セイレーンと麦わら帽子⑩

セイレーンと麦わら帽子⑩


「聞いたか?最近このあたりの海でよく海賊船が現れるって話…」

「うちの息子が海で見たって聞いたわ…こわいわね」

「でも、うちの親父がこの前漁に出たとき海賊船にあったけど、なんにもされなかったって聞いたぞ?」

「ほんとか?襲われもしなかったのか?」

「おれも前商船のやつから見たって話聞いたが…見向きもしねェで行っちまったってよ…あとそうだ、やたら綺麗な歌が聞こえたとか」

「やっぱり…噂のセイレーンってのか?」


〜〜


「少将!また海賊が捕らえられてきました!」

「またか…送り主はどうせいつもの仲買人だろ?」

「はっ…相変わらずで…」

「まず間違いなく海賊だろう…だが一体何者だ…?ここいらでの海賊の襲撃による被害は確かに減りつつある…」

「…最近海兵たちの間で、セイレーンの噂がありますが…」

「セイレーン……か…下がれ」

「はっ!」

「……このタイミングでの五老星直々の報告書の提出命令…まさかな」

「少将!ナバロンより定期報告が!」

「ん?ああ、分かった」


〜〜


「…やはり、近頃前半で噂になるこのセイレーンとやら…」

「ああ、捕らえられた海賊達の証言が正しいのなら、恐らく「ウタウタ」の力…」

「しかも出没海域は、あのエレジア付近…」

「となれば、この新たに現れた海賊というのは…」

「…ああ、「トットムジカ」を呼び出す危険性があるということだ」

「…早急に手を打たねばなるまい、どうするべきか…」

「…殺すべきか、飼いならすべきか…ウタウタの能力者を確保する滅多にない機とも考えられる」

「まさか…しかし、"火拳"が断った穴もすでに埋まったぞ」

「この時代だ、異例が生まれても構うまい………"火拳"、か…」

「時代を動かすのはいつも"D"…だが"白ひげ"しかり、その名を持たずとも時代の脅威はいる、か……」


『突如水平線から美しい歌声と共に現れ、海賊のみを絡め取る謎の新たな海賊、セイレーン』

─彼女の出航より既に3ヶ月、その噂は近海から世界に少しずつ広まりつつあった。


〜〜

「〜♪…はい、今日もありがとー!」

『うおおおおおお!!』

『グオオオオオ!!』


エレジア近海の海に浮かぶ一席の海賊船。

只今ここでは、『セイレーン』と噂をされる船の新船長が船上ライブを開いていたところだった。

彼女の一味である動物達、そして暫定捕虜兼傘下扱いの元この船の船員達が大盛況の歓声を上げる中、一人、元船長のエボシだけが甲板の階段で不貞腐れていた。


「チッ…どいつもこいつも絆されやがって」

「なーに、あんただけまだ反省してないの?」

「おれ達ゃ海賊だ!!歌なんかより財宝や名声のほうがよほど大事だってのに…!!」

立ち上がったエボシが声を荒げる。


「この3ヶ月、金はエレジアやそこらの町に捨てるわ名は広めねェわ、何がしてェんだお前!!」

「捨ててるんじゃなくて上げてるの!エレジアはいつかは復興しないとだしゴードンに恩も返さないとだし、それにボロボロの町で生きるのも大変な人達だったし!」

そう、ここ3ヶ月、ウタは海賊討伐で得た宝やエボシの紹介した仲買人の協力で得た懸賞金をあちこちに配っていた。

その影響でただでさえ少なくなった金食料品を強奪などしないためふくれ上がった食費などでも消えることになり…貯められる財宝は僅かだった。

「ふーむ…これだと自分の船はまだ先かなぁ…でも武器もそろそろ考えたいし…」

「チッ…武器ったってお前いつも歌ってるだけで戦うのおれらじゃねーか」

「何、私が大半眠らせてほんの僅かな奴らをあんたらが片付けてるんでしょ?それに最近は剣とか槍も練習してるし!」

「ったく…なんでこんなガキに絆されてんだ野郎共…」


エボシ以外の者達も最初は反発していたものの、動物達の眼が光る中で反乱は起こせず…そんな中、ウタの歌声に絆されいつの間にかエボシ以外は反乱の気など失せてしまっていた。


「それで?次はどうすんだ?」

「うーん…そろそろ本格的に仲間も探したいし…でも自分の船も欲しいしなぁ…」

「人の船使い放題でよく言うよ…町の一つか2つ襲えばあぅという間だってのに」

「何度も言ってるでしょ!私はそういう海賊じゃないし、カタギの人も襲わない!」

「仮にも海賊が甘いこと言いやがって…その内痛い目見ても」


「船長!!エボシさん!!後方に船です!!」

その声に二人が揃って振り向く。

船の後方に、こちらに迫る大型の船影が確かに見える。


「ほんとだ…旗見える?」

「ええと…っ!!やべェあの旗"喉狩り"だ!!」

「何だとォ!?なんでそんなやつが前半にいやがる!!」


突如としてざわめき出す海賊達に、ウタが困惑しながら声をかけた。

「えっと…何その"喉狩り"って?」

「歌好きなのに知らねェのか!?マジで残忍な海賊で、街襲っては女の体裂くやべェやつだ!!特に歌好きなやつの喉をエグリ取ったって話から喉狩りって言われてるけどな!!」

「ハァ!?何そいつ許せない!!」

激昂するウタを他所に、海賊達が慌てて動き始める。

「すぐに舵を切るぞ!とにかく離脱する!」

「ちょっと!!何逃げようとしてんの!!そんな極悪人ここでやっつけないと…」

「しかし船長!!あいつら数年前新世界に行ったはずの億超えのやつらだ!!とてもじゃないけどよ…」

「何諦めてんの!余計ほっとけないよそんなの!」


船員とウタが口論する中、口を挟んだのはエボシだった。


「…あっちの船のほうが速い、追いつかれるだろうな」

「…そんな…」

「…だからこそ、ここは迎え撃つぞお前ら!!億超え狩っておれ達の名を広めてやるんだ!!」

「……!!」

「…それでいいんだろ、船長?」

「!!…うん、大丈夫!!いつも通り私の歌があればきっと勝てる!!みんな頑張ろう!!」

『…オオオ!!!』

船員達がトキを上げる。

それを見届けて、ウタがエボシに振り向いた。

「なんだ、あんたもまだ根性あるじゃん」

「言ってろ…お前がちんたらしてるからこうでもしねェといつまで立っても名を挙げられねェ」

「はいはい…さて、それじゃ準備しますか」

ウタが拡声器のついた電伝虫を用意する。

それを見た船員達が動物達に耳栓をつけ、自分達も耳を塞ぐ。

「…もう少し…もう少し近づいたら…」

十分に引き付ける。

歌声が大きなガレオン船の船内まで届ける範囲まで船が近づいたのを確認し、ウタが喉を震わせた。


〜♪


辺りに歌声が響き渡る。

耳栓をした船員が覗く望遠鏡の先で、甲板にいた敵海賊達が倒れていく。

しばらくして、やがて拡声器からの歌が止まった。


「…ふぅ…慣れてきたとはいえ疲れるなぁ」

「ボケっとしてねェで、早く乗り込んで制圧するぞ」

「あ、はいはい…私も行くか」

接近した船へ海賊達と獣達が移っていく。

慣れた手付きで縛り上げる光景を見ながら、ウタも敵船に乗り込んだ。

「…大きい船だなぁ」

自分達が乗っ取った船よりも一回り大きなそれは、まさに新世界を航海してきたのであろう幾多の修理後も戦闘の名残もある。


「…見とれてる場合じゃないや、とりあえず…」

ウタは意識をウタワールドに集中させる。

ちょうどウタワールド側の甲板で無敵のウタに困惑しながら戦士と五線譜に拘束された海賊達が目の前にいた。


「……?なんか少なくない?」

ここまで大きなガレオン船にしては船員が少し少ない。

それに全員が余り強そうではない下っ端にしか見えなかった。

「ねぇ、あんた達の船長はどこ─「おい、後ろだ!!」


突如、現実のエボシが声を荒げる。

その声が自分に向けられたものだと認識したウタが振り返った時…左目付近が熱を帯びたと同時に、吹き飛ばされた。


何が起こったのか、ウタは認識出来なかった。

気づいたときには世界を映さなくなった顔の左側からの熱と激痛に声も出せず呻くのみ。

その残った視界の端で、大柄な男が血の付いた金棒を振り回しながらこちらに歩んでくるのが見えた。

その棘の一つの先についているあれは…


「ガルルルルゥ!!!」

主の危機に激昂した獅子が男の喉笛に飛びつく。

咄嗟のそれに反応した男が金棒で防御する。


「おい、迂闊に動くんじゃ…!!」

止めようとしたエボシの腹を、背中からの刃が貫いた。

吐血しながらも振り向いたエボシの視線の先には、一線の大きな傷のついた顔に歪んだ笑みを浮かべるその男の姿。

「……"喉狩り"…!!」

「なんだ?私を知っていたか?」

"喉狩り"と呼ばれた男が剣を抜き、エボシがその場に倒れる。

トップである二人が倒れ困惑した海賊達が、次々とその男に斬られ倒れていく。

「グルウゥ……!!」

飛びついた獅子が鮮血を吐きながら吹き飛ばされる。

他の動物達もまた、その二人によって倒されていく。

やがて、甲板に立つのは"喉狩り"と隣の大男だけになった。


「こいつら、所詮は前半の下級海賊だったみたいで…」

「だろうな、懸賞金も億は超えてまい」

二人の会話を聞きながらも、ウタがなんとか立ち上がろうとする。

今まで体験したこともない痛みに目眩も吐き気もする、半分になった視界ではバランスも上手く取れない、それでもなんとか立ち上がろうとするウタに、二人の男が迫る。


「君が噂のセイレーンだね…はじめましてというべきか」

「セイレーン…?いや…それより…なんで……寝てないの…」

歌声は確かに響かせたはず。

聞こえてないはずがなかった。


「…君は、自分の知名度を舐めていたんじゃないか?」

そう言って男が取り出したのは、金属光沢を放つイヤーマフだった。

「君の能力はある程度把握してたから、先に用意しておいたよ」

「…!!じゃあ…あんたら最初から…」

「そうだ、君が狙いだった」

そう言って男が顔の傷を歪めながら笑う。

「…なんで…」

「こう見えて実は船員を欠いていてね、新たに集めるのに何か実績が欲しかったのと…」

血に濡れた刃を持ちながら、"喉狩り"が下卑た笑いを浮かべる。

「君の歌を噂に聞いたときから…その喉をえぐり取ってやりたくなったのさ…その歌声を奪われた君の表情を見てみたかった。」

後ろの大男が汚い笑い声を上げる。 


今までもこうして、誰かの幸せを理不尽に奪い取ってきたのか。

ウタの中で、今まで感じたこともないようなドス黒い怒りが湧き上がる。


「それじゃあそろそろ…いい顔を見せてくれたまえよ!」

そう言って、未だ動けぬウタに刃が迫り…鮮血が飛んだ。

ウタが目を見開く。



ウタの目の前…ウタを庇うように身を飛び出したエボシが、切られた箇所から血を吹き出しながら倒れた。


「あ…あんた……なんで……」

震える手をエボシに伸ばす。

既に、助かる見込みはないことはウタにも分かった。


「ゲホッ……仮にもあいつらの船長のおれが……一人生き残っても仕方ねェだろう…」

そう掠れた言うエボシの視線の先には、血を流し横たわる船員達の体がある。


なぜだか、ウタにも分かってしまった。

先程吹き飛ばされた時からだろうか、不思議な「声」のようなものがウタの中に響いていた。

その「声」は目の前の二人の男からも眠る敵船員達からは感じられる。

ウタの仲間の動物達からもまだ感じられる、その「声」のようなものが、倒れる船員達からは聞こえない。

それが何を意味するのか、なんとなくウタにも分かってしまったのだ。


「それなら……せめて……あいつらが、好きだった…お前の…歌…だけ……で…」

その言葉とともに、エボシの手から剣が落ちる。

虚ろなその目には、何ももう映されなかぅた。


「っあ………」

ウタの目の前で…その海賊は、死んだ。


「…もう少しいい表情が見れるかと思いましたが…所詮は海賊、大して悲しみもありませんか」

ウタの表情を見た"喉狩り"が残念そうに呟いた。


「しかし人の死ぬ間際は本当に気持ちがいい…いつか私に屈辱を与えたあの男にも同じ顔をさせてやりたい…さて」

男が剣をもう一度構え直す。

「今度こそあなたの番です…さよなら」

そう言って剣が振り降ろされる。


その剣が目前に迫ってきたとき…ウタが顔を上げた。


「……っ!!?」

その目を見た"喉狩り"と後ろの男が戦慄する。


その怒りと悲しみに満ちた目が、二人にかつてのあの日を想起させた。


『罪のないおれの縄張りの者を殺したんだ…覚悟は出来ているな?』


かつて、この船の船員の多くを殺され、己も消えぬ傷を顔に残され、海軍の介入によって何とか一命を取り留めることができたあの日。

新世界から逃げ帰ることとなった先日のあの悪夢が呼び起こされた。


「…なっ!?」

"喉狩り"にとって信じられないのはそれだけではなかった。

迫っていた己の剣を、瀕死のはずのウタは避けた。

そのまま立ち上がったウタの手には、エボシの剣が握られている。


「クソ…小娘が!!」

フラフラの体に連続して剣を振る。

最初の一振りがウタの髪を捕らえ、輪の形になっていた赤い髪が甲板に落ちる。

しかし、それ以降の刃はウタの肉に届かない。

振られる剣を、ウタは紙一重で全て避けてみせた。

「まさか…そんな…これは…」

動揺する男を前に、ウタが剣を構えながら迫り─


一閃。

黒く染まったその刃が、"喉狩り"の腹から喉を斬り上げた。


「ガッ…」

声も発さず、"喉狩り"と呼ばれたその男は倒れた。

船長を失った大男が金棒を振り回しながら後ろに下がろうとするが

「ヒッ……ゲブッ…」

金棒を避けたウタの剣に大柄の腹を斬られ、フラつきながら海に落ちていった。


「ハァ…ハァ……」

ウタが剣を落とす。

黒く染まっていた刃が元の色に戻っていく。


「…なんだったんだろ…今の…」

一瞬、相手の動きがなぜだか理解できた。

自分のものではないかのような力が湧いてきたような感覚がした。


「………」

足元を見る。

既に"喉狩り"の「声」は感じられない。


「私と…あの子達の…手当て…」

まだ動物達の「声」は感じられた。

せめてそれだけでもと歩もうとし…力尽きたウタもその場に倒れた。


一度全員が倒れている状況となったそのガレオン船に、一席の軍艦が迫ろうとしていた。


〜〜

「ん…あれ…ここ…」

ウタが目覚めたのは、どこかの白い天井だった。

体を起こそうとすると、どこか怠さと鎖の音がする。

音の方を向けば、右手が壁と繋がれていた。

「…これ…海楼石ってやつ…?」

聞いたことがあった。

能力者の能力を封じる海の力のこもった石。

確か海軍などが能力者を捕らえるのによく使っていたはずだった。

「…それじゃあここって…」


「目が覚めたかね?」

声の方を向けば、視線の先にコートを羽織った男が立っていた。

…正確には、視線の先の、鉄格子の先だったが。


「私は海軍本部中将ジョナサン…そしてここはナバロンと呼ばれる海軍の基地だ…君は現在、ここに海賊として囚われている形になるな」

淡々と男が説明する。

「しかし、現場の状況からそう判断したが…君は手配書にも顔がない、あくまで君を捕らえた海賊船の隣の海賊船の海賊旗と、君の服のマークが一致していたゆえの処遇だ、そこは理解してくれたまえよ」

「…いいよ、そこはほんとのことだし」

「…ほう、自分が海賊だと認めたのか」

少々驚いたような反応をジョナサンが見せる。

「…他の人や動物達は?」

「あの船にいた者達か?海賊…クラゲ海賊団と思われる奴らは全滅だったが、動物達は息があったのでな、ここで治療しているよ」

「…そう」

動物達が無事だったという安堵と、仮にも共に海を渡っていた者達の死別で、ウタの心に虚無感が現れた。


「…それで、なんで海軍が海賊を手当てしてるの?」

「ああ、それも含めて、今後の君の処遇を伝えねばな」

海兵の用意した椅子に腰掛け、ジョナサンが話を続ける。


「君は手配書に乗っていない、海軍の把握していない存在だったが…たった今君が海賊だと認めた以上、君の海賊行為を我々は処断する必要がある…その上で大事になるのが」

ジョナサンが2枚の手配書を取り出す。

「クラゲ海賊団のエボシ…そして億超えの海賊"喉狩り"…この二人の首についてだ…どちらも君が?」

「…ううん…エボシの方は違う…あいつに殺された」

「つまり、喉狩りは君が仕留めたということでいいんだね?」 

仕留めた、その言葉が響きつつもウタが首を縦に振る。


そう、仕留めたのだ。殺したのだ。

ウタがその手で、確かに海賊の命を奪っていたのだ。

いつかは来るのであろうとぼんやりと思っていたその経験が、しかしウタの中で今でも響いている。


「…億超えを討伐する程の存在となれば、海軍も無視できん…恐らく、インペルダウンが待っていることになるだろう」

インペルダウン、世界最大の監獄。

そこに行くことになるのだろうか。

ウタが、未だどこか他人事のようにその話を聞いていた。


「…しかし、君に一つ、上からの提案が来ていてね」

「………提案?」

「ああ」

そう言ってジョナサンが、一つの封筒を取り出した。


「世界政府トップの五老星からの書類だ…君に『王下七武海』にならないかと、勧誘が来ている」

「…七武海…?それって…」

ウタも、ぼんやりとだが聞き覚えがあった。

政府公認の七人の強力な海賊、それに自分が呼ばれたということなのか?

「ああ、最も今は7人揃っている…つまり君は、異例の8人目ということになるな」

「8人目…そんなことが…」

「君が政府や一般への被害を確認されなかったこと、億超えを倒してみせたことが大きいのだろう…私はそれだけとは思えんがね」

そう言って笑うジョナサンの横腹を横に立っている女性が肘でつく。

慌てて咳き込んだジョナサンが、もう一度ウタに向き合う。


「さて、改めて…どうする?七武海になるか、インペルダウンに行くか」

「…選択肢、ないようなもんじゃん」

「だろうな」

そんな会話の中で、ウタの中に浮かんだのはいくつかの顔だった。

背中を負う父だったはずの男、目の前で倒れるエボシ、下卑た笑いの喉狩り。

様々な考えがウタの中で回る。


海賊が言ってしまえば「政府の犬」になる。

七武海とはそういうものだと言うものも多い。

自分の理想の海賊からは遠のくだろう。


未だウタの中で、シャンクスへの答えは出ていない。

会ってどうするのか、話すのか、復讐するのか、それとももっと別のなにかか。


何れにせよ、ウタが感じていたのは…その道までの、力の足りなさだった。


「…受けるよ、その話」

「…そうか…一応、理由を聞いても」


「捕まりたくないし…今は力もつけたいし…それに」


「私、ああいう海賊大嫌いだから」

力をつけながら、理不尽に人を踏みにじる者を倒す。

それを行うのに、その肩書は、政府の犬だとしても魅力的に思えた。


「……そうか、分かった…上にはそう報告しよう」

ジョナサンが立ち上がる。

「あとで病室は移そう、きっとまた集合があるだろう…傷が治り次第、マリージョアまで送ってやる」

「…ありがとう」

「礼などいらんよ、政府で繋がるとはいえ海軍と海賊だ…せいぜい君も心を許さないことだ」

そう言って去る背中の「正義」は、きっと立派なものだろうとウタは感じた。


それから一月ほど経ち、聖地マリージョアに8名の海賊達が招集される。

実際にその円卓に集ったのは、砂漠の英雄、影の支配者、情熱の国の国王、かつての暴君。

…そして、眼帯をつけた少女。


「集まったな海のクズども…お前達に特例でまた一人加わることとなった」

「………」

「キシシ、なんだ、このガキのことか?」

「フッフッフ…おいおい、七武海の名が泣きそうだな」

「………フン」


「…名を」

海軍元帥に言われ、『セイレーン』は名乗りを上げた。

「…私はウタ、『セイレーン・ウタ』…今度からあんた達と同じ七武海だから、よろしく」


その日、『自由な海賊』を夢見た少女は、『政府の犬』となった。


〜〜

そして今。

その少女と、彼女の夢見た『自由な海賊』そのものとなった少年。


夢を誓った二人と、その仲間達が、このかつての音楽の島にて邂逅した。


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