セイレーンと麦わら帽子⑧

セイレーンと麦わら帽子⑧


ギア2、己の血流を操作することで圧倒的な身体能力を得るルフィの強化状態。

その変貌に、ウタは翻弄されていた。


「クッ……でやぁ!!」

「"JET鞭"!!」


槍の一閃が弾かれ、再び視界から消える。

気配を察知して振り向く前に、拳を構えた姿が接近してくる。


「"JET銃弾"!!」

「グッ…!!」


至近距離での拳を右脇腹に食らったウタが吹き飛ぶ。

が、空中で槍を使って減速し着地する。


「ハァ…ハァ…結構思い切って力入れてんだけどな」

「ケホ…残念だけど…そんな軟じゃないのよ」


武装色の覇気。

見聞色と並ぶ、新世界で戦う上で必須となりうるその力を、ウタはルフィよりも使いこなしていた。

なんとか超スピードの一撃もこの見えない鎧で軽減していたウタだが、

それでも限界がある。

元々見聞色の方が適正の高いウタにとって、未だ武装色は完全に信頼できるほどの練度ではなかった。


「…フウ……」

槍を構えながら瞳を閉じ、呼吸を落ち着かせる。

見聞色に必要なのは冷静さ、それを一度崩されてしまっていた。

それをなんとか取り戻す。


「……よし…来なよルフィ」

「行くぞォ!!」

再びルフィの姿が消える。ように感じた。

しかし今度は、ウタにもしっかり状況が把握できていた。

世界政府の人間、特に上の将校やCPが用いていた高速移動術"剃"。

地面を高速かつ連続で蹴るその技術を、目の前のルフィも使っていた。


「そこ!!」

槍を振り上げる。

先端がルフィの頬を捉え、再び赤い線が走る。

「ッ!!"JET銃"!!」

飛んできた拳をギリギリで、それでも回避してみせる。

「ふんっ!!」

地面に槍を突き刺し、口元にマイクを寄せる。


「!!やべっ!!」

「"インパクトボイス"!!」

地面を中心に衝撃波が広がる。

回避が間に合わず、ルフィが吹き飛ばされる。

そして捨て身の範囲技を繰り出したウタもまた、槍ごと反対に吹き飛ばされた。


「ゲホッ……無茶すんなお前…」

「ゴホッゴホッ……海賊の勝負に無茶はつきもんでしょう…?」

両者血を流しながらも立ちあがる。

既に双方足がふらつきはじめていた。

ルフィは幾度となく繰り出された衝撃の負担、

ウタも何発かまともに食らった拳に加えて衝撃波、さらにはウタウタの疲労も相まって、すでに互いに限界が迫っている。


「……次で…終わらせてあげる」

ウタがマイクを構える。

その槍の穂先は、立ちあがるルフィに向けられている。


「…まだ、試したことなかったんだよね…これを刺さず、空中で声出したらどうなるんだろうなって」

静かに笑う。


「勝負しようよルフィ…空中で放たれる衝撃波…全部あんたにぶつけてやる!!」

大きく博打に出たウタの勝負に、ルフィも笑い返した。

「…面白ェ…だったら正面からぶっ飛ばして勝つ!!」

ルフィの二本の腕が長く、島の外に届くのではという勢いで伸ばされる。

それを見据えたウタが、大きく息を吸う。


"ゴムゴム…ゴムゴムの"ォ…!!

"インパクト"…!!



「"バズーカ"!!!」

「"ソング"!!!」


まっすぐ突き出された二本の腕が正面に放たれる。

歌としての形を得た衝撃波が、発散されることなく正面を貫く勢いで突き進む。

やがて双方がぶつかり、伸ばされた腕が鮮血を吹き出す。


が、それでも勢いは止まらず、ウタの腹に直撃した。

武装で守ることもせず、その一撃を受けたウタが吹き飛び、巨大な頭蓋に衝突し…その衝撃で、頭骨が崩壊した。

〜〜


「……なにしてんの?」

「なにって、お前あのままじゃ生き埋めだったぞ?」

血だらけの手を振りながらルフィが答える。

危うく骨の瓦礫で生き埋めになりそうだったウタを、ルフィが抱えて助け出したのだ。


「……私、負けたのか」

衝撃で折れた槍を見ながら呟く。

この傷のままでは手足もあまり上手く動かなくなっている。

既にこちらの体は満身創痍のようだ。


「…強くなったじゃん、ルフィ」

「…仲間は返してもらう…けど、今回はウタの勝ちだろ」

「は?」

つい素っ頓狂な声を倒れたままウタが出してしまう。

それに答えるかのようにルフィが続ける。


「こっちじゃ勝ったけど…現実じゃ寝てんだろ?なら最初からウタに負けてるんじゃねェか」

「あー…」

確かに、全員の命は現実のウタの手の中だった。

既に海賊としては負けていた、それがルフィの考え方なのだろうとウタが納得する。


「あ、でもちゃんと勝ったから仲間返してもらうからな!!あとお前の下にはならねェ!!」

「はいはい…あーあ、振られちゃったなぁ…」

そう言ってため息をついたが、その顔は特に未練もなく、むしろ清々しさすら思わせるものだった。

「…ちゃんと強くなってんじゃん、ルフィ」


「…なァ、なんでお前シャンクスの事きらいになった?」

「…ゴードンから聞いたの?」

「あァ…お前がシャンクスの事、憎んでるって言ってた」

少し前の会話を思い出しながら聞いてくるルフィに、ウタはつい苦笑してしまう。

「…そっか…まぁゴードンからすればそうだよね…」


「…シャンクスは…私をこのエレジアに残して…捨てて行った」

「………」


ウタが、己の過去を語り始める。

この島でのかつての悲劇…

そして、政府の犬である"セイレーン"が生まれた、その背景を。

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