「デイビットがモブぐだ♀前提のデイぐだ♀NTR本隠し持ってた…」
これは決して『善いこと』ではない。
人として有るまじき行い、卑劣で下品で許されざること。
それでも、知らぬ誰かと幸せそうに笑うのが許せなかった。恋を宿した瞳がこちらに向かないのが許せなかった。
がむしゃらに唇を合わせる。唾液で濡れて滑り、ぐちゃぐちゃになる。
「お願い……やめて……」
シーツの海に溺れる少女を無骨な手が抑え込む。オレンジのライトを逆光に、燻って熱に揺れる瞳が少女を突き刺している。
「私、彼氏が……!」
表情の読めない男は熱に浮かれるまま少女の首筋をなぞる。汗が男の指が滑り、ぬるりと胸元に向かう。
「……んっ」
胸元を隠す少女の腕を掻い潜り柔らかな胸に指先が沈み、思わずか細い声が漏れた。声をあげた少女自身が驚いたのか手のひらで口を隠す。
「きゃ、あっ、やっ」
胸元を隠していた腕が無くなったのをいいことに遠慮なく下着の隙間に指を忍ばせる。そして、胸の頂きを摘んだ。
「きゃ、あ、あん、やあ」
「下着を取ってくれ」
「いやあ!あ、やめて」
「取るんだ……もっと気持ちよくしてやる」
「あ……」
「アイツよりも、だ」
快感に浮かれて、茹だる頭は理性を手放そうとしている。濡れた唇を首筋に、耳に近付け囁く。
「オレを選べ」
朝焼けのような、夕焼けのような瞳から零れた涙を拭い、震える唇から零れた言葉にほくそ笑む。
これで、自分のものだと。
「……」
「精神年齢思春期ピュアボーイに同人誌は早いんじゃないかしら」
「R-18はだめだったかなー?」
「初めてのR-18同人誌が自分がモデルで寝取りとは業が深いわ……」
「デイビットくーん?生きてる?」
「……イキテル」
「声ちっちゃ!」
「姫やっちゃった?まーちゃんから許可取ったから大丈夫だと思ったんだけど」
通称サバフェス特異点。
締切と性癖と感動とエモと地雷溢れる海に彼はいた。徹夜と発狂を繰り返すサークルを横目に、運営や同人誌のモデルなどで携わっていたデイビットは人とサーヴァントの群れを眺める。
ジャンヌ・ダルク・オルタと刑部姫のいるサークルは藤丸立香も属していたはずだと思い、軽い立ち寄った結果がこれだった。
軽い気持ちで手に取った本の表紙には藤丸立香がなんとも艶めかしい表情でベッドに沈んでいる。シーツに隠れているが明らかに裸の彼女はデイビット見詰めている。そして右下にはハッキリと『R-18』と印刷されている。
「……これ、は」
「あら来たのね。見た通りマスターの同人誌だけど?」
「いらっしゃーい。デイビットくんって精神年齢はよく分からないけど肉体年齢的には読めるでしょ?」
「……藤丸立香から許可は取ったのか」
「当たり前よ。あの子の目につかないことを条件に描いたわ」
「それR-18だから見たいならそこのテント使ってね」
「ああ、あとそれアンタをモデルにしたキャラクターも出るから」
流されるままテントに入り理解を拒む脳で表紙を眺める。
『宇宙に囚われた黄昏の時〜彼の手を取ってしまった夜〜』と題されたそれはとてつもない引力でデイビットを引き付ける。
善くないと分かっていながらも震える手が表紙をめくる。だって、彼女たちが徹夜して作った本だ。だって、自分がモデルの手伝いをした本だ。その時だって「デイビットくんがモデルの本R-18だけど大丈夫?」に肉体年齢はとっくに成人しているから大丈夫と言った自分の責任だ。
だから、読むのは、善くないことかもしれないが悪いことじゃない。
誰に届くわけでもない言い訳を重ねてページをめくった。
そして冒頭に戻る。
「……無理に買う必要はないわよ」
「うん。生モノとか苦手な人もいるし」
「……く」
「なによ」
「……1冊……ください……」
「……」
「……」
「……刑部姫、封筒ってあったかしら」
「……うん、あるよ。入れるから待っててね」
「……すまない」
「謝らないでくれます?それは内容はともかく私たちが死にものぐるいで作った力作なの。悪いことじゃないんだから正々堂々しなさいよ!」
「まーちゃんには見つからないようにしてね」
「……うん」
熱狂のまま特異点は解決し、日常に戻る。そこに非日常な本がある。あくまで自分はキャラクターのモデルで本人ではない。
でも、自分に似た誰かが彼女を暴き、犯し、愛に溺れている。それは表現し難いほどに脳と胸を抉った。
「ねえデイビット、最近目合わないけど……」
「……そうか」
「サバフェスでなんかあった?」
「い、いや……それは」
「なにかあったなあこれ。まあ、あの特異点ってなんというか雰囲気に飲まれ易いからなにかあったかは聞かないけど……」
「……もうしばらくしたら落ち着くから」
「ゆっくりでいいからね?」
「……うん」
「あれ?ねえデイビット、あの本サバフェスで買ったの?」
「!?!?!?」