チェンソーマン・ファイナルミッション

チェンソーマン・ファイナルミッション


「こりゃあ、ここに家宅捜索入るな。地下の武器見つかったら、国家転覆罪になるかもだ」

都内にある教会で報道を知った老齢の信者は、戦闘訓練を受けた信者全員を礼拝室前に集めるよう、教祖に命じた。

チェンソーマン教会の信者達は武装して、公安の突入を迎え撃つ準備を急ぐ。

「この銃はチェンソーマンから譲り受けた光の武器である!光を持ってして国家の闇を晴らす事こそ、チェンソーマンの意思である!」

老人の言葉に、武装した信者達が歓声で応える。

特異7課の職員が1名ずつ、正面玄関と裏口から投入されたのが、戦いの合図となった。トンカチを両手に携え、脳が半分露出したような頭部を持つ職員は軽口を叩きながら応戦。どこからか出現させた釘で信者達を壁に縫い止めていく。

「公安の犬め!悪魔退治が悪魔に心売りやがって…!」

老齢の信者が異形へと変化し、トンカチの魔人に襲い掛かる。巨大な蹴り足が魔人に命中する寸前、刀を両手から生やした怪人がその場に乱入し、老齢の信者を斬り刻んだ。


東京、神奈川、福岡、鳥取、大阪にあるチェンソーマン教会関連施設は制圧が完了し、隠されていた銃火器も押収された。未成年の違法契約者は悪魔管理センターに送られる事になった。

「保護者を呼んで、被害者の会を設立させろ。マスコミにも入らせて、泣いてる顔を撮らせる」

チェンソーマン教会への対応は概ね順調に進んでいるが、戦争の悪魔元い三船フミコは未だ拘束できていない。

八王子教会にいた副総帥バルエムの動きは早く、彼は信者達に教会の防備を固めさせると、フミコを連れて北陸方面に車を走らせた。

「夕焼けだな…」

車を走らせている最中、外に目をやったバルエムは呟く。

「は?」

「一日で一番綺麗な時間だ」

バルエムがフミコを連れて逃走している頃、名称診断士が、落下の悪魔が殺した客の名前を正義の悪魔と断定。信者達が契約した悪魔は、正義の悪魔ではないかもしれないと推測を口にした。

「クンバーマーヤロー、クンバーヤー、クンバーマーヤロー…」

走行中の車内でバルエムは奇妙な詞を歌う。

「正義の悪魔と契約した者は己の望む姿へとなれる…

契約者達にはそう説明したよ。悪魔の名前以外は嘘じゃない。キガちゃんの持ってる駒は便利でな。とんでもない悪魔と信者を契約させまくったよ。

俺が皆に契約させた悪魔は…火だ」

バルエムが打ち明け話をしている頃、各地にいるチェンソーマン教会の信者の顔から、チェンソーが突き出した。屋内屋外問わず、あらゆる場所で両腕と頭からチェンソーを生やした人々が殺戮を始める。

火の悪魔のもう一つの力。

契約者が多ければ多いほど力を増し、契約者達は以前よりチェンソーマンに近い姿をとるようになった。しかし、ほとんどの契約者は力をコントロールすることができない。

カーラジオから流れる音声で、バルエムの言葉が真実であるらしいとフミコにもわかった。

「なんで今になって…?」

「今日5時にチェンソーマン教会、中国・カナダ・ペルー・オーストラリア支部で大規模合同結婚式が行われた。入籍と同時に契約する仕組みになっている。

順調に進んだのなら、火の悪魔と契約している人間は世界で合計73万人を超える見込みだ」

バルエムはフミコに目的を明かした。残り数か月で降りてくる最悪の恐怖を殺し、人類滅亡を回避する事。

「キガちゃんとの契約があるからあまり手助けはできないが、俺達とくればチェンソーマンとは確実に戦える。その代わり、手を貸して欲しい。

あと…頼る宛がないなら、一緒に東京に戻らないか?公安に見つからないよう、少々遠回りするが」

(始まった…)

都内某所。ナユタはチェンソーマンもどきの大発生をカラスの視界から見下ろしていた。

2015年人類滅亡説を実現する最悪の恐怖の正体は死の悪魔。ナユタの一番上の姉であり、最も恐れられる名を持った最強の悪魔だ。

彼女への対抗策として、キガはチェンソーマンと戦争の悪魔を皆に恐れさせて強化する計画を立案、今日まで進めてきた。ナユタはデンジに連絡をとった。


「なんじゃこりゃ…」

事態を知ったデンジが受けた衝撃は凄まじい。あちこちでチェンソーを身体から生やした者達が暴れ、殺戮を働いている。街では公安職員が対処に当たっているが、それだけでは手が足りず、対魔試験を受けた人々へ警察が協力を呼びかけている。

チェンソーマンの出番、とデンジが飛び出そうとした矢先、ナユタから連絡が来た。どうしても話しておきたい事があるため、家にいて欲しいと彼女は言う。

姫野家にやってきたナユタは、チェンソーマンにはならないで欲しいとデンジに求めてきた。

「なんでぇ…?」

「デンジがどんなに戦っても、もう誰もチェンソーマンを愛してくれないから」

キガのチェンソーマンと戦争の悪魔をぶつける作戦。その作戦に用いられるのはデンジでは無く、「チェンソーマンの悪魔」。

十数年囁かれ続けたチェンソーマンの噂と、一部の人間達が抱いてきた恐怖、チェンソーマン教会の信者73万人超の持つイメージから生まれた悪魔。

チェンソーマンの悪魔に滅亡の時までの間、人間達の恐怖を蓄えさせて、対死の悪魔戦に投入しようと言うのだ。

キガが噂の悪魔を手駒に加えた事で、デンジを戦線に加える必要は薄くなった。育成は上手くいっており、既に武器の悪魔に変身する超人達『ウェポンズ』3名を単騎で相手にできる力を得ている。

死の悪魔降臨まで人間に恐怖され続ければ、本物と遜色ない働きができるようになるだろう。戦力になる見込みが無さそうなら、その時はデンジに食わせて本物のチェンソーマンの糧にすればいい。

「けどよぉ…チェンソーマンは俺じゃねぇか…!」

「言いたい事はわかるよ…だからどうしても納得できないなら、一番いいタイミングで乗り込もう。

まだ時間はあるから、どうするかよく考えて。絶対に一人で飛び出したりはしないで」

ナユタを玄関まで見送ったデンジはこの日から、考え込む時間が増えた。

チェンソーマンもどきという新しい民族が現世に生まれ、世界は不安定さを増した。彼らを率いるのは、チェンソーマンの悪魔というチェンソーマンの偽物。

(まぁ、結構充実してると思うぜ…)

今のデンジには巨乳の嫁がいて、子宝にも恵まれて、食うのにも寝るのにも困っていない。やらしい話、自分を慕ってくれる若い女までいる。

痛い思いをしてチェンソーマンになっても、誰もチヤホヤしてくれないなら、死の悪魔とかいうヤツと戦う筋合いはない。

(けどよぉ…)

裏切られた晩、デンジはポチタから心臓と力をもらって、死んで死にまくる日々を送った。

そして、デンジの戦いを知った世間は、デンジの事を勝手にチェンソーマンと呼んだ。

(もうデンジ君は用済みってかあ…?)

不条理だ、という気持ちがデンジに湧いてくる。チェンソーマンであるという一点において、誰にも負けない自信がデンジにはあるのに。

(俺たちが断トツでチェンソーマンだろうがよ…!)

デンジはナユタと話し合い、死の悪魔と戦う事に決めた。人類滅亡を回避するのは、リンゴ達の為にも必要だがそれが一番の理由ではない。


ー俺達だけがチェンソーマンだ!!


遂に訪れた終末の時、デンジは胸のスターターロープを引いた。デンジの姿が、両腕と頭部からチェンソーを生やしたチェンソーマンへと変わる。

変身を終える寸前、視界の端でポチタが手を振っていたので、デンジも心の中で手を振った。例え恐怖の権化であろうとも、忌み嫌われようとも、チェンソーマンはこの手の中に収めていたい。

全てがめちゃくちゃなデンノコヒーロー、現る。

「御本人様の登場だぜえエエエ!!」

「チェンソーマン!!」

そのめちゃくちゃな活躍に戦争の悪魔は怒りを覚え、

「チェンソー様ア!!」

サメの魔人は崇拝した。

「三船フミコ…辿り着いたな。

チェンソーマンを中心にした、魔と混沌の嵐の中に」

戦いを遠くから眺める未来の悪魔は、戦争の悪魔と共に在るフミコを見て楽しそうに笑った。


チェンソーマンの悪魔、死の悪魔、戦争の悪魔。人類存亡の決定権を握る3体の悪魔を全てぶち殺し、チェンソーマンもどきという禍根を残して、チェンソーマンは人々の前から姿を消した。

そして、デンジは家族の元へ帰った。

かくしてチェンソーマンの戦いは幕を閉じる。


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