スネークとホークにお菓子を与える話

スネークとホークにお菓子を与える話

初手、素材


「もう飽きた!毎日同じことの繰り返しじゃ!」


毎日毎日、テストが続いたことによって、とうとうスネークの不満が爆発した。

兵器として運用するには沢山の関門がある。

途中で根をあげようにも、せっかく成功したセラフィムシリーズだ。

即破棄という訳にもいかないだろう。

しばらく考えていた博士が一言、スネークに告げた。


「わかった。わかったスネーク。終わったらお菓子をやろう」

「……お菓子?」


経口で栄養を補給する際、一日のエネルギーを賄えない場合の補助食品。いわゆる嗜好品だ。

知識としては知っているが、摂取をしたことがない。


「格納庫に用意させておこう。今日はもう戻れ」

「……」


戦闘訓練で破れた服を交換し、着替えて格納庫に戻る。

見慣れた無機質な空間に似つかわしくなく、低いテーブルの上に急須、何かが置かれた皿が乗っていた。


「……なんじゃ、これ」

「……わからん。何かの、素材じゃないか?」

皿の上には立方体の白くて半透明な物質が置かれていた。

「……素材じゃの。これがお菓子というものか?」

「……いや、素材だろう。おれはこれを完成品とは認めない」

「これを……経口で摂取すればいいのかの?」

「……そうらしい」


しばらく2人でそれを眺め、それぞれの皿を持ち上げ、揺らす。

半透明の物質は少し震えた。


「柔らかいみたいじゃ」

「つついてみるか」


皿の脇に添えられた串で、半透明の物質をつくと、もっちりとした感触を手に与えながら串が沈んだ。


「確かに柔らかいな」

「ホーク、先に口に入れてみよ」

「なんでおれが」

「……わらわ、こわい♡」

「……」


この物質がなんなのかはわからない。

しかし口に入れて危険なものを出す訳が無いだろう。

意を決して串に刺した半透明の素材を口に運ぶ。


「……」

もっちもっちとした物体を歯で咀嚼し、飲み込んだ。

「どうじゃ、ホーク」

「……甘い。シンプルに甘い」

「……美味しいかの?」

「……美味しくない訳では無いが。なんというか」

急須の中の液体を湯のみに移し、飲み下す。

「この、緑茶にあう味といい……博士のセンスだなと」

「……それは、どういう感想じゃ……」


危険は無いと判断したスネークは自分の皿の上の物質に串を刺して口に放り込む。

もちもちとしばらく咀嚼し、飲み込んだ。


「……甘いのう」

「美味しいか?」

「……美味しくなくはない。嫌いではないのじゃが。なんか、こう、思ってたのと違うのじゃ」

「わかるぞ」

「テンションが上がらないというか……」

「落ち着くというか」

「悪くは無いが……博士はわらわたちの気持ちがわかってない気がするのじゃ。なんとなく。美味しいけど、なんか違うのじゃ……」


湯呑みを両手で抱えて、スネークは微妙な顔をした。

次の日、研究室で博士に感想を聞かれた。


「どうだった?お菓子は?」

「……テンションが上がらないとスネークが」

「はー!?ういろう、気に入らんかったか……まったく近頃の子どもは……」


ういろうというのか、あの物質。

素材のような見た目のお菓子を初手に出してくるのは、いかにも博士らしいなと思った。

それとも博士はこういうのが好きなのだろうかとふと考えた。


「羊羹とかのほうがいいか?いや、かりんとう……?ゼリー?最中か……?」


博士はブツブツと呟いて、机の上の財布を片手に研究室を去っていった。


スネークに言わなくては。

予想でしかないが、おれたちの向上心が本当にそそられるような種類のお菓子が出てくるのは、当分先だと思う。


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