テステス
人間になったテスカんが聖杯戦争で呼ばれたテスカトリポカに遭遇するハートフルなおはなしだよ♡
人類最後のマスター、藤丸立香が世界を取り戻してから数年。戦いの最中に神性を失ったテスカトリポカは世界中を放浪していた。満足に動かない右足は時に枷になったが、ただの人間でいられる世界に吹く風はテスカトリポカにとってそう悪いものではなかった。
深夜、何気なく路地裏に足を踏み入れた時だった。程々に繁栄した都市にも関わらず、その道には人っ子一人居なかった。否。そもそも生物の気配がしなかった。
「ッ!?」
鋭利な刃物でありとあらゆる場所を突き刺される錯覚。ソレに気づいた時にはもう手遅れだった。恐怖がテスカトリポカの足を地面に縫いとめ、逃げる意志すら喰らっていく。圧倒的な存在感を持つナニカが暗がりに立っていた。
「おまえ、は──」
ようやく闇に慣れた瞳はついにその存在を視界にとらえる。かつて作り上げた金髪白人の男の姿ではない。現在のテスカトリポカの風貌とは似ても似つかない姿だったが、男は本能で理解した。これは。この、神は。
「テスカ──」
テスカトリポカ。そう口にしようとした自身の口を塞いだ。それでも尚押さえられぬ悲鳴が漏れ、奥歯が勝手にガチガチと音を立てる。
(違う、違う違う違う── !!!!煙◾️◾️は、◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️は俺で──)
なけなしの理性はここを離れるべきだ、と警告する。しかし恐怖に屈した体はもはや彼の意志では動かなかった。いつの間にか距離を詰めていた◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️が容赦なく顎を掴み、至近距離で瞳を覗き込んだ。
「随分と愚かな選択をしたものだな」
「……!」
憐れまれている。反射的に自身を戒める手に掴みかかるが、それ以上の力で壁に叩きつけられる。衝撃に息が詰まり、涙が滲む。トドメと言わんばかりに男の右足に体重がかけられた。太陽を映さない肉の脚はされるがままに骨を軋ませた。
「が、あ゛ッ……!!」
「足掻くな。なに、命までは奪わんさ」
無謀な抵抗はたちまち制圧される。今の男はもはや何の力も残っていない◾️◾️なのだから。痛みに喘ぐ男を見て神は嗤って言った。
「オマエはもう、テスカトリポカではないのだから」
「──ぁ」
骨が折れる鈍い音。折れたのは本当に骨だけだろうか。テスカトリポカが手を離すと男は糸が切れたように地べたに座り込む。血色の悪い肌は蒼白に、直前まで神を睨みつけていた眼は絶望に染まりきっている。その痩躯に闘志が無いことを認めると、テスカトリポカは姿を消した。神が男を振り返ることは二度と無かった。ただの傷ついた人間が一人、暗夜にとり残された。
どれくらいの時間が経っただろうか。抜け殻のようになった男の唇が何かを低く呟く。
「……ますたー」
陽だまりのようだった少年/少女の笑顔が男の脳裏に過ぎる。マスター、というのも今の彼が口にするべきではない。何せサーヴァントではない上に、マスターとの契約はとっくに切れている。自分から手放したにも関わらず、未練がましくも彼/彼女のことを忘れられない。折られた足から伝わる痛みがどうしようもない孤独を増幅させる。
「立香、りつか……」
マスターの名前を呼ぶ声は酷く弱々しい。掠れた声は誰に届くことも無く、夜の風に流され消えた。
神だった頃は余裕で気付けたのにね。人間だから危機回避能力も落ちてるね。可哀想だね。もう人間の上に戦士とも見做されずテスカトリポカ(神)に見逃されるのカワイイね。
人間になっても「テスカトリポカ」であることに誇りを持ってて欲しいんですよね。まぁ今回はその誇りをテスカトリポカ(神)に砕いてもらったワケですけど