デイビットの一日
※みんなカルデアにいる謎時空
カルデアの食堂は、毎日午後3時にオヤツの時間を設けている。食堂担当のサーヴァント達が腕を奮って作るオヤツはバリエーションも豊富で、子供だけでなく大人にも好評だった。
「あ、デイビット君。今日のオヤツはチョコ入りのスコーンだよ。飲み物は紅茶とコーヒー、あとホットミルク。どれがいい?」
「そうだな・・・では紅茶で頼む。」
今日の担当はブーティカ。イギリスはアフタヌーンティーが有名だと聞いたことがあるから、紅茶もさぞ絶品だろう。
「あ、オレはコーヒーだけで。」
隣でそう言うのは俺が契約したサーヴァント、テスカトリポカ。こいつは俺が行くところには基本ついてくる。
「はいはい。じゃあ少し待っててね。」
暫く経って出てきたお盆。上にはこんがり焼けたスコーンが数個。焼きたてだからだろうか、バターの香りが周囲に漂っている。とても美味しそうだが・・・
「・・・少し数が多くないか?」
他の人より2倍近くの量が用意されている。流石にこの量は多い。
俺の問いにブーティカは少し呆れたように答える。
「だって君、いっつもちびっ子達に自分のオヤツあげちゃうでしょ。」
・・・確かに子供達に自分のオヤツをあげているのは事実だ。
満面の笑みで「ありがとう」と言われると善いことをしてる気分になってこちらも嬉しくなるので、ついあげてしまうのだ。そして空になった皿を見たテスカトリポカに呆れられるまでがいつもの流れ。
「だからこっちの皿は君が食べる分。もう片方のはあげてもいいけど、こっちは君が食べること。」
いいね?と念を押されてお盆を渡される。ここまで気を使われるとなんだか申し訳ない。
「・・・すまない、気を使わせた。」
「こら、難しく考えないの。後で感想聞かせてね!」
そう言って厨房の奥に戻っていくブーティカ。
「良かったな、デイビット。」
「・・・・・・うん。」
頭を優しくぽんぽんしてくるテスカトリポカに短く答え、席に移動する。
何だか胸の奥がホワホワする。きっとこの優しさが嬉しいのだろう。カルデアに来る前は優しさというものには縁遠かったから。
席に着くと、そこには先客がいた。ナーサリー・ライム、ジャック・ザ・リッパー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの3名。既にオヤツを食べ終えた後らしい。
「あら、優しいお兄さんだわ!こんにちは。」
「こんにちは、ナーサリー。」
元気良く挨拶してくるナーサリー。隣のジャンヌは神様もこんにちは、とテスカトリポカに挨拶している。ジャックはニコニコと俺に話しかけてくる。
「お兄ちゃん今からオヤツー?とっても美味しいよ!」
「うん。そうだ、良かったらどうぞ。みんなで食べるといい。」
そう言って皿を一つ渡すと3人共嬉しそうな声をあげる。
「ホントに?!わーい!!」
「いいんですか?!やったー!ありがとうごさいます!」
「まあ!嬉しいわ、優しいお兄さん。」
ニコニコ笑う3人を見ながら、いただきます、と小さく口にしてスコーンを齧る。
うん、とっても美味しい。チョコの甘さとバターの風味が絶妙だ。自然と顔が綻んでしまう。
「・・・しっかしまぁ、美味そうに食うな、お前。」
「・・・・・・美味いんだからいいだろう。」
悪いかという意を込めてむくれると、そうかい、と笑いながら言うテスカトリポカ。コイツは時々俺を子供のように扱う。
・・・なんか腹が立ってきた。
「お前も食べてみろ。食べてみれば分かる。」
「いや、お前の分が無くなるだろ。オレはいいから食え。」
確かに二人で分けるには少ない。だがこの美味しさをテスカトリポカにも是非味わってほしい。どうしたものか・・・と考えると一つのアイデアが浮かんだ。
先程齧ったスコーンをテスカトリポカの口元に持っていく。
「テスカトリポカ、一口やろう。」
「・・・・・・・・・へっ?」
ポカーンとするテスカトリポカ。ひょっとして伝わらなかったのだろうか。
「ほら、口を開けろ。あーーん。」
「あ、あーーーンム。」
何やら目をキョロキョロとさせていたが、堪忍したのか一口齧った。やはり美味いのだろう。口元も笑うのを耐えているように不自然だし、頬も少し染まっている。
「笑うぐらい美味いだろ。お前も人のことを言えないな。」
「いや、そうじゃな・・・いや、うん、そうだな。美味いよ。」
そう言って片手で顔を覆うテスカトリポカ。気のせいか耳が赤い気がする。図星だったのが恥ずかしいのだろうか。
「お兄さん達、とっても仲が良いのね。素敵だわ。」
可愛らしく「ねー」と言う子供達。俺たちは世間一般で言う「仲良し」に見えるのか。なんだか嬉しいな。
「・・・そうだな。頼りになる、良いやつだよ。」
少し恥ずかしいがそう言うと、テスカトリポカから蛙が潰れたような奇妙な声がした。そんな彼を見て子供達は面白そうにクスクス笑う。
何か変なことを言っただろうか。
「美味しかった。ブーティカ、ありがとう。」
「ホント?それは良かったわ。」
ブーティカに礼を言い、食堂を後にする。テスカトリポカは「これから周回だよチクショウ」と言って管制室に向かったので今は一人だ。この後は何をしようかと考えていると、後ろから軽い衝撃に襲われた。
驚いて振り向くと、先程食堂で出会った3人と目があった。
「お兄ちゃん!今ヒマー?」
「・・・どうしたんだジャック?」
腰にしがみつくジャックに尋ねる。すると、ジャックではなくリリィが代わりに答えた。
「今からみんなで遊ぼうと思って。良かったら一緒にどうですか?」
「・・・別に構わないが、どうして俺を?」
彼女達と契約してるのは藤丸だ。なら俺でなく彼を誘うのが自然だと思うのだが。
そんな俺の疑問に答えたのはナーサリーだった。
「お兄さんにはいつも優しくしてもらっているもの!だからお礼に綺麗な花冠を作ってあげるわ!白いお花なんてどうかしら?きっとお似合いだわ。」
成る程、これは彼女達なりのお礼なのか。別にお礼をされるようなことなどしていないのに。
「・・・そうか、じゃあ一緒に行こうか。」
ジャックに手を引かれながら移動していると、突然珍妙な生物が姿を表した。
「ようよう、ちびっ子共!みんなの戦士ジャガーマンだよ!!」
「あ、ジャガーだ。」
「まさかのソルティー!!」
南米の神霊、ジャガーマン。一応テスカトリポカの眷属なのだが、依代の影響なのかテンションがおかしい。今は子供達に塩対応されたせいで泣いている。
「えーん・・・って、テスカんのマスターじゃん。テスカんは?」
「あいつは今周回中だ。」
「うげ〜・・・南無三、テスカん。」
・・・南米の主神に対してその祈り方は合っているのだろうかと思わなくもないが別にいいだろう。そう思って子供達と先に進もうとしたら急に呼び止められた。
「ねえ、テスカんのマスター。」
「?なんだ。手短に頼む。」
「今、幸せ?」
なんだろう、偶にコイツはこんな感じになるのだ。神霊としての側面が出ているのか、それとも依代の素の性格か。
まるで、教師か姉のような、そんな錯覚を覚える。
「・・・・・・ああ、とても。」
だからか、安心して本音が漏れる。
「・・・そっか、うん。なら無問題!!さあ元気に遊んでこい!ガキンチョ共!!」
「「「はーい!」」」
やっぱり教師みたいだな。
この後3人と遊んでいるところに周回で疲れたテスカトリポカが乱入してくるのだが、それはまた別のお話。