テントフィックス
夜の森は静かだ。虫の音や、動物が草木を踏む音、雨露がテントの上に落ちる音が時折するだけで、あとはただ静寂。
二人旅を始めて早一年、テント暮らしももう慣れた。仮にも逃亡者である僕たちは、頻繁に宿泊施設を利用するわけにもいかず、小さなテントに寝袋を並べて夜露をしのいでいる。
不意に物音がして、僕は身を起こした。寝袋を脱ぎ、テントの隙間から身を乗り出してマグライトを向ける。闇に光る一対の目がこちらを見据えたかと思うと、あっという間に走り去った。どうやら野生の鹿らしい。
安堵してテントの中に引き返すと、隣にいるノレアを見た。起き上がる気配はなく、規則正しく胸元が上下している。
「ねえ、もう寝ちゃった?」
「……寝ました」
「なんだよ、起きてるじゃんか」
苦笑してみせたが、本当は気付いていた。テントに戻った直後、なんとなく視線を感じたから。
「そっち行っていい?」
「……だめって言ってもくるんでしょ」
言葉ほどには険のない口調でノレアが言う。一瞬の緊張のせいか、人肌恋しくなってしまった僕はノレアのほうへにじり寄る。
寝袋越しに背後から抱きすくめるのと同時に、うなじに鼻先を押し当てて深く吸った。ノレアの肌の匂いだ。――安心する匂い。
腕の中で身じろぎするのを逃がさないよう抱き込んで、耳元でそっと告げた。
「ね、出ておいでよ」
しばらく黙り込んだあと、ノレアがもそもそ起き上がる。柔らかい頬に触れ、顔を寄せると性急に唇を奪った。控えめに開いた小さな口に侵入し、強張る舌を強引に絡めとって味わいながら、黒いトップスの裾からそっと手を差し入れた。
とたんに手の甲をつねられ、僕は悲鳴を上げる。
「いった!」
「何してるんですか」
「えー……ダメ?」
「……だめ」
首を傾げて甘えてみたが、ノレアの表情は硬いままだ。彼女は乗り気じゃないようだけど、僕のほうはおさまりがつかなかった。
一瞬でも身の危険を感じたせいか、早い話が興奮している。これもいわゆる生存本能ってやつなんだろうか。――半分以上、言い訳な気もするけれど。
ノレアは目を伏せて、両腕で自分の身体を抱いていた。再び寝ようとするでもなく、どこか物言いたげだ。口ではああ言うものの、それほど駄目じゃない時の感触だと僕は知っていた。
そっと近づいて、今度は触れるだけのキスをする。何も言わず、黙って見つめること数秒間、消え入りそうな声でノレアが言った。
「……バスタオル敷いて。寝袋汚れるの嫌だから」
夜目にも目元が染まっているのが見て取れる。遠回しのYESにすっかり舞い上がった僕は、バックパックをひっくり返してバスタオルをとり出した。呆気に取られているノレアの横でいそいそと準備をすませ、向き直る。
「……いい?」
「……ん」
声にならない返事がなんとも可愛く、笑わないようにするのが大変だった。
俯くおとがいを捉え、もう一度キスをする。ちゅっちゅっと音を立てながら、柔らかな耳たぶを食み、首筋を辿った。
小さなうめき声を上げるノレアを丁重に寝袋の上に寝かせ、トップスと一緒にブラジャーも押し上げる。
控えめな、でも形の良い白い乳房が微かに震えていた。寒いのか、肌の少し粟立つ様がなんとも官能的だった。
たまらなくなって両手で包み込み、淡いピンク色の乳首を口に含む。舌先でクリクリと弄べば抗議の声が上がった。
「あっ……」
気をよくした僕は、わざと音を立てながらなおも吸いつく。
「……赤ちゃんみたい」
「それほど純粋じゃないかなあ」
「自覚、あるんじゃないですか」
ノレアが恨めしげに言う。
唾液で濡れた乳房から名残り惜しくも手を離し、ショートパンツに手をかけた。ノレアは逆らうこともなく、自ら腰を浮かせて下着だけになった。
シンプルな黒のショーツの一部が、見るからに色を変えている。布地の上からそっと中指を押し当てた。指先に濡れた感覚があって、ほんのり温かい。そのまま前後に動かせば、ノレアが身をよじって抵抗した。
「やっ……」
構わず両脚を割り開き、ショーツを脱がせる。股間に顔を埋めて、ささやかな下生えの中に鼻先をくっつけた。
触れてもいないのにじっとり濡れていて、本能を刺激するような女の子の匂いがする。
見上げれば、ノレアが泣きそうな目でこちらを見ていた。
可愛らしいクリトリスを探り当て、舌先でつつく。トロトロと溢れてくる愛液を掬いとっては塗り広げ、徐々に舌先を中へ差し入れていった。
「も、やだぁっ……」
「本当に?好きでしょ、これ」
耳まで赤くしたノレアが、子供のように頭を振る。閉じようとする脚を縫い止めて、執拗な愛撫を繰り返した。
ノレアが声を上げるたび、下半身に血流が集まって行くのがわかる。一度イカせてあげたいけれど、僕もなんだか余裕がない。
トレッキングパンツの前をくつろげて、はち切れそうなほど昂ぶったものをとり出した。ノレアは潤んだ、どこかもの欲しそうな瞳で僕を見つめ、
「ねえ……」とだけつぶやく。
「うん……」
言葉少なに返すと、すっかり濡れそぼった入り口にそっと先端を当てがった。ゆっくりと腰を進め、狭い内部に侵入する。ノレアは唇を震わせて、鼻にかかった声を漏らした。
やがてすべてが収まると、僕はわずかに腰を引く。緩くピストンを繰り返しながら、頬や首筋にキスを落とした。
それなりに回数を重ねても、ノレアの中は狭くきつい。きゅうっと絡みつくように僕を締め付けてくるから、うっかりすると早々に達してしまいそうになる。
もっといつまでも可愛がっていたいのに。
「あっ、ああっ……あんっ」
膝裏を持ち上げてより深く腰を突き入れる。イイところに当たるよう、ぐりぐりかき回すとノレアの背中が小さく跳ねた。
いよいよ蕩けた焦点のあわない目が、なんとも色っぽい。普段の面差しはまだあどけなさも残るのに、時折どきりとさせられるから不思議だ。
いつもより目じりが下がって柔和になった表情に、無性に甘えたくなった。
「ノレア、ノレアッ」
ノレアが腕を伸ばし、僕の首に回した。夢中で腰を振る僕を、小さな身体で懸命に受け止めようとしてくれている。
ひときわ高い声をあげ、ノレアが先に達した。背筋を駆けあがるような感覚に身震いする。
今、この瞬間だけは死んでもいいなんて、ほんの一瞬思ってしまった。いいや嘘だ。絶対に死ぬもんか。僕もノレアも生きて、あの場所へたどり着いて、その先は――
曇る思考の片隅で、咄嗟に引き抜こうとした僕の背を、ノレアが両脚で抑え込む。困惑するうち、強い開放感とともに勢いよく精が放たれた。
半ばやけくそで強く腰を押し当てて、ノレアの中に射精する。全部出しきって、倒れ込むようにノレアの横に突っ伏した。
二人とも息があがっている。乱れた息を整えながら、額の汗を拭ってやった。
「……ねえ、出しちゃったんだけど」
「だって、汚れる、でしょ」
まだ少し弾んだ声でノレアが言う。そこ!?と思わないではなかったけれど、追及するのはやめておいた。
腕の中に抱き寄せて、つむじにキスを落とす。愛してるよと囁けば、とびきり甘いばか、が返ってきた。
夜が明ける。抱き合ったまま眠っていたはずが、ノレアは先に起きて身支度をしていた。昨日の乱れた姿は鳴りを潜め、すっかり涼しい顔だ。おはようと言いかけたその時、ノレアが肩を震わせた。
「……どうしたの?」
「いえ、その……」
言いにくそうに言葉を区切り、下腹部にそっと手を当てる。膝を擦り合わせるようにして、「……あなたの、が」とつぶやいた。
意味するところを理解して、なんだか照れくさくなった。真っ赤な顔で俯くノレアに「今度はホテルでしようね」と言って怒らせたのは言うまでもない。