チェンソーマン対サムライソード

チェンソーマン対サムライソード



マキマは京都で開かられる上役との会食の為、新幹線に乗っていた。車窓からぼんやりと景色を眺める彼女は憂鬱だった。肩書きのある面子との顔合わせは緊張感があって嫌いだ。食事は穏やかで楽しい方がいい。

「昨日のお酒美味しかった…」

長生きはするものだ、なんて使い古された言い回しが今の彼女にはよく似合う。少年の身体を乗っ取ったチェンソーマンが己の部下として働き出すなど、夢にも思わなかった。

ーー物思いに耽っていたマキマの鼓膜を、軽く甲高い音が貫いた。

「銃声…?」

「?…民間には出回っていないが」

「知らんとは愚かじゃの…これは太鼓じゃ」

デンジはアキ達とラーメンを食べに来ていた時、不吉な音を聞いた。デンジ以外問題にしていない為、確かめにいくことはせず食事を続ける。先日の歓迎会の際、泥酔した姫野をアキに介抱させたが日付が変わる前に彼は戻って来た。

「ここのラーメンよく食えるな……味ひどくないか?」

近くの席で食事をとっていた男が突然話しかけて来た。

「俺はフツーにうめぇけどな」

「ワシに気安く話しかけるな!」

男はしかめっ面で美食家を気取った持論を展開する。いきなり絡んできた挙句、露骨に見下してくる。関わり合いになりたい輩ではないし、パワーの機嫌がだんだん悪くなって来ている。このまま放置していたら手を出しかねない。

「店出るか」

「俺のじいちゃんは世界一優しくてな。じいちゃんの仕事がうまくいかなくて苦しんでたにも関わらず、俺にいいモン食わせてくれてたんだよ」

男は席を立ったデンジ達を見ようともせず、独白を始めた。会計に向かうアキ達は男から視線を外している。男の話す祖父像に引っかかる物があり、デンジは立ち止まったが、それの正体は掴みかねた。

「み〜〜んなに好かれてた江戸っ子気質のいい人だったんだ。デンジも好きだったさ…なぁ、ポチタ」

「お前…」

「知り合いか?」

男が見せて来た写真を見た瞬間、デンジは男に飛び掛かっていた。デンジに借金を背負わせていたヤクザの老人と、恐らく幼少期の男。

「じ…銃の悪魔はテメェの心臓が…」

「ゔぁぁあぁっ…!」

馬乗りになったデンジは男を膝で押さえ込み、空いた手で首を絞める。身体の震えが抑えられない。

ーー墓入った後だったら、ヤクザも追ってこないだろ。

デンジはあの日そう言った。もう終わったんじゃないのか。それとも自分があの老人を殺したからか?だがあの男は悪魔と契約したのだ。デンジはデビルハンターだから、殺していいはずだ。

「チョンマゲ!」

男の態度に苛ついていたパワーが加勢に入ろうとするが、体格と重量で男に分があった。男はデンジを脚で押し返す。

 「クソが……ぶち殺してやるよ、化け物!」

男が咳き込みながら左手首を引き抜くと、そこから小刀が伸びていた。男の姿が変貌する。軍帽と外套に身を包んだ姿は軍人のようだが、目や鼻といったパーツは見受けられず、帽子の鍔が変化した刀の下には、歯を剥き出した口しかない。そして両手からも、長大な刀が伸びている。

「…悪魔になった?」

異形と化したヤクザの孫がデンジへ攻めかからんとした瞬間、店の壁ごとその五体が斬り裂かれる。目に入ったのは唸り声を上げる5本の妖刀、そして腸のマフラーをなびかせる魔人。

「姫野先輩…怪我は」

「全然平気…それより、当分出入り禁止だね」

爆音と共に半壊した店から、向かいの建物を眺めつつ姫野は言った。目まぐるしく変わる状況に混乱していたアキだったが、立ち直るとすぐ公安に応援を要請する。

(離れた…!)

付近に潜伏していた沢渡アカネは状況を確かめると、契約している蛇の悪魔に呼びかける。襲撃は成功したが、今回チェンソーの心臓を奪うのは不可能と判断。一度撤退したいのだが、自力で回収にはいけない。

しかし蛇の悪魔は命令を拒否。交渉する時間はない。グズグズしてたら公安に孫を回収されてしまう。

「左腕と…寿命の半分やる。あいつらには関わらなくていい、私が指定した地点までアイツを運べ」

沢渡の差し出したものに満足したのか、彼女の左腕が付け根から消えた。代償の大きさに怯む事なく、沢渡はその場から遁走する。店からだいぶ離れた頃、残った右腕で無線を取り出そうとして、視界に影が差した事に気づく。

ーーチェンソー様だ!

チェンソーマンは前蹴りで沢渡を蹴飛ばすと腸のマフラーで彼女を拘束。アキ達のもとに連れ帰った。

姫野と共に事件の事後処理に立ち会った後日。出勤したアキのもとを見慣れない職員の男女が訪ねて来た。

「なんだお前ら…」

「私達マキマさんに頼まれて京都から特異4課を指導に来ました」

「指導…?」

今回、公安職員の多くが犠牲になったが、姫野とアキは無傷。

「…指導ってのはそういう事か」

「お察しが良くて助かる」

「ウチらは特異課にいる人間組のキャリア相談にきました」

アキ達が生き残ったのは2人が強かったからでは無く、魔人と悪魔がその場にいたおかげだ。

「不謹慎やけど今回の事件でやめどきと思いましたけど?実際、キミの課の人が一人民間にいったし」

円の事だ、とアキと姫野は察する。アキ自身、デンジとパワーと比較して戦力が二回りは劣っていると感じていたが、それでも退職の意思はない。家族を殺した銃の悪魔、仲間を殺した刀の男、彼らを殺すまではやめれるわけがない。

「もうちょっと自分を客観的に見た方がいいですよ。付き合ってくれてるバディさんにも悪いでしょう」

アキの決意を聞いた男の職員は呆れた様子で去っていった。

後日、アキは以前面談に来た2人の職員と共に施設の地下に降りていた。マキマに申請した追加の悪魔契約が許可されたのだ。姫野は縋りついて止めたが、アキを翻意させる事はできなかった。

「昨日の今日ですけど、正気の沙汰とは思えませんね。悪魔ちゃんと魔人くんに全部任せといたら良くないですか?」

「…」

「沢渡の自殺は痛かったですね。尋問する暇も無かったとか」

下降する足場を降りると徒歩になった。

男の職員の方は態度が軽薄で、姫野とアキの関係について馴れ馴れしく聞いてくる。一行はやがて一つの部屋の前にたどり着いた。男曰く、この部屋にいるのは未来の悪魔。



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