スリラーバーク編inウタPart9
二つ返事で提案を了承したゾロとくまの会話が終わった時だった。
そのピエロの化け物の目が赤く光ったかと思うとそれは光線となり、崩れていた城に着弾し大爆発が起き、瓦礫を消し飛ばした。
「な…なんだよあれェ!?」
『枯れ果テず湧く願イト涙——』
ウソップがその脅威的な破壊力に驚く間にも不気味なウタの歌がピエロから響き続ける。
「あのすみません。あのお嬢さんは普段あのような歌い方はしない………そう思いますが合っていますか?」
「え、ええ…そうだけど……」
ブルックの突然の問いにナミは答える。それを聞きながらブルックは剣を抜きピエロへ近づいていく。
「ならば…止めなければ!!!彼女が歌でこのようなことを望むとは思えません!!」
「…うん!!」
ブルックの言葉に頷き、ナミは天候棒を構える。
オーズ、巨大化したモリアに続いて怪物相手。それでも仲間が囚われているこの状況で逃げるわけにはいかない。
「おいくま野郎一つ教えろ!!あのクソピエロを攻撃してもウタちゃんは傷つかねェんだろうな!?」
「……アレはウタウタの実の能力者と関わりはあるが別の存在だ。奴を攻撃したところであの女は傷つかん」
サンジの質問に答えるくま。信用できるかは怪しいが信じてあのピエロを全力で叩いて止めるしかない。皆にもその意図は伝わっていたのか、ゾロとサンジ、ブルックがすぐにピエロへと走っていく。
「とにかくアイツをぶちのめせばいいんだろう!!?」
「クソ肉球野郎!!嘘ついてやがったら三枚にオロすからな!!!」
「私、まだあのお嬢さんの歌をしっかり聞けてませんからね!!取り戻さなくては!!!」
ゾロが気迫で阿修羅へと姿を変え、サンジがその場で足を軸に回転し、足が灼熱に染まると同時に飛び、ブルックがピエロの懐へ飛び込んでいく。
3人それぞれが己が出せる最高火力をピエロへと向けていく。
「"鬼気 九刀流"…!!」
「"悪魔風脚"…!!」
「"鼻唄三丁"…」
今の麦わらの一味の中でも高い威力を誇る技の数々が向けられているにも関わらず意に介さない様子のピエロ。
そこに3人の技が突き刺さる。
「"阿修羅 弌霧銀"!!!」
「"画竜点睛(フランバージュ)ショット"!!!」
「"矢筈斬り"!!!」
巨大な爆発が起きたかと思うほどの轟音が響く。並大抵の生き物ならこれで倒せている…はずだった。
「なに!!?」
「うそ…無傷…!?」
ウソップが叫び、ナミも思わず言葉を漏らす。3人の攻撃全てが赤い障壁阻まれていた。
「この模様は…!!フェルマータ!?」
障壁の模様に驚くブルック、そしてゾロとサンジに向かってピエロの巨大な腕が振るわれるが3人はその攻撃をすんでのところで避ける。
その瞬間、ピエロの背後にくまが現れた。何度も行っていた瞬間移動だ。
「"つっぱり圧力(パッド)砲"!!!」
その呟きと同時にゾロにも放った技が放たれ、大量の肉球の衝撃波がピエロへと迫る。しかしその技も全て赤色の壁に阻まれ本体には直撃しない。厄介な…と呟いたくまは再び振るわれたピエロの剛腕を瞬間移動で避けた。
『───無条件 絶対 激昂なら Singing the song!如何セん罵詈雑言デモSinging the song!!』
ウタの歌が響き渡る中、皆がピエロを止めるために攻撃を続ける。
コーラさえあればと言いながらフランキーが大岩を投げつけるも弾かれる。
ウソップが様々な弾を放つがこれも弾かれる。
ナミが"サンダーボルト・テンポ"を食らわせるが通じない。
"重量強化(ヘビーポイント)"へ姿を変えたチョッパーがピエロを殴るがやはり弾き返される。
ロビンが"百花繚乱(シエンフルール)"により大量の手を咲かせようとするも本体ではなく障壁に咲いた上にすぐさま消えてしまう。
どんな攻撃も全てが通用しない。何もかもが弾かれる。
「クソっ!!無敵かよありゃあ!!?」
「なんなのよ…あの化け物…!!」
「ウターーっ!!!戻ってきてくれェ!!!」
その光景に皆が思い思いの事を口にする最中でもウタの声で歌う、彼女のそれとは思えない歌声が戦場に響き続けた。
『怒レッ!』
『集えッ!』
『謳えっ!!』
『破滅の譜ヲォォッ!!!』
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───やめて───
───いやだ───
必死に言葉を紡ごうとするがそれも出来ない。ウタは今、真っ黒な空間で一人浮かんでいた。体はろくに言うことを聞かず意識も朦朧として自分がどうなってるかも、外がどうなっているかもよく分からない。それでも口が勝手に動いて何かを歌っていることは分かる。
そして───
《辛い》《なんでおれは認めらない》《あいつが憎い》《お前のせいだ》《寂シイ》《お前がやった》《ふざけるな》《許せない》《置いて行かないで》《私を認めて》《誰か聞いて》
ずっと頭の中で色んな人の声が響き続けている。その言葉も決して聞いていたいものじゃない、言うならば負の感情の塊のようなもの。
その時、見えない何かが巨大なもの…手のようなものがウタを掴む。
『歌エ!』
こうなる直前にも聞こえた声が先ほどよりも大きく頭に響いた。
『歌エ!!』
その手がまるで闇の中へ引きずり込むようにウタを引っぱっていく。
『歌エ!!!』
違う、これは引きずり込んでるんじゃない…
『歌ッテクレ…!!!』
縋りついている…?
それでもウタにとっては深い闇に引きずり込まれるのと変わらない。
──助けて…皆…──
思うように動かない体を必死に動かし、左手を伸ばす。
視界に、左手の甲にある"新時代"のマークが見えた。
──助けて…ルフィ…!!───
その瞬間、ウタを掴む腕がピクリと反応し、そして……
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皆の攻撃を受けていたピエロの動きが突然止まった。そしてまるでキョロキョロと何かを探すような動きをしているかと思うと再び動きを止める。何かいるのかとその視線を追った先…そこにいたのは瓦礫の上で気を失ったままのルフィだった。
その瞬間、再びピエロの左目に赤い光が溜まり始める。
「まさか……!!やめてェ!!!」
ピエロの意図を察してナミが叫ぶ。他の者達もすぐに化け物の意図に気付き、動き出す。
「こいつ………!!ルフィを狙ってやがんのか!!?」
「ふざけんな!!ウタちゃんに何させるつもりだ!!!」
ゾロとサンジが叫びながらピエロへと向かう。
「おい!!こっちを見やがれ!!三刀流 "百八煩悩鳳"!!!」
ゾロの攻撃はまたもや障壁に阻まれる。サンジはピエロの腕に蹴りを入れると、そのまま赤い障壁を踏み台に高く飛び上がる。
「クソピエロが…やめろォ!!!"粗砕(コンカッセ)"!!!」
その強烈な踵落としですら障壁に阻まれ、赤黒く輝く閃光が強くなっていくのを止められない。
「"ストロング右"!!!」
「"夜明歌(オーバード)・クー・ドロア"!!!」
「"サンダー・ボルト・テンポ"!!!」
「"アトラス流星"!!!"火の鳥星"!!!……クソっ!!止まれェ!!!」
一味が次々と攻撃を繰り出していく。ロビンも関節技が使えずとも腕を咲かせ瓦礫を投げつけていく。
ローラたちも石を投げたり、銃を放ちながらなんとか気を引こうとしてくれる。
しかしその全てが赤い障壁に阻まれ、ピエロは意にも介さない。
「ルフィ!!起きて!!!」
そうナミが叫んだ時、攻撃に参加せずルフィの下へと向かっていた獣形態のチョッパーがルフィをくわえ走り、ピエロの射程から逃げようとしていた。
しかしピエロは視線でルフィを追い続け、閃光がどんどんと大きくなっていく。
「クソピエロがっ!」
「何やってんだアホコック!」
「サンジ君!!」
ピエロの頭上から攻撃を続けていたサンジがその眼前にまるで盾になるように飛び出したのを見たゾロとナミが叫んだ瞬間、ピエロから赤い閃光が放たれた。
その閃光はまるでサンジなどいなかったように伸び、チョッパーとルフィがいた場所へ着弾し、大爆発を起こした。
「そんな……!!」
「サンジ君!!チョッパー!!…ルフィー!!!」
ロビンが呟き、ナミが悲鳴を上げた瞬間、その隣にくまが現れた。その両脇にはサンジとチョッパー、ルフィが抱えられていた。
あの瞬間移動で3人を助けてくれたのだ。くまは世話が焼けると呟き彼らを放り投げる。
ピエロがギロリとくまを睨みつけ、その剛腕を振りあげたが、その動きがピタリと止まったかと思うと、けたたましい雄たけびを上げながらもがきながら徐々に体が薄れていった。
まだ足りない、そう叫んでいるような印象を与える咆哮を上げ、ピエロはその姿を消した。
そしてピエロの頭があった辺りから人影が落ちてくる。ウタだ。
「ウタちゃん!!」
「ウタァ!!!」
皆が叫びウタの方へ走るがゾロだけは彼らを守る様に、くまの前に立ちはだかったままだ。
落ちてくるウタをサンジが受け止めると、すぐに馴染み深い獣人型の姿になったチョッパーがその容態を診察するとすぐに、チョッパーはポロポロと涙を流し始める。
「生きでる…!!ウタ……生きてるよ゛!!ちゃんと呼吸も脈もある!!!」
「よかった……!!」
あの暗い歌声を発していたとは思えない様子で、ウタはスヤスヤと寝ており、その場にいた全員がホッと胸を撫で下ろした。
しかし、まだここには脅威が残っている。
抹殺命令を受けたくまはじっとウタを見つめ、呟く。
「なるほど………能力者が眠ることで消滅するのか……"10年前"には子供の体力、"今回"はモリアとの戦いで消耗していたために両者共に世界を揺るがすほどの事態は避けられた、ということか………だが…」
何やらブツブツと独り言ちるくまにゾロはさっきの化け物はなんなんだと問いかけるが、質問には答えないと最初の問答と同じ答えを返す。
が、その女の危険性なら話してやろうと言葉を続ける。
「そいつが今呼び出してみせたものは当人の能力である"ウタウタの実の最上位"の技とも言える世界を滅ぼしかねない力だ…………そのような能力を持ってはいるが、それが出現する事はそうないだろうと政府は1億の懸賞金で済ませたが………」
世界を滅ぼす。そんな事を自らの歌で新時代を切り開こうとするウタちゃんがそんな事するわけねェだろと突っかかるサンジにウソップとチョッパーが割って入る。
「いや待てサンジ!!ウタがよ……あのバケモノを呼び出す歌を歌う前の様子が変だったんだ……!!だよなチョッパー!?」
「ああ……まるでなにかに操られてるような感じだったぞ」
「………もしそれが事実ならば、尚更見逃すわけにはいかないな」
チョッパーの証言を聞いたくまは両腕を広げ、肉球型の大気の層を作り縮めていく。
「"肉球"で弾いて…大きな大気の塊に圧力をかけてるんだ……あんなに小さく圧縮されてく……!!!」
「あれ程の大気が元に戻ろうとする力は……例えばものすごい衝撃波を生む爆弾になる……!!!」
「……!?爆弾!?………要するに爆弾作ってんのか?」
ナミとロビンの解説によりくまが爆弾を作っていることが明かされ、その爆弾作成が終わったくまがお前達の命は助けてやろうと再び提案するが、その条件が前のものから変化していた。
「そのかわり "麦わらのルフィ"もしくはその女"ウタ"の首一つおれに差し出せ。事情を話せばどちらかの首さえあれば政府も文句は言うまい」
「!!!…仲間を選んで売れってのか…」
ルフィの首だけでなくウタの首までも条件に加わり、この提案を呑むならどちらかを選びどちらかを捨てるという選択を、大気の爆弾を手に抱えながらくまは投げかける。
だが彼らの答えは一つだった。
「さァ選べ…そしてこっちへ」
『断る!!!!』
「残念だ」
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モリア撃破とくま襲来より丸一日が経過した。それまでの間に行われたゾロとサンジの覚悟を、そしてゾロの顛末や何故か異常に元気なルフィの真実を知るものはごく一部であり、おおっぴろげにされる事は麦わらの一味が出航されるまではなかった。
寝ずに夜通し戦っていた事もあり、中庭で丸一日寝ていた一行は起床した後にへし折れていないメインマスト部分の屋敷内で宴を開こうと、サニー号に奪られた分以上に積み込まれた食糧を持ち出そうとしている最中だった。
「チーズじゃダメだ!!おれはチーズじゃ動かねェ!!」
「お前何でそんなに元気なんだよ!!絶対おかしい…不思議だ」
「不思議だよねェ……私もなんでかあのくまみたいな七武海が襲いかかってきてからの記憶が曖昧なんだよね」
「…まァいいじゃないウタ……結果が全てよ結果が!」
ウタの疑問をはぐらかすように言ったナミは財宝の山に埋もれながらウットリと幸せを噛みしめていた。
「別にそれでもいいけど……誰の仕業なんだろうねこれ」
「100歩譲ってクリスマスだとしても景気良すぎるわ」
「お!ガラスのバンドカッチョイイなー、おれ貰い!!」
「おいおい宝に勝手に手を出したら…ね…ねェナミさん?」
「いいわよそれなら。宝石じゃないから」
「あ…そういう事もあんのか?」
ただしあんたらにはひと欠片もあげないとローラに言うナミの横でウタとウソップが宝石のついてない装飾物やナイフがないかと漁る中、ローラはナミの事をナミゾウと口をついて出てしまい不思議な感覚に陥っていた。
ナミゾウという呼び方にスリラーバークで出来た友達である猪ゾンビのローラを思い出したナミはまた会えて嬉しいと抱きつき、とりあえずお礼にと腕いっぱいに収まるほどの財宝をローラに渡し、それを見たルフィ・ウタ・ウソップの3人は驚愕し、嵐が来るぞと叫んでいた。
食糧やその他色々なものをゾロが絶対安静でいる屋敷へと持ってきたルフィ達は今なお眠ったままのゾロの容態を確認する。それに対しチョッパーはこんなにダメージを残したゾロは初めて見たと言う。
「───やっぱり何かあったんじゃないかな、おれ達が倒れてる間に」
「確かにあの男があのまま帰ったとは考えづらいものね」
「ルフィが異常に元気なのもおかしいよな───」
「そればっかりはおれもわかんねェ、なははは」
するとそこへ一部始終を見たというローラ率いる海賊団のリスキー兄弟が教えようと声をかけるがサンジに連行されてしまう。
戻ってきた時にはみんな無事なら何よりだとうずうずしながらも結局話さずに終わってしまう。
何はともあれ気を取り直してと、サンジが腕によりをかけて作った料理をワイワイガヤガヤとブルックとフランキーを中心に盛り上がり宴の様相を呈し始めたが、ゾロが起きる気配はまるでなかった。
そばで心配するナミとチョッパーの下へルフィとウタが2人で酒樽を持ってくる。
「ねェチョッパーこれ!!」
「ゾロの分だ!!ししし!!さァのめ!!」
「飲ますな!!!」
「ゾロは酒が好きなんだから元気になるでしょ!!!」
「どんな医学だ!?それ!!!」
なおも肉やらパンケーキやら自分達の好物を与えてゾロを元気にしようとする2人を気持ちだけ受け取るよとチョッパーがなだめた頃、ポロロンとブルックがBGMをかけようとピアノを弾き始める。
そこへ1番に近づいて来たサンジと何やら話をした後に、リクエストを求めたブルックへウタがいの一番に提案する。
「はいはーい!!私のオリジナルで『新時代』っていうのがあるんだけど…」
「あ♪ビンクス〜の酒を〜♪」
「お前今リクエスト求めたよな!!?」
ウタのリクエストを無視してピアノを弾き始めたブルックにサンジが突っ込むが演奏は止まらない。リクエストはまた次の機会にと一旦諦めたウタは、宴の中心に飛び込んでいき歌い始める。
宴に歌姫の歌と騒がしい野郎どもの声が響く中、懐かしい唄が流れてるなとルフィがピアノを弾くブルックへ声をかける。
「おい!!ブルック!!この唄おれ知ってんぞ!!シャンクス達が唄ってた」
「昔の海賊達はみんなコレを唄ってました。辛い時も楽しい時も………!!ヨホホホ」
「お前さ、おれの仲間になるんだろ?な!!」
影帰ってきたもんなと言うルフィに対してブルックは仲間との約束があると身を引こうとするが、ラブーンの事だろとルフィは看破する。
既にルフィ達が双子岬でラブーンに会っていた事と彼が50年待ち続けていた事を告げるとブルックの演奏が乱れ始める。
「………ちょ…ちょっと待って下さいよ!!ヨホホ…!!びっくりした………!!唐突で。あなた達が本当に…!?ラブーンに会ったって!?」
「うん」
「50年も経ってるのに…!?今もまだ…!!!あの岬で待っていてくれてるんですか!?ラブーンは……!!!ホントですか……?」
50年も待ち続けてくれている事が信じられないブルックにルフィとサンジ、ウソップが確かに会ったと伝えると、小舟ほどの大きさのかわいかったラブーンを思い浮かべてから演奏を止める。
嗚咽し、とめどなく溢れる涙を抑えながらブルックはかつての自分達、ルンバー海賊団の冒険の軌跡を思い返す。ラブーンと出会い、冒険と戦い、そして音楽に明け暮れたあの日々を。
そうして演奏を止めてしまったブルックへ宴の中心人物達が声をかける。
「おう何だ何だもっと弾けブルック!!」
「そうだ!!鼻わりばしで踊るんだ!!おれは!!」
「私まだ歌い足りないよ!!」
「ヨホホ、ちょっとお待ちを………えーと」
『えーー!!?そうなってんのか!!?』
唐突に自分の頭蓋骨を半分に割り中から何かを取り出そうとする姿に皆が驚く中、ブルックはそこから"音貝"を取り出す。
その中には今は亡きルンバー海賊団の生前の歌声、明るく楽しく旅を終えたというラブーンへのメッセージが録音されていた。
「今かけても構いませんか?」
「おー聴きてェ!!そりゃラブーン喜ぶだろうな」
「では…」
それから鳴り響いたのは過去に行われたルンバー海賊団一世一代の大合唱に合わせて歌い踊る、現在を生きる者達が時間を超えて歌い紡ぐビンクスの酒。
ルフィ達のスリラーバークでの激闘を称え、ブルックの孤独であった50年を吹き飛ばすかのように歌われたビンクスの酒は、果てなしあてなし笑い話とそのメロディーが鳴り終わろうとする。
まだまだ歌おうと言う周囲の声を聞きながらブルックは、暗い霧の海をさ迷った50年間で何度も聴いた音貝を覗き込みかつての仲間達の姿を垣間見る。
「一人ぼっちの大きな船で…………この唄は……唯一……私以外の"命"を感じさせてくれたのです───しかし今日限り私は、新たな決意を胸にこの"音貝"を封印します。封印〜〜!!!」
『えーーっ!!?やっぱそうなってんのか!!?』
先程までの物悲しい雰囲気はどこへやら、再び頭蓋骨を開け音貝を封印したブルックはごろんとピアノに乗ってきたルフィへ、ラブーンが元気に待っていて影も戻り魔の海域も抜けた今、音貝に蓄えたみんなの唄声は自分一人が懐かしむ為の唄ではなくラブーンに届ける為の唄と、封印した理由を告げる。
「辛くない日などなかった…希望なんか正直見えもしなかった。でもねルフィさん…」
「本当に!!生きててよかった!!!今日という日が!!!やって来たから!!!」
50年の想いが報われたブルックにそらそうだとルフィは返す。
そこへブルックは何かを思い出したかのように声を発する。
『さらっと!!!入ったァ〜〜〜〜!!!』
さらっと、ルフィから誘っていたとはいえ本当にさらっと麦わらの一味に入ったブルックに一同驚愕したものの、すぐに歓迎ムードとなり出迎える。
『でも歓迎〜〜っ!!音楽家♪音楽家♬死んで骨だけ音楽家♪念願の♪音楽家♬』
「その軽さもおめーのいい所!!」
「ハイッ!!骨だけにィ〜〜っ!!!」
「おんもしれ〜〜っ!!!」
「わかったから…」
ブルックの仲間入りに盛り上がる男連中とウタを見てナミはなんでこういうのが集まるのかと呆れ、ロビンは賑やかになると微笑んでいた。
何だか知らないけど景気いいからとローラ達がカンパイしブルックが得意の45度を披露する中、45度を披露するその姿とは裏腹にブルックはラブーンへの想いを綴る。
"世界一周"…そのゴールにお前はいるのだから引き返しはしないと。
(きっと会いに行きます。待っててください。もう少しだけ…)
ラブーンへの想いを綴るのを終えたブルックは懐から一枚の紙、自身の手配書を地面に置き改めての自己紹介を始める。
「申し遅れました……!!私!!死んで骨だけ名をブルックと申します!!フダツキでございます!!通称"鼻唄"のブルック!!懸賞金『3千300万ベリー』!!昔とある王国の護衛戦団の団長を務めその後、ルンバー海賊団船長代理"音楽家兼剣士"。今日より麦わらのルフィ船長にこの命!!お預かり頂きます!!皆さんのお荷物にならぬ様に!!