シロコのミイラ作り

シロコのミイラ作り


色彩に当てられたジャッカル、砂狼シロコはあり得たかもしれない世界線の記憶を流し込まれ狂ってしまった。

仲間を失う恐怖と、それを自身の手で行った嫌悪感。もしかしたらまた同じことが起こるのではないか?彼女はそのような妄執に取り憑かれ、やがて一つの、尋常ならざる答えに至る。

「ん、みんなミイラにする」

死と生の循環。自身の手で殺めつつ、長く隣にいられ、そして復活を望める。そんな都合のいい存在がミイラであった。


「おじさんこういうのは良くないと思うなあ〜?」

拘束具をガチャつかせ小鳥遊ホシノは言う。シロコとしても彼女を捕らえられたのは幸運だった。できれば最後に残してミイラ作りに慣れてからにしたかったが、ミイラ作りには時間がかかるし、ホシノはなかなかに聡い。恐らく途中でこの目論みは露見するだろう。ならば、最初に……。

「そう、私はいいと思う……」

鉤のついた鉄の棒をくりくりと弄びながらホシノへ近づくシロコ。ミイラとは死体の保存法でもある。内臓を残しては腐りが早い。そのため臓物は取り出し別で保管するか、捨ててしまう。古代のエジプトでは、脳は鼻水を作る器官とされ重要視されず、その捨ててしまう器官になっていた。

「ちょっと……冗談じゃないよ。生きたままやるの?」

「ん、最後までお話ししたいから……」

肝臓や肺など、保存する臓器は丁寧に取り出す必要がある。あくまで防腐のためであり、復活した時には一つに戻されることになっているからだ。だが、捨ててしまう脳にそんな手間をかける必要はない。先ほどの鉤付きの棒を鼻から差し込み、ゴツゴツと骨を割ってそこから脳を掻き出すのだ。

「じゃあ、行くね」

「ひゃぐっ?あえ?お、ぉおお?はが、が、あぎっ」

一息に突き刺し、脳の中ほどまで挿し込まれる。ぐりんと白目を剥き痙攣するホシノを慈しむように撫でる。

「ごめんねホシノ先輩。せめて少し気持ちよくなるようにしてあげる」

「ふぐ♡……おぎゅ♡お゛っ♡?お゛ぁ゛う゛♡ほぉう?あっ?ぴっぎゅ♡!!」

くにくにと鼻の穴から少しずつ脳を掻き出す。初めての作業であまり上手くいかないが、脳の硬さは豆腐に似ており手詰まりになってしまうことはなかった。

しばらく作業を続けてシロコは気づく。

「ん、ぐちゃぐちゃにしたほうが早い」

鉤棒を限界まで押し込み、脳をかき混ぜる。

「がぁっ♡うん゛っ?あ゛♡?ぇあ゛っ!ぐぎゅっ!い゛!い゛ぃ!にゅぴっ♡?あっ!がぁっ!ぜんぜっ!ゆ゛め゛!だずげっ!おぅ゛?んぇ♡?あっ、あは♡がっ♡」

豆腐を箸でかき混ぜる感覚とそう変わらない。その豆腐に青い春の体験と記憶を詰め込めればほぼ同じ状況だろう。もっとも豆腐と違って捨ててしまうのだが。

「先輩、さよなら」

「ん゛ぁ?へぅ……ぎっ♡み゛っ♡……ぉ……」

「……よし、次は内蔵だね」

ミイラ作りはまだ始まったばかりだ。

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