チャカよ、お前もだったのか
ふたビビ×鰐
CPその二人だけ書きがちのオタク、友情出演ペルへの熱い土下座。前提からしてバレたら絶対かわいそうなことになるの確定してるの詰みなんだ!ごべーん!
所詮はアホえろギャグ世界線なのでシリアスは速攻で死にます
ビビ様は思春期を情緒スナスナ鰐の側で過ごしてしまった悪影響でだいぶ逞しくなってるんすよね
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「つまりね、私たちは大鰐を飼っていたのよ」
茫然とする己に優しく語り掛けるビビ様の瞳は、知らない色が渦巻いていてどこか底が知れなかった。
「ビビ様!王家があの男を秘密裏に確保しているというのは本当ですか!?一体何故……」
「王家じゃないわ。私が個人で飼っているの」
ペルにもバレちゃったわね!ぺろりと可愛らしく舌を出す王女。あまりにもいつも通りで、それなのにこの異常な事態を当然のように認めている強烈な違和感。ペルはこれがなにか悪い夢かと頰肉を強く噛み締めたが、一向に目覚める気配はなかった。
「……復讐、ですか?確かにアラバスタはあの男に散々に荒らされました。ですが、ですが他でも無いあなたが修羅の道に堕ちることなど……到底、私は……!」
ペルは恐ろしかった。敬愛する我らが王女、皆を愛し愛され気高く美しく成長した誇り高きアラバスタの光。あのきらきらと陽だまりのような笑顔で笑っていた少女が、夜な夜な憎むべき怨敵を暗く沈んだ瞳で甚振るというのか?途端に心臓が夜の砂漠のように凍えるのを感じ、この身を挺してでも闇から救い上げねばと王女の元に馳せ参じていた。他のことを考える余裕すらなかった。
「お、落ち着いて!多分ペルが想像していることとは違うと思うというか……ううん……そういうことでは……ないと思うの」
「……?」
「執着、が一番近いのかしら……?私ね、あの人がこの国に対してやったことは絶対に許さないわ。でも……それと同じくらい、あの人が私以外の何ものにだって所有されるのが耐えられないの。罰だって何もかも私が与えたいの」
飼っている。所有。言い回しが独特だがつまりは長年寄り添っていた存在への情を捨て切れないということだろうか。
「……ビビ様は、幼い頃からあの男によく懐いておられましたね……」
「ふふ、面倒臭がりながらなんだかんだで相手をしてくれるあの人。どこまでなら許されるんだろうって、もっともっと私のことを考えて、見て欲しくて、沢山迷惑を掛けちゃったわ」
「ビビ、様……」
薄っすらと頬を染め、在りし日を想うように虚空を見上げる姿は儚く美しい。
確かに本当に懐いていた。大きな体躯の男と小さな王女。姿を見掛ければ頬を紅潮させ、抱き着く勢いで後をついて回るのが超カルガモの親子のようで微笑ましいと笑う者もいて───ペルは気付いてしまった。王女は、道ならぬ恋をしてしまったのか?
「あなたは……その、サー・クロコダイルという男を、どのように……」
「……なんだろう、分かりそうだけど、全然分からなくなっちゃった。色んな感情がぐちゃぐちゃなの。確かにどれも本物なんだけど……たまに全部一纏めにしてアイツに突き刺してやりたくなるときがあるわ。本当に憎ったらしいの」
「それは……愛憎でしょうか」
「…………憎さは百倍ってね」
明言は避けられた。
あの男は結果としてアラバスタに深い爪痕を残したとはいえ、砂漠の英雄としての功績は本物だった。悪辣で賢い男だ、何事にも手を抜くことなく完璧に熟すことで誰も彼もを騙し尽くした。実際に救われた者もいるため未だに混乱している国民も多い。ましてやかなり近しい存在だった王女にとっては簡単に言語化出来るものではないのだろう。人の心とは複雑なものなのだ。
これは褒められた行為ではないのかもしれない。いいや、傷付いた国民を思えば罪人には然るべき罰を受けさせるのが当然だ。それを怠るのはそれこそが罪なのだろう。
……だが、あの男をこの地に縛り付けておくことで我が王女が心穏やかに生きられるというのなら。
ペルは覚悟を決めた。ならば私はあなたの罪を共に背負いましょう───その意を込めて小さく苦笑する。
「そうですか……」
「どれだけ共に夜を過ごしてもあれなんだから、ほんと人間の情とか無いのかしらね、あの爬虫類」
「そう……、ん?んん??……ん!?」
「どうしたのペル、顔が赤くなったり青くなったり凄いことになってるわよ!?」
「え、いや……え!?あの、えーー……失礼な質問を、申し訳ありません……ビビ様はその、あの男とそういう……?」
「……やだ、ペルったらそこまでは知らなかったのね」
勢いで恥ずかしいことを言っちゃったわ。
ぽっと赤くなった王女を見て、忙しかったペルの顔色がマグマの如き憤怒の赤に染まった。
「ビビ様、私、クロコダイルと面会させて頂きたいのですが」
「ええ?良いけど暴力とかはダメよ。海楼石で大人しくなってるけど絶対反省とかしてないから」
◇
「へェ、本当に生きてる。動物系の頑丈さはすげェな」
開口一番これである。
一周回ってなんか凄い。この男だって長年コツコツやってきた計画を盛大に爆破されたのではなかったのか。なのにベッドの上で寛ぐ(海楼石で脱力しているともいう)男の瞳からは動物系の耐久性へのちょっとした興味の色以外、悔しさも怒りも何の未練も感じなかった。
恐らく今アラバスタについての恨み言をぶつけても「もう終わったことだろ?」と返されるに違いない。割り切り方が常人のそれではなく、理解出来ないものへの恐怖を僅かに感じて咄嗟に言葉が返せなかった。
「爆散させた本人を目の前にしてその感想……絶対謝ったりしないとは思ってたけど、この最悪爬虫類!後でお仕置きだからね!」
「あァ?生きてんだから良かったじゃねェか」
王女の声にハッと我に返る。そうだ、こんなところで怯んでいる場合ではない。事案だ事案、大切な王女に手を出したクソ野郎をガン詰めしに来たのだ。
「く、クロコダイル!貴様ァ!!いつからだ!!幼気なビビ様になんたる不埒な」
「アーアーまたそれかよ!?どいつもこいつもテメェで何人目だ!?報連相も知らねェのかここの人間は!いい加減にしろ!」
……何故こちらが怒られているんだ。
釈然としないまま言葉を遮られた不快感に顔を顰め、ごほんと咳払いをして仕切り直す。
「年端も行かぬ少女に手を出すなどと外道の行いをしておきながらその態度……信じられん……」
「その前提が間違ってんだよな」
「何が間違っている…………あるんだろう、肉体関係」
最後はこしょこしょと囁いた。この期に及んでもあまり生々しい言葉を王女の耳に入れたくないペルの意地である。
「まァ、あるな?」
「あっさりと認めておいて何を……!」
「だから、手を出されたのはおれだっつってんだよ」
「…………はァ!?」
ぐるっと王女に振り返った。きゃっ!と恥じらうようなポーズを取られても困る。え、ええ……?
「ここに押し掛けてきた連中もコイツの見た目に騙されて、その脚の間にご立派なモンぶら下げてることを都合良く忘れてやがる」
「下品な言い方しないでちょうだい!」
「待って、待ってくれ……」
「いいや待たねェ。男の生理現象の処理の仕方を教えろと絡まれて以来何度も来やがって仕方なく対処してやってたらある日突然海楼石で拘束されてケツをブチ抜かれたおれの気持ち分かるか?」
「えっ」
「それからはもうずっとズルズルズルズル事あるごとにファックされ続けて手篭めにされた身体の夜泣きは止まらねェし胸もケツも育つわ男として色々終わるわですっかりそこのクソ王女のオンナにされちまったおれの気持ち分かるか?」
「ワ……」
情報処理が追い付かない。立て板に水のように早口で流し込まれる男の文句に脳が悲鳴を上げている。
───やめろ、胸を寄せて上げるんじゃない!
これをあの清純派のビビ様が育てたなんて、そんな、信じられるか!
本当なんですか?王女を見ると、何というか、私がこの身体を育てましたみたいな生産者の顔をしている。むふーっと満足げな吐息を漏らさないで欲しい。
「分かったかよ?ここの関係に関してはテメェらの大事な大事なお姫様が無理矢理始めたことだからな」
「…………一つ、いいか」
「なんだ?」
「国家転覆はその、ビビ様に手篭めにされたことに耐え切れず……といった感情が少なからずあったりなどは……ないか?」
「呆れた善人共しかいねェのかこの国はよ。バカにすんじゃねェ、おれはきちんとこの国を喰い散らかす為に計画を立てて挑んだんだ。むしろ王女サマにはだいぶ引っ掻き回されて困ってたぜ?結局こうして取っ捕まっちまったし、とんだ天敵だったな」
「むー!!」
「んぁー、やめろ叩くな……」
ウッカリじわりと生まれた気まずさと僅かな申し訳なさにもバカかよおれは悪党だが?と返されてしまっては何も言えない。実際それはそうなのだが、これでこの男が真っ当な善き英雄だったら国王が青ざめて引っくり返るくらいのやらかしではあるのだ。スッと受け流すのは難しい。
アラバスタの守護神として誇り高く、善良に。今まで己の信じてきた常識というものがガラガラと崩れ落ちてゆく感覚。クラクラしてきた。もしかしてあの爆発で己はとんでもないパラレルワールドに吹き飛ばされてしまったのでは?
思わず現実逃避をしそうになったが、ぺちぺちぺちと王女が男の豊満な胸を叩くリズミカルな音で意識を引き戻されてしまった。
───そんなはしたないこと良くないですよ。あ、でももっとはしたないことしてるんでしたっけ。されてるんじゃなくて。してる。この男に、ビビ様が。泣きたい。
「そういえばビビ様はどうして……なんというかこう、見ていた限りではショックを受けるとか、そういう感じでは無かったような気がするのですが……」
あぁ、と胸を叩くのを止めた王女がこちらに向き直る。
「つまりね、私たちは大鰐を飼っていたのよ」
「……?」
「大鰐は私たちの言うことも良く聞くし、とっても強くて賢くて私たちの外敵も追い払ってくれる。ちょっと性格と口が悪いけど可愛いところもあるわ……だから人間って思い上がっちゃうのよね。うちの鰐ちゃんはすごく良い子で懐っこいのよって」
「は、はァ……」
「そしたら動物学者の人に"爬虫類は懐いているように見えてもそんなことないんですよ"って言われて、こんなに懐いてるのに?って驚いていたらある日突然デスロールを喰らって腕一本持ってかれちゃうの。大鰐は飼い主のことなんか知らんと言わんばかりにさっさと脱走。でも絶対に誰のものにもなって欲しくないから必死で追い掛けて、今はなんとか捕獲したところ。そんな感じ。この生き物はそういうことなのよ」
「オイ……テメェ黙って聞いてりゃ人を脱走危険ペット扱いしやがって……」
「実際そんなもんでしょうが!」
「あァ…………」
そうかも。いや、多分根本的に違うんだな。そういうものとして捉えておくのが精神衛生上まだ良い気がする。
ビビ様、本当にずぶと……お強くなって……。
当初の覚悟はなんだったのか、もっと色々言うべきことや抱くべき感情があったのではないか。しかし情報量の砂嵐でぐちゃぐちゃにされた結果うまく感情をアウトプットすることが出来ずに退室することとなった。
まァみんなそんな感じだったぜと怠そうな男の声を背に受け、時折唸って頭を抱える国王や、再会してからなんだか何かを言いたげだったりぐったりと脱力したりある日突然虚無を背負ったりと様子がおかしかった相棒の姿を思い返し、納得した。
◇
───が、だが!
どうやっても昼間の情報を素直に飲み込むことが出来ない。あのビビ様にクロコダイルの言うようなとんでもないことが果たして本当に出来るのか……?
もしかしたら何らかの暗示を男に掛けられている可能性だって無いとは言えないだろう……ペルは藁にも縋る思いだった。
思い立ったら行動あるのみ。夜に王女が離宮へと向かうのを確認したペルは、暫く時間をおいて軽やかに空を舞った。目指すところは同じである。
何処の部屋かはもう分かっているので侵入はスムーズだった。今頃は共に過ごしているだろう……少しでも男が何か不穏なことを王女に施したり無体を働いている様子が窺えたら即刻処してやる……。
滑るように素早く、音もなく扉に忍び寄り、耳を当てた。
ぱんっ ぱんっ……
「あ"っ!♡くそ、なん……だよぉっ!♡」
「少しは申し訳なさそうに出来ないのっ?あなたの、せいで、ペルは、大怪我したんだからっ!」
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
「んゃ、あ"!あ"っ!あっ♡あ"ぁーーっ!♡」
「ん、くぅ……っ♡もう、すぐに悦んじゃうからお仕置きにならないわ……っ!」
「……るせ、ん"んぅ……っ!♡」
「こら、また喉奥まで突かれたくて憎たらしいこと言ってるんでしょう?ほんと、憎ったらしくて、憎くて、憎くて…………可愛い……♡」
「ふぁ……♡あ"、ん"ん……!」
「んふ、はぁ……♡すっごいヒクヒクしてる♡ココはいつだって私のおちんちんを美味しそうにしゃぶる、とっても素直な良い子なのに……♡でもいいわ、じっくりいきましょう?言ったでしょ?いっぱい気持ち良くなって牙全部抜いて身も心もえっちな子猫ちゃんになりましょうね、わーにちゃん♡」
どちゅっ!どちゅっ!どちゅっ!ぐちゅっ!
「あ"あぁあぁーー!!♡♡ん"や"ぁ……っ♡そこ、あ"、ビビ……っ!ビビィ……♡」
「うん、うん♡クロコダイル♡もっと鳴いて♡私だけを見て♡」
───限界だった。
深淵の扉を不用意に叩いてしまった代償の大きさに黄昏れるペルは、いつか見た相棒とそっくりのスペース・ウミネコとも言える虚無顔を浮かべてその場を去った。
良いのです。ビビ様がそれで良いのなら、良いのです……。