スリラーバーク導入
魔の三角地帯。
偉大なる航路前半に存在する、毎年100隻以上の船が消息を絶つ呪われた海域である。
そんな誰もが敬遠する海域を通る一隻の船があった。
「いやー、何も見えねぇ…ウタ!これなら当分大丈夫だし、久々に魚釣りで勝負しよう!!」
「うん…そうだね、ルフィ…」
2人はルフィとウタ。海軍本部の海兵だったがある事情で天竜人を殴り飛ばし、処刑される身であったが仲間や大将の尽力により処刑場だったマリンフォードから逃走。船にあった永久指針を頼りに航海をしていたのであった。
「よっしゃ!釣れた!!ウタ、俺のが先に釣れたから俺の勝ちだな!!」
「そうだね…私も早く釣らないとね…」
なるべく明るく振る舞っているルフィと対照的にウタの雰囲気と表情は暗い…自分の大切な幼馴染が命を掛けて助けてくれたのは乙女としてこれ以上ない幸せなことなのだろう。しかし童話と違いめでたしめでたしで終わらず、こうして2人での逃亡をいつまで続けたらいいのか先の見えない不安に押し潰されそうになっていたのだ。
そして何よりもルフィの築き上げた英雄としての立場、海軍での地位を捨てさせるきっかけを作ったのもまた自身であるとウタは自覚している。
そんなネガティブな感情に心を支配されてしまい、ウタは普段の明るい性格になれずにいた。
「なー、ウタそんなに暗くなるなよ…こうなったらさ2人でさ冒険しようぜ!冒険!!いっそのことワンピースを見つけるとかさ」
「ワンピースって…私達、海兵なのに海賊王になるのは不味くない?ルフィ…それにそんなのになったらエースと戦うことになるよ?」
「んー…違う違う、別に海賊じゃなくてもワンピースを見つけられるだろ?それを先に手に入れてさ、また海軍に戻るとかどうだよ!じいちゃん達も驚くだろうしさ」
2人で釣った魚を捌いて作った料理を仲良く食べながらそれとなく今後のことについて切り出すルフィ。(ワタヌキはルフィの方が上手かったりする)そしてウタはポカンと空いた口を塞がらなくなってしまった…それもそのはず、なんと彼はワンピースを手に入れると言い出したのだ!オマケにそれを元手に海軍に再び戻ると宣言までして…
「ルフィ…けど、もう私達犯罪者だよ…?もう戻れる訳…」
「なんとかなるって!それに俺はウタを守ってウタは俺を守ってくれるって約束だろ?約束を先に破ったらウタの負けで俺の148連勝になるな!」
「なんでそうなるの!私の148連勝なんだから!!」
ルフィの言葉に思わず反応してしまいネガティブな気持ちを忘れて子供のような張り合いをしてしまう…こんな他愛のない会話も何時ぶりだろうか?
2人で将校になってからは部下の目もあって(本人基準では)真面目なやり取りをしてこんな張り合いもしていなかった、そんなことも忘れてネガティブな気持ちになっていた自分に恥ずかしさを覚えつつウタは覚悟を決める。
(ルフィと一緒にワンピースを手に入れる…海賊や海兵じゃなくて冒険家として!)
そして手に入れたワンピースを海軍に持ち帰り、2人で今回のことを謝ればきっとサカズキ大将の説教とゲンコツはあるだろうけどきっとなんとかなるとそんなポジティブな未来を描きながら…
「おっ…ウタ!陸地が見えるぞ!そろそろ永遠指針の島に着いたのかも!!」
「えっ?けどまだ指針は別の場所を指してるけど…」
そんなことを言いながらようやく永遠指針の島に到着したらしい、しかし指針は別の方向を指している。それもそのはず…その島は島であって偉大なる航路の島でないのだから…
そこはスリラーバーク。王下七武海の1人が乗る世界最大の船であり、この魔の三角地帯を根城に海賊達を襲うゴースト島。2人はそんな島にいつの間にか飲み込まれてしまったのだ。
そして何時だって悪意は突然襲いかかって来るのである。
「キシシシ!!新しい影が手に入ると思ったら…なんて幸運だ!おい!お前ら!!何が何でもあの2人を気絶させずに俺様の前に連れてこい!!」
「モリア様?影を抜いて捨てる為に気絶させるのではなくて意識のあるまま連れてくるので…?」
「当然だ!アイツらは影を抜かずに俺様の部下にする!!そうすれば、そうすれば俺様はカイドウを倒すほどの力を手にしてカイドウの座る四皇の座を奪い取れる!!」
スリラーバークの一室でそんな声が響き渡る。椅子にふんぞり返る「スマートな大男」は大声で部下たちに命令を下す。
「ガルルル…なぁ、どうしてモリア様は急にダイエットなんてしたんだ…?」
「ホロホロ…私が知るかよ、バカが!!」
「フォスフォス…何かあるんだろ、たぶん…」
「バカ野郎!?早く行かねぇか!!?」
世界を震撼させた天竜人への暴行とその実行犯が逃走したニュースの裏で悪夢の島での大騒動が幕を開けたのである。
「ヨホホホ…待っててくださいね、ラブーン…今日こそ影を取り戻して貴方の元へ…」