ゾロとレイちゃんの話
ようやくワノ国に平穏が訪れた今、
人々は我らが船長ルフィの発案で歌えや踊れやと宴を開いていた。
その中心で酒瓶を次々開けていく男、
ロロノア・ゾロがふと顔を上げるとそこには一人の少女がいた。肩身が狭そうに俯く姿はこの賑やかな雰囲気に合わず浮いている。しかし浮いている理由はそれだけではなかった。
「おい、なんだその子供」
「キングから預かったんだ
一応、僕の妹分みたいな感じで名前はレイ」
その子供を連れてきた張本人のヤマトがレイという少女の背中を押して前に出させる。少女はヤマトから離れまいと必死にしがみついていたが引き剥がされて今は一人で立っている。
見れば見るほど既視感が否めない。白い髪、明らかに日焼けたものではない褐色の肌。
そして、背中から生えた翼は所々白抜けはしていたが黒い。ゾロはすぐに自分がワノ国で散らした全身黒づくめの男を思い浮かべた。
「アイツ子供いたんだな」
「僕もびっくりしたよ
まさか本当に親子だったなんて」
「本当にって何だよ」
「キングは否定してたけどよく百獣海賊団内で噂されてたからね 隠し子なんじゃないかって」
「……」
特殊な一族だとは聞いていたが、娘の存在ですら隠さなければいけなかったとすれば、存外不自由な男だ。
「レイ」
「…」
「おれはお前の親父を斬った男だ」
「パパを…」
「あァ だから恨むなら勝手に恨め
だが、牙向けて来るんならおれは容赦しねェ」
ようやく顔を上げたレイは何かを噛み締めるようにじっとゾロを見つめてからまた視線を地面へと向けた。
ヤマトは部外者だからと口出しはしないものの心配そうにレイを見ていた。
「用はそれだけか?なら戻るぞ」
ゾロが去ろうとしたその時、片方の袖が少女によって引き止められた。
「わたし…」
「あ?」
「わたし、どうすれば…良かったのかな」
「……さァな」
「だって!だっでェっ…わだじ…っ…駄目な子で…!」
「なっ!」
「わ、わわわ!あーどうしよう!
僕、レイが泣いてるところはじめて見たから…!大丈夫だよ〜…ゾロはいい人だから〜…泣かないで〜…」
少女を泣き止ませる術を知らない大人2人が揃いも揃ってレイの周りを右往左往していると、少し離れた場所でこっそり耳をそばだてて傍観していたナミが慌てて間に入った。
「ちょっと!なに子供泣かせてんのよ!!!」
「っっ〜!!!」
拳骨をしっかりと頭に叩き込まれ、ゾロは余りの痛さにしゃがみ込んで頭を抱えるように抑えた。レイは驚きのあまり涙がぴたりと止まり、きっと次はわたしなのだと絶望したような顔でナミの握りこぶしを眺めた。それが全くの見当違いだとは知らずに…。
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