スノーフィールド警察署は百合課を作れ
警察署には似合わない、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
……彼女だろうな、というのは何となく察していた。キャスターさんかとも思ったが、あの人がわざわざ警察署まで来て焼き菓子作りだなんて署長が許さないだろう。
「クッキー焼けましたよー!
……ふふ、隠蔽係ちゃんも焼きたてのうちにどうぞ。あーんしてあげましょうか?」
「あ、エリスさん……お疲れ様です!クッキー?やったー!食べる食べる!あーんもしてー!」
「えぇ、どうぞ。……あら、お口の端についてる。隠蔽係ちゃんは可愛いですね、いい子いい子してあげましょうね〜」
デスクワークをしている後ろの席から可愛らしい声が聞こえてくる、同僚と女子同士で仲睦まじいのは微笑ましいが、正直に言うとちょっと嫉妬もした。
「エリス、俺も、その……」
「ひゃ、ジョンくん!?は、恥ずかしいよ……その、ジョンくんとは、2人きりの時に……」
顔を真っ赤にして俯くエリス、こういうところがやっぱり可愛い。俯いて、はらりと垂れた亜麻色の柔らかな髪を、指で掬って真っ赤になった彼女の耳にかける
「……くすぐったい」
「あ、わ、悪い……」
「……むぅ、ジョン!せっかくエリスさんとイチャイチャしてたのに横から入ってくるなんてひどーい!」
「も、元々エリスは俺の彼女だし」
「ジョンくん、恥ずかしいからそこは秘密で……」
「あ……そうだな……」
くいくいと控えめに俺の制服を引っ張るエリスに口元が綻ぶ
「ま、いいですよーだ。だって私、今日はエリスさんとふたりで夜勤だし……」
「夜勤?あぁ、そういえばそうだっけ。遅くなったら危ないし、2人とも夜勤明けには俺が送っていくよ、俺も深夜パトロールだからさ」
「ほんと!?やったー!やったねエリスさん!送り狼されないように気をつけてー!」
「し、しないよ……多分」
……多分、多分しない
「ちょっとこいつ多分とか言ってるんですけど。やっぱりだめじゃない?逮捕しちゃえー」
「……で、ジョンとは普段こんなことしてるんですか?」
緩やかに、警官服の上をなぞる彼女。
「隠蔽係ちゃん?わ、私の事なんて押し倒しても何も出てこないよ?今お菓子持ってないし……」
「お菓子なんていりません、私が欲しいのはエリスさんですから。……あぁ、可愛い」
押し倒されたソファの上に乗って、顔を覗き込まれる
「これ、今だけは外してください。ジョンから貰ったやつですよね?」
「あ、うん、で、でも……」
「今夜だけでいいから、私の事を見ててください」
彼女はそう言って、私の頬に唇、を──
「ちょっと!?隠蔽係と……え、エリス!?何してるんだ?」
部屋に飛び込んできたのは……
「ジョンくん!?あ、えっと、こ、これは違くて……」
「見ての通りエリスさんとイチャイチャしてました〜♡羨ましい?羨ましいだろー!」
「わっ!」
先程までの雰囲気はどこへやら、思いっきりソファに飛び込んで私に抱きつく隠蔽係ちゃん
「こら、ちゃんと署の夜警しろよ」
ジョンくんは呆れて隠蔽係ちゃんを引き剥がす
「えー……というか、私とエリスさんじゃ署内に侵入者入ってきても何も出来ませんよね……」
「まぁ……そういう時のために俺が一緒に夜勤するんだろ」
「それもそっか……で?ジョンも混ざる?エリスさんかわいーよ」
「だ、れ、が!混ざるか!あとエリスから離れろ!!」
「うわっこのー!暴力反対!」
「あはは……2人とも仲良しでよかった……?」