チェンソーマンvsサムライソード&蜂人間
某所にある高層ビルで、孫は仏頂面でソファに腰掛けている。襲撃自体は成功したが、沢渡は公安に拘束され、肝心のチェンソーの心臓も取れなかったからだ。
「組長には別荘に移動してもらってます。若も…」
「若…」
「爺ちゃんがいたら逃げる事は許さねえぜ。次こそは心臓をもぎ取ってやる…!」
ヤクザ達の言い争いを、赤髪の男が興味なさそうに聞いていた。沢渡が抜けた穴を埋めるべく呼ばれた助っ人である。彼は金髪をメッシュにした男を伴って、彼等の陣営に加わっていた。
「あんたらの若の心配はしなくていいよ。死んでも蘇るからね。それより、ここに残るんなら噛まれないように用心しな」
赤髪が孫の部下達に告げると、彼等の顔に困惑の色が浮かんだ。彼等の疑問には、赤髪の代わりに孫が答えた。彼の祖父が残した遺産。借金を返せねえクズ共で作ったゾンビ軍団がビルの下層に潜んでいるのだ。
「ゾンビに噛まれた人間はゾンビになるってわけ。注意してね」
しばらく後、作戦開始の時が迫りつつあることが、孫達にも把握できた。出入り口付近に警察および公安が集結しつつあるからだ。
「できるだけ公安を殺してデンジの心臓を奪う。その後はこっちの仲間にあしを回してもらう。それ以前に蜂を使いたいなら言って頂戴」
「ポチタは俺が殺す」
「もうちょっと落ち着いたら。…あとこれ」
赤髪の男が手渡してきたのは、銃の悪魔の肉片。ビル内にあったものの一部だ。
「おい…俺に食えってか」
「1回負けたんでしょ。勝つための努力は惜しむべきじゃないよ」
「ちっ…背に腹はかえられねえか」
孫が肉片を口に放った頃、地上では4課の指揮を務める岸辺が、同じく神奈川県警と退魔2課の責任者と作戦内容を詰めていた。
今回、特異4課の人員のみでビル内のテロリストを制圧するのだが、ほとんどが人外職員。万が一、彼等が街に逃げた場合、テロリストが暴れる以上の被害が出る恐れがある。よって、彼等に人外職員の特徴を教えておかなければならない。
「そこのキミ…ハンカチ持ってない?」
一方、作戦中のビル内。
翼と光輪を備えた少年が、近くにいた同僚に声をかける。ゾンビの大群を相手どる4課職員の一人、天使の悪魔だ。
彼に無言でハンカチを差し出したのは、早川アキ。呪い、狐、そして未来。3体の悪魔と契約しているハンターである。眼帯で隠された右目は、3体目と契約した際の対価の証。
加えて、背中には二本の刀を背負っていた。片方は呪いの悪魔と契約した証。もう片方は今回の作戦の際に支給された品。
ハンカチを授受するアキ達の隙を、拳銃を持った男が窺っていた。銃撃するべく陰から飛び出した男の手を、幽体の手が折る。
「あらら」
「気をつけてよ、2人とも〜」
「ありがとうございます…悪魔、こいつを外へ運べ」
「命令された…まあ戦うよりはいいけど…」
幽霊の悪魔に手を折られた男を昏倒させたアキが、天使の悪魔へ命令する。露骨に面倒臭がった天使はアキに従って、男を運び出す。
アキはこの場を新しく加わった魔人達に任せ、デンジ達と孫改めサムライソードの捜索に向かった。場数を踏んでいるが耐久力の劣る(人間なので当たり前だが)姫野にパワーをつけ、自身はデンジに同行する。
アキにとって、これはリハーサルである。デンジとパワーの存在は銃の悪魔討伐に挑むアキの希望であったが、同時にそれは一つの懸念が彼の心に巣食う結果にもつながった。
(万が一こいつらがやられたら…)
デンジとパワーを失った状態で銃の悪魔に勝利するのは絶望的だ。万全の状態の彼等をヤツのもとに運び、殺し切らせる。その為に最低でも、サムライソードとデンジの戦いに介入できる程度の強さがアキは欲しかった。
「おい眼帯女、まだ敵は見つからんのか?」
「いないねぇ…見かけるゾンビも少なくなったし」
サムライソードを探す姫野・パワー組の空気は緩んでいた。
「のう…歩くの疲れて来たから、壁を壊してもよいか?壊すぞ?」
「えぇ〜…ちょっと…」
パワーは姫野の返事を待たず、周囲に闇を展開。それらが猛獣の顎のように、近くにあった壁を食い始めた。
「ストップ!ストップ!下手するとビルが崩れちゃうから!」
「心配するな!ワシは昔、レスキュー隊員をやっておったからのう。お主らが埋まったら、ちゃんと助けてやるわ!」
パワーは手当たり次第に壁に穴を開け、フロア全体を見通せるようにする。目標の姿が無いことを悟ると、上階へと移動。そこで金髪をメッシュにした男と出会う。
「大人しく投降を…」
メッシュはジャケットを脱ぎ、両腕を晒す。金属のように艶のある、鮮やかな黄と黒のツートンカラーの甲殻に覆われている。露わになった上腕に接合部らしいパーツも見える。
「バトルじゃ!」
パワーが先鋒を務める。メッシュはボクサースタイルで闇の剣を振るうパワーを迎え撃つ。両腕が変形し、直剣が飛び出してくる。左肘を裂かれたパワーは間合いを広げ、傷口を掌で押さえる。
「眼帯女!こいつは手強いぞ!」
表情は真剣そのものだが、パワーは余裕だ。そんなに強い相手では無い。パワーは相手を睨む。
「…!?」
金髪メッシュの両目と口から血が流れた。光の届かない場所、すなわち体内の闇に体を傷つけられたのだ。「必殺!ダークネスエッジ!」と叫び、パワーは袈裟懸けにメッシュを斬り捨てた。