チェンソーと学生服

チェンソーと学生服


デンジは朝の支度を済ませ、早川家を出た。ただし、着ているものは公安の制服ではない。学ランだ。

「学習の時間〜?」

「そう」

時期を少し遡る。

勤務中、マキマの執務室にレゼと共に呼び出されたデンジは、学習の時間を設けると告げられて首を傾げた。

「理性的な悪魔や魔人に教育の機会を与えて、より高度な業務に従事できるように育成する…という試みを始めるんだけど、その第一弾をデンジ君とレゼちゃんにお願いしたいんだ」

レゼちゃんは悪魔でも魔人でもないんだけどね、とマキマはすました顔で付け足した。

「日々の業務に学習の時間まで加わると、負担が大きいです」

「そこは心配しないで。この試みに従事してくれる場合、学習を業務の一部とします。時間分のお給料は勿論出すし、パトロールなんかは免除するから、レゼちゃんが考えてるより負担は少ないと思うよ」

デンジからすると、至れり尽くせりだ。時間中は教育係が2人を見てくれるらしく、個人での学習には限界を感じていたデンジはこの話を受けた。

そして、試みの次の段階として2人は別々の学校に編入する事になった。自分が一般の学生に混じるのは難しいだろう、とデンジは問うが、マキマは質問を予想していたようだ。

「最近、隠蔽の悪魔を公安が確保してね…彼にデンジ君の魔人としての特徴を隠してもらうの」

学生服に身を包んだデンジの首に、腸のマフラーは巻きついていない。唯一、胸から伸びるスターターロープがデンジを常人ならざる者であると証明していた。

「……」

デンジ…チェンソーマンを一般の学校に送り出したマキマは憂いを帯びた顔で、今日何度目かのため息をついた。

『普通の暮らしをして、普通の死に方をしてほしい』

チェンソーマンに選ばれた少年が、彼に託した願い。少年の肉体を受け取った瞬間、チェンソーマンを縛り付ける事になった鎖。

やること事全部がめちゃくちゃな不死身のヒーローを畏敬するマキマにとっては、靴底についたガムよりも鬱陶しい願いである。しかし、そのおかげでチェンソーマンは公安で己の部下として働いてくれている。

チェンソーマンが会話ができる存在であると、マキマは長い時間をかけて飲み込んだ。戦わずともコミュニケーションによってチェンソーマンを理解し、自分の中で支配できる存在に落とし込む。

チェンソーマンの力で世界を変革する為だが、幾つかの小さくない目的もある。そのうちの一つが、一緒にたくさん食べて寝て、幸せな生活を送りたいというものだ。

一手目で失敗したマキマは今、遅れを取り戻そうとしている。まず彼女は、チェンソーマンによってソ連から連れ出されたレゼに普通の学生生活を与えて、チェンソーマンとの距離を広げる工作に手をつけた。


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