スレミオ幼馴染 ゆりかごの星幕間(捏造注意)

スレミオ幼馴染 ゆりかごの星幕間(捏造注意)


僕らがミーくんと出会って、数ヶ月が経った頃。

スレッタが1ヶ月後に9歳の誕生日を控えた、ある日の出来事だ。

ミーくんがコロニー外へと放り出されたのだ。

どうやらスレッタとのかくれんぼで搬入口付近にいて、資材受入の際に誤って放り出されてしまったようだ。

宇宙服を着ていたのは不幸中の幸いだったが、このままではマズイ。


老人たちが慌ただしくモビルクラフトを準備する。

そんなもたつく彼らが発進すらより早く、僕のコックピットに彼女は乗り込んできた。

スレッタだ。


「待ってて。ミーくん」


老人たちの静止を振り切り、僕らは即座に飛び出す。

モビルクラフト発進のためにハッチが開け放たれてて良かった。

こうして僕は、スレッタと共に初めて宙へ出た。


宇宙空間に、重力と呼べるほど強い引力は存在しない。

つまり宇宙では、推進剤を吹かすほど勢いよく飛ぶことができる。

逆に言えば、適量の推進剤でなければ明後日の方向まで跳ねてしまう訳だ。


そしてスレッタは、上手く宇宙を飛べなかった。

無理もない。

実機で宇宙を飛ぶのは初めてなのだ。


「ミーくん。どこ? どこにいるの?」


落ち着いて、スレッタ。

救難信号を頼りに、いつも通り操作して。

いつもゲームで僕を動かすようにすれば、大丈夫だから。


「どうしよう、エアリアル。このままじゃ、ミーくんが」


涙声で話す彼女に、応える術を僕は持ってない。

こういう時こそ、管制塔の出番だろう。

小さな子が、冷静になれずもがいてるんだ。

お願い。誰でもいい、彼女を助けて。


僕の願いに応えるように、通信が来た。


ミーくんからのアラートだ。

どうやら彼女の宇宙服は、あと10分ほどで酸素が枯渇するらしい。


「たすけないと。ミーくんを」


今まで狼狽していたはずのスレッタは、自分を落ち着けるように深呼吸をする。

幸いにもアラートが、彼女への気つけになってくれたようだ。

こうしてスレッタが冷静さを取り戻したのだ。

だったら僕も、落ち着いてミーくんを助けないと。


ミーくんの酸素残量。

信号から分かる推測距離。

そして、コロニー周辺のデブリ。

上記データを元に、分かりやすいルートを作成する。

そうして出来上がったミッションチャートを、モニター上に表示。

さながらゲームのチュートリアルのロードマップのようだ。


スレッタ。これならいつもの感覚で、助けに行けるだろう?


「ありがとう。エアリアル」


感謝を告げた彼女は、僕と飛んだ。

ミーくんの元に辿り着くまでには、3分とかからなかった。


「ごめん、ミーくん。おまたせ」


ハッチを開き、ミーくんを受け入れる。

ミーくんは言葉で応えず、スレッタに抱きついた。

無駄な酸素を消費すべきでないと分かっているのだろう。

救難信号の出し方といい、やっぱり頭の良い子だ。


「帰ろう。ミーくん」


左腕でミーくんを抱き返しながら、右手で僕に指示を出す。

5分かけて、僕らはコロニーに帰還した。


帰宅した僕らを、老人たちが険しい顔で迎える。

お小言なら後にしてほしい。

僕もスレッタもミーくんも、疲れてるんだ。

しかし老人の癇癪より先に、デッキに大きな声が響いた。


スレッタとミーくんの、嗚咽だ。

無理もない。

助けられない。

助からない。

立場は違っても、急に宇宙へ飛び出ることになった彼女たちにとって、今日の出来事は怖かったに違いない。

むしろよくここまで、2人とも気丈に振る舞えたと思う。


流石に老人たちも毒気を抜かれたのか、渋顔で休憩所へ案内する。

その背中を、僕はコンテナに輸送されながら見送った。


ああ。スレッタがともだちを失わなくて良かった。

そして、ミーくんがスレッタを泣かせることにならなくて、本当に良かった。




数日後、スレッタが僕のコックピットに来た。

ミーくんは一緒じゃない。

僕と2人きりで、話したいことがあるみたいだ。


「私ね、これからエアリアルと、救助活動を任されることになったんだ」


どうやら先日のミーくん救出が老人たちに評価されたらしい。

今までのようにモビルクラフトで老人たちが出るよりも、僕らの方が速く確実だと判断されたらしい。


「お母さんも頑張りなさいって言ってくれて、嬉しかった。

ミーくんは、なんでか拗ねてたけど」


スレッタ。ミーくんは君を心配しているんだ。

水星での救助活動は当然危険を伴う。

聡いミーくんはそれを間違いなく理解している。

だからミーくんとしては、救助活動をやめてほしいのだろう。


でもそんなミーくんの心配に、スレッタが気づいた様子はない。

この鈍感さんめ。

そう指摘したくてもできないのが、少し歯痒い。


「ねぇ。エアリアル」


万感の思いを込めるように、スレッタは僕に伝える。


初めて任された役割と。

ともだちの命。


「進めば2つ、手に入ったよ」


それらを実感するように、彼女はつぶやいた。

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