テストプレイ

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ルフィ達がいなくなった後のW7の日常


SSNO1 ◆M5SldfegaQ23/02/14(火) 00:05:15

──その頂に流れ出る 伏流の水美しく 鳴り響くのは 職人気質の槌の音

街の活気にリズムを合わせ かんな木槌を打ち鳴らす

煙噴く鉄の列車に願いを乗せて

──その島の名は"水の都"「ウォーターセブン」


船大工の街として名高いウォーターセブン。街はその島の性質上、中継地としての役割も併せ持っている。

新しい船を造るために立ち寄る船。壊れた船を直すために立ち寄る船。更なる機能を新たに加える改造を施す船。毎日寄港し、そして旅立っていく船の数は数知れず。

今日もまた、様々な地から集まった船の船員がもたらすいくつもの噂話が表れては消え、表れては消えていく。


「──"裏町の変態"?」

昼時。職人の集まる安めだが量が多くそこそこ美味い行きつけの定食屋で、丁度昼の時間の合った元フランキー一家の子分達3人は昼食を取っていた。

「おうよ。前半の島から来た連中からよ、この単語を最近何度か聞くんだ」

「はァ?おめェ裏町の変態って言ったらそりゃあ…」

「「「フランキーのアニキ!!!」」」

「うぉーん!!アニキ元気に変態してたんだなァ!!」

下町のマナーのない男達が立てるガチャガチャという食器の音、騒がしい噂話、それをはるかに超える感極まって泣き出す強面の男達の大声は酒場中に響き渡った。どこからかウルセェよ!という野次が飛ぶ。

「いやいや!おれもそう思ったけどよ!おかしいんだよ!アニキがグランドラインを逆走するか!?」

野次に我に返ったのか、髪を特徴的に逆立てた男は突っ込んだ。

"鉄人"フランキーはかなり前に旅立っており、元気に海賊麦わらの一味幹部として各地の新聞を賑わせている。だが、フランキーは一路、麦わらのルフィを海賊王へと導くクルーとして夢をひた走る途中。グランドラインの果てにあるワンピースへと向かう彼らが前半の島へと逆走し、他の島の裏町で変態を披露していることは考えにくい。確かに…と顔を見合わせる男達。

「おいどうする?」

「どうするっておめェ…」

「こんな気になる話聞いちゃあ今日のカンナ削りに身が入らねェよ。情報集めてみようぜ」

「ココロのばーさんは?」

「海列車に乗ってる海兵から話聞いてるかもな」

「戻って職場の連中に話聞くのもいいかもしれねェ」

「他は…動きながら考えるか!」

「他にも気になる噂話もあるしな!」

善は急げと立ち上がり、勘定を払うのもそこそこに男達は走り出した。



SSNo2◆TlbXXDOj1ypp23/02/14(火) 14:24:49

 網タイツの特徴的な格好の男たちが、船舶登録所の前をあわただしく通り過ぎていく。横目に見つつ抱えた頭をがりがりと掻く二人。

 ベテラン職員たちは今日も今日とて書類の中身に嘆息していた。

「この船もサニーあの船もサニー」

「サニーサニーサニー、だぁぁもうゲシュタルト崩壊するわ!」

「アイスバーグさんお手製の船だぞ、あやかりたい気持ちは判らんでもねえがこうまで続くとなァ」

「あ?変態が作ったんだろ」

「は?市長主体に決まってんだろ」

 しばしのにらみ合いを続けたのち、胸ぐらをお互いつかみ合う。

「やるかコラぁ!」

「上等だオラぁ!」

 相当フラストレーションが溜まっていたらしい二人は、表に飛び出てボカスカやり始めた。その傍らの水路をすいすい泳いでいくヤガラ。その背にまたがる少年は、あくびをかみ殺す。懐いた自慢のヤガラと街中をかけずり回り、様々な場所と繋ぎをつけるメッセンジャーだ。

「ふぁ。今日はちょっとヒマだったね」

「ニー!」

「うん、水水肉食べにいこう」

 ぽんぽんと少年が背筋を叩いたヤガラは機嫌良くスピードを増した。尾鰭が張り飛ばした水しぶきが、景気よく喧嘩する二人へと降り注いだ。

「つべたっっ」

「しょっぱァ」

 びしょぬれの格好を情けなくにらみあいながら、頭の冷えた二人は職場へと足を向ける。

「そういやァ、メリーって名前も少し増えてんだよな」

「なんだそりゃクリスマスかよ」



SSNo.3◆Gv599Z9CwU23/02/15(水) 12:05:58

「うーんこの額じゃあ完全な修理は難しいなぁ。中途半端に直してもまた壊れるし危険だ」

「そこをなんとかならねェかな?何だったらおれ直すの手伝うよ!」

「お前まだガキんちょじゃねぇか」

「ガキじゃねぇ!もう17は立派な大人だ!」

「えっ……ま、まあそれでも素人に勝手に仕事場うろつかれるわけにはいかねェ。なぁ、もう少し小型の船に買い替えちゃどうだ?それなら何とかなるぞ。ここら辺の海で乗るだけなら問題ないだろ」

「それはできねェ……この船はうちで代々乗り継いできた大切な船なんだ。頼むよ…」

「そう言われてもなァ、う~~~ん」

 中規模のドッグの前でそこの棟梁は逞しい腕を組み渋い顔で唸った。

 何があったのか、側面が大破した船をこの小柄な少年がひとりで操りたどり着いたのには驚いたが、身の上話を聞いたところで修理代を負けてやるわけにはいかない。

「すまんな坊主、なんともならん」

 少し涙目になっている顔は余計に幼く見え、心が痛む。しかし慈善事業をやってるわけではないのだ。

「とりあえずお前の船はここに置いてけ。どうするか決まるまで預かってやる。動かすのももう危険だしな」

「あ…ありがとう」

 しかしそう言われてしまうともう何も言えなくなってしまった。

 少年は棟梁たちに頭を下げると、とぼとぼと歩き出した。



SSNO.4◆bWAgsIbv6s23/02/18(土) 16:47:30

 トボトボと肩を落として少年は街を歩く。活気ある人々が行き交う賑やかな街路は、肩を萎めて歩く姿すらもおおらかに受け止める。誰もこちらを気にしないその様になんだか自分が透明人間にでもなったような気持ちになって、少年はうっすらと目に涙を浮かべた。

 これからどうしたらいいのだろう。船を本当に捨てるしかないのだろうか。脳裏に船を優しげな手で撫でる祖父の姿が思い浮かぶ。


 ──この船もだいぶ古くなっちまったが、なあに、大事に使えばまだまだ動くさ。お前の役に立つといいんだが──


 笑って送り出してくれた祖父に、なんと言えばいいのだろう。そう考え出す頭をぶんぶんと振って、湿っぽい考えを頭の中から追い出した。

「あの船大工は金が足りない、って言ったんだ。直せないとは言ってない。どうにかして、金を稼げば……」

 自身を励ますようにそう口に出し、顔を上げる。これだけ賑わいのある街なら、きっと何かしら仕事はあるはずだ。まずは仕事を探そう。そう決めて少年は一つ頷き、港の方に足を向けた。

 港の近くは島に訪れた者のための店が多い。荷下ろしなりの仕事なり屋台の売り子なり、きっと何かしらの仕事がある。


 そう考えながら歩く少年の少し先で、何やら男たちが壁にチラシを貼って駆け出していった。もしかして何か仕事の募集だろうか。期待しながらそちらにより、チラシに書かれた文字を追って首を傾げた。


「裏街の変態の情報求む?……変質者でも出てんのか?」



SSNO.5◆V5yQtYDIac23/02/24(金) 18:57:12

『裏街の変態の情報求む』


と書かれたチラシを見た男は苛立ちながらチラシを引きちぎり、

「俺は変態じゃないっつーの」

とつぶやく。

そのまま感情に身を任せ、チラシをくしゃくしゃに丸めて投げ捨てる。

男の顔はチラシの写真と瓜二つであり、服装は短パンしか履いておらず男を見た人に『変態』と称されてもおかしくない格好だった。

「チッ、まさか俺が昼寝している間に、船に泥棒が入って来て、船においてあった食料と財宝、しかも俺の一張羅の服まで取られちまうとは、本当についてねぇぜ」

「...しっかし、船長も冷たいやつだなぁ。確かに船番を任されたのに寝てたのは悪かったと思うけど、だからって船おりろはないだろ。しかもこの格好で。」

愚痴を言いながらも男はウォーターセブンの裏路地をあてもなくトボトボと歩いていく。



SSNO.6 ◆8/MtyDeTiY23/02/26(日) 11:03:01

 キャハハハハ、と笑う甲高い声が聞こえた。水水肉を手にした子供達が、男の歩く路地の前を走っているのだ。男は壁にへばりついて、見つかるまいと息を潜めた。

 やがて誰の声もしなくなったとき、やっと男は壁から離れる。

「危ねェ、見つかる所だったぜ………こんな格好でガキの前に出たら、最悪海軍行きか?それだけは避けねェとな」

 あーあ、なんでこんな事になっちまったんだ。男はため息混じりに愚痴を溢し、また見知らぬ路地を歩いて行く。


 そんな男の前に、黒ずんだ青いバケツ型のゴミ箱があった。その中には、乱雑に入れられシワの付いたままの、薄汚れたアロハシャツが。

 短パン一丁の男は、これ幸いとばかりにそのゴミ箱に飛びついた。アロハシャツに乗っていた骨を投げて、埃を落とす。

「なんか汚ェけど……まァ何も無いよりかマシだな」

 見た目に合わず存外綺麗好きな男は、ため息をつきながらシャツに袖を通した。シャツは男より一回りくらい大きいサイズだったが、先程より『変態』感はなくなったのではないだろうか。

 これで堂々と町に出れるな、と安堵した男は、他にも何か使える物がないかとゴミ箱を漁っていった。




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