ダイスキャラSS

ダイスキャラSS

ある意味烈情»New-memo


*ダイスオリキャラ(キャメル)

*現パロSSでダイスキャラとモブとの絡みでちょっと本スレに投下し辛い内容になったのでこちらに落とします

*コラさん巻き込まれ

*エロはなし




「あ」

列に並ぶ私の前の少女の言葉に硝子ケースを店員が開けて最後の一個だった色とりどりの鮮やかなフルーツタルトを出して箱に詰めていく。



職場に行く前にケーキを買うことを日課にしているが駅からも商店街からも一本離れた通り、民家に挟まれて建っているここは穴場だった。

店長が毎日その日の気分で作る創作ケーキは毎回必ず買っていたのだが今日は出かける前にクロが三者面談の知らせの紙を隠していたことが発覚したので少し遅れてしまった。帰ったら詳しく話を聞かなくてはならないしこの悲しみを報告して悲劇を繰り返してはならないと教えなければ。

仕方がないのでいつも通り

「ここからここまで」

とショーケースを指でなぞり1種類ずつ買うことにする。いつもならここにさっきの限定ケーキが入るはずだったのにと落ち込みながら店を出たところで少女が立っていた。そのまますれ違って駅に向かうと背中から声が聞こえてくる。

「すいません⋯⋯あの⋯⋯すいません止まってください」

あ、私か。人に呼び止められる事なんて滅多にないからなあ。

立ち止まると、少女は周囲に視線を巡らせてから持っていた白いケーキの箱をそっと胸まで持ち上げる。クロと同じ位の、おそらく高校生だろう。きっちりした服は自分の趣味というより親が選んだような雰囲気だが身に付けているアクセサリーや髪型を見るにあまり趣味とは合わないらしい。

「タルト⋯⋯食べますか」

「くれるのかい」

「その代わり⋯⋯良いでしょうか?」

「内容によるね。五分以内に終わるかな」

ゆっくり頷かれて片手に持った最大サイズの紙箱を持ち直すと私は改めて彼女の話を聞くため向き合う。昼食が増えるかどうかの瀬戸際だ。




ピ、という機械音を鳴らしたまま目を真ん丸にしているのを見て

「ここでも働いてたの」

と声をかけると

「え?」

と返される。隣に住んでるコラソンは子供の頃からとにかく色んな仕事をして社会勉強がしたいんだ! と常々言っていて働ける年齢になるとあっちこっちに履歴書を送りつけ、コンビニ・カラオケ・ティッシュ配り、結婚式のスタッフから工事現場までありとあらゆる仕事を巡って楽しんでいる変わった男だ。なので薬局にいても特に驚くことではないのだが、どういう訳かあちらが驚いているようだった。

「薬局来たことないから知らなかったよ」

「え、あ、じゃ、じゃあ。ポイントカードはお持ちでない、ですか」

「持ってない」

コラソンは暫くだした商品と私を見比べる。視線をうろうろと泳がせたあと絞り出すような声をだした。

「袋に入れますか」

「要らない」

「要らないのか?!」

「すぐ渡すし」

「誰に?!」

「彼女にケーキ持たせてるから早く行きたいんだけど」

「かの⋯⋯」

そこから無言で会計を済ませて変な顔をするコラソンに手をふり薬局を出る。変なのはいつもだが今日は一段とおかしい。なにか変なものでも食べたのかもしれない。

店を出て駅前を通りすぎ、ビルとビルの間の狭い道を出ると駐車場の影に座って待つ少女に箱を差し出した。

「はい。これでいいかな?」

「袋⋯⋯」

「なに?」

「そのまま持って歩いてきたんですか?」

そうだけど。と返すと彼女は、「そうですか」と返事をして“妊娠検査薬”と書かれた箱を確認すると2つの箱を差し出す。私のと、私の物になったフルーツタルトの箱だ。

「ありがとうございます」

「自分で買えば良いのに。モリアが言ってたけど私は頼み事されるような人間じゃないらしいよ」

なんとなしに聞いた質問に少女はうっすらと笑みを浮かべて箱をレースのハンカチに包んで鞄の奥底に放り込む。

「貴方⋯⋯私のこと、覚えてないでしょ。⋯⋯⋯いつも貴方の前に並んでたのに、振り返って、目があって。毎回目礼してるのに。⋯⋯ちっとも目に入ってないでしょう⋯⋯?」

抑揚の少なく静かな声に私は首を捻って思い出そうと彼女を改めて上から下まで見ようとして、止めた。

「そうだね」

「きっと私が名乗っても忘れるし⋯⋯今日ケーキを貰った事も⋯⋯交換条件で買ってきてもらった商品だって覚えちゃいないし⋯理由も聞きやしない⋯⋯⋯だから。頼んだの。⋯⋯あなたって、ちっとも、これっぽっちも⋯⋯人間に興味が無さそうだから」

彼女はそう蛇みたいに笑って、改めて礼を言うと駅の方向へスタスタ去っていった。

理由を聞いてもさっぱり理解できなかったが。

彼女は1つ、勘違いしている。



今日フルーツタルトを食べる時まではちゃんと私は覚えてる。






さっさと帰ろうとしていたのに呼び止められてイライラしていると教室に誰もいなくなってから後輩で隣人のコラソンが気まずそうに、というより、困ったように口を開いた。

「キャメルさん⋯⋯」

「なんだよ」

「彼女いたの?」

意味不明の言葉にあ゙? と悪態をつく。喧嘩を売ってんのかこいつは。

両親が蒸発してから三年、勝手に退学して相談もせずに働き始めておれに学費を払わせないクソ身勝手なアニキに恋人を作る時間なんて有るわけがない。

あったとしてもその時間は甘い物を食べるかテーラーの勉強か鋏とショコラを愛でる時間に代わるだけだしそもそも女が嫌いなのに女に入れあげるなんて矛盾した文章国語だったら減点対象が過ぎる。

「いねェよ」

「本当か?」

「あいつを好きになる人間とか人格破綻者だろ。狂人はアニキのタイプじゃねェよ」

「少し言い過ぎだろ立派な兄じゃねェか」

「おれの勝手だ」

「秘密なのか⋯⋯? いやでも、クロコダイルに話さないわけがないよな。一番あり得ない」

珍しく歯切れの悪いコラソンに持っていた鞄を机に置く。

「なんだよ」

「彼女がいるって」

「誰が」

「キャメルさんが」

「誰が?」

「だからキャメルさん」

「誰が言ったんだよそれ」

「本人! キャメルさんが彼女がいるって! 言ったんだよ!」

「⋯⋯」

「キョトンとすんなよ!」

「ショコラを人でカウントし始めたんだろ」

「に、妊娠検査薬買ってたし!」

「⋯⋯自分に?」

「なあ。それでお前の何かが守られるのか? それはそれで大問題じゃねぇか⋯⋯?」

椅子に座って、指で机を叩く。

「プレゼントとか」

「ごめんな何か凄い大混乱させちまってるな⋯⋯でも本当に」





「本当なのか?」

「なにが?」

食卓について向かい側で真っ青な顔で私を見るクロに私は義務汁を飲みながら聞き返す。

「三日前。誰に買ったんだよ」

何だか真剣な顔に私は思い返す。三日前、三日⋯⋯⋯⋯ケーキか。



「女の子が」

「バカアニキ!!」


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