに彼女の細い身体が震える。
「あ…っ!は…、 ぁ… んっ、んぅ…!」
脇を擽り、首筋を舐められ、ついにはふっ、と軽く息を吹きかけられるだけでフェリジットは跳ねた。じゅん…と熱く秘所が濡れる感覚に困惑を隠せず、はあはあと顔を赤くして喘いでしまう。
撫でるだけだった手は、突然剥き出しの乳房を変形するほど思い切り揉みしだいた。
「はああッッ…!ん、 ふう、ウ… っ」
痛いはずなのに。
認めざるを得ない。好き勝手弄ばれて…フェリジットは快感を感じていた。つん、と乳頭をつつかれ、「アッ!」と高い声をあげて白い喉を晒してしまう。
舌舐めずりをする気配があった。ピエロは標的を乳房の頂点に移したようだ。
「いやっ…、 そ、こやぁ…! ああっ、 ひゃん…っ、ンン…っ」
潰され、抓られ、転がされ、舐られて…。唾液なのか粘液なのかよくわからない液体で、テラテラと濡らされながら乳首を徹底的にいじめられて、拘束され動きもままならないフェリジットは喘ぎながらくねくねと身を捩った。大きな房を引っ提げた胸はせわしなく上下し、閉じた腿はもどかしそうに互いを擦り合わせている。彼女は気付いていない。まだ触れられてもいない腰を、いやらしくくねらせてしまっていることに。
その腰に、ひやりとしたモノが触れた。
「……………!?」
音もなく実体化した影のデスピアンが、その液体じみた手を這わせてきたのだ。手の形をしながらゼリーのように触れる冷たい手が、次第に生ぬるくしっかりした感触になっていく。
「ゃ ………っ! 嫌っ…………!!」
さわさわと、フェザータッチで腿を撫でられる度に、フェリジットはゾクリと身体を震わせた。ソレはだんだんと、勿体ぶるように這い上がっていき…
くちゅ、と水音がした。
「や、やだあ……………っ」
にち、にちと、土に潜り込むミミズのような動きでその指が彼女に侵入する。すっかり濡れていたソコはもはや拒むことなくすんなり受け入れた。円を描くように掻き回す指は一本、また一本と数を増やし、その激しさを増していく。
「ひぃ……… っ、 あ 、ひぁ、 、ゃあっ、あっ 、あぁぁ ん………っ」
愛液の艶かしい音で、耳まで犯されているようだ。
「あ…っ、ふぁ、っやあ 、やァん、 、や ………っ!」
熱い。
熱い。
膣が熱い。
掻き回される度にのたうつ。ただ翻弄される。
乳房を摘み上げられる。フェリジットは弓なりに仰け反った。
水音。女の荒い息。喘ぎ声。
白く細い、白魚のような肢体をくねらせる女の悲しげな声。
フェリジットにまだ残る心の冷静な部分は、警鐘を鳴らしていた。
―――まずい。
「イヤっ、あぁっ、いやぁぁぁっ」
―――まずいまずいまずい。
滲む視界に、迫るものがあった。
悍ましい蟲のデスピアン。
手を束ねられ、脚を大きく広げられ、抵抗虚しく彼女は全てを晒す姿勢をとらされる。
指が引き抜かれた。栓を抜いたように、ナカからは蜜が垂流れる。
蟲が尾を見せ付けてくる。蜂であれば、針が出る箇所。
そこには、脈動するペニスがあった。
「………や、嫌……、」
覚悟など、とうに霧散している。
ヒクっ、と、膣肉が蠢いた。
それが、今日一番の絶望だったかもしれない。
認めたくない。けれどわかってしまう。
―――コレを、身体が望んでいるなんて。
「ぅああ、あっ、あああァァーーーーっ!!」
蟲は一気にフェリジットを貫いた。
肉と肉がぶつかる激しい音。まるで捕食。哀れな獲物はなすすべなくただ揺さぶられた。
胸を揉みしだかれ、全身を舐められながら、内臓の最奥まで犯される。
「あ" ぁっ 、んあ ァ 、 や、 やあ、あ ぅ 、ふあぁぁぁ……っ!!」
にもかかわらず、その獲物は歓喜の声をあげていた。
「ア、 んぁっ、 や、 あ"ぁぁ 〜〜〜…………っ」
惚けた顔の奥、涙を散らしながら、フェリジットはそれでも快感に流されまいとしていた。
(ダメ……!ダメ、ダメ…………!!)
「だめぇっ 、や 、ら ぁ、 、だ、………、 ん、ぐぅぅぅ……………っ」
食いしばる。歯が軋む。
耳を澄ませる。シュライグの寝息。
―――折れるな。絶対に折れるな。私がどうかしたらシュライグが…………!!
目を閉じても、突かれる度に散る光。
その中に、もはや懐かしいとすら感じる顔を探す。
キットの寝顔。シュライグの笑顔。ルガルの笑顔。みんなの顔。暴走する快感に押し流されそうになる。それでも縋るように想い続けた。
―――シュライグを帰す。私はダメかも知れない。私はどうなってもいい。どんなにめちゃくちゃになってもいいから、シュライグだけは……………!!
その思考は、引き千切られるように途切れた。
「ぐぅ、 ア" ァ、 っあ あ、 、っく、んァ、 あ゛~~~~…………ッッッ」
髄から響くように伝わるプリミティブな快感に呑み込まれ、フェリジットは遂に絶頂する。同時に、デスピアンが濁流のように射精した。
檻は、静まり返っていた。
あの後、他のデスピアンにも穢された。
白濁液にまみれたフェリジットは力なく横たわり、虚ろに天井を見つめている。
口の横から、頬に細く垂れた唾液を拭う余力もない。
―――その口角が、僅かに吊り上がった。
寝返りをうち、へばりつくように這って進む。その先には、依然として穏やかに眠るシュライグが。
彼女は亡者のような動きで、シュライグのズボンに触れ……、
―――そのポケットに、何かを突っ込んだ。
(あと一日…。あと一日……)
それは、この檻の鍵。
フェリジットが、デスピアンから密かに掠め取ったものだ。
(シュライグ………。私は、ダメかもしれない)
そして、彼女は力尽きたように横たわる。
シュライグの隣。その横顔を見つめて、金の瞳を細めた。
(お願い…………。明日、ちゃんと、逃げてね…………)
彼の世話は、できない。
もはやそんな余力はない。
それを詫びつつ、フェリジットは目を閉じる。そのまま、気を失うように眠りに落ちた。
フェリジットは、既に冷静ではない。
鍵を盗まれたことを、彼らが知らぬ筈がないのだ。平時ならば、それに気付かない彼女ではない。
檻の外から、彼らはクスクスと嗤う。
ああ、明日の絶望が愉しみだ、と。