シュラの高揚
取るに足らない相手だと思った。失望、少しはあったかもしれない。
期待していたつもりはないが、あのフリーダムを堕とした男に多少なりとも興味はあった。
しかし、シュラのなかでは「こんなものか」が正直な感想であった。
やはりストライクを堕とし、デスティニーを叩き潰したアスラン・ザラこそが最強なのだろう。
事実、見たこともない異形のMSに乗っていたもののアスラン・ザラは期待通りの強さであった。
シン・アスカによって核攻撃は防がれた。
自己犠牲など支配側に立つ自分達にとっては理解が出来ない行動だ。
「彼の行動もまた我々が世界を支配する為の礎になる。安物のコーディネイターとしては大役だろう」
オルフェの言葉だが、戦士としては物足りないが軍人としては上等な男だったのだろう。
シュラの中でシン・アスカへの興味も評価もそこで終わった。
終わった筈であった。
「まさか貴様が生きていたとはな!フリーダムキラー!!」
目の前で旧型の機体に乗って現れた男に向ける言葉には少しだけ喜びが混ざっていた。
同じ機体に乗っていた女の方は取るに足らない相手であったが、たった今月光のワルキューレの四肢を一瞬で切り落とした動きは同じ機体とは到底思えない。
安物のコーディネイターでありながらもデスティニープランの守護者とされた実力に、知らず知らずのうちに昂りを覚えてしまう。
口角が自ずと吊り上がる。
獰猛な笑みを浮かべたシュラの脳裏には既に撃墜されたアグネスのことは消え去っていた。
彼に与えられた役目は「武人」。
母と宰相オルフェの治る世界の剣。
役目に殉じるシュラの思考に負け犬を気にかけるという概念は無い。
「いいだろう、先日の続きといこう。しかし、貴様に関わっている時間は無い。アスラン・ザラとの決着が控えているのでなぁ」
昂ったとはいえ、対等の宿敵などという概念は無い。
コーディネイターを超えた種たるアコードにとって、安物のコーディネイターなど対等ではない、対等であってはならない、そう考えることが「正しい」あり方なのだ。
『アスラン…?』
大剣を構えた時代遅れの機体から怪訝な声が届く。
「そうだ、アスラン・ザラとは決着が付いていないのでな」
自分程では無いとはいえ、強者と立て続けに戦える悦びに自然と声が弾む。
『アスランねぇ…お前、まさか自分がアスランより強いとか思ってるのか?』
しかし、目の前のデスティニーからは逆に冷めた空気がアコードの能力によってシュラに伝わる。
それが酷く癇に障った。
『お前如きにアスランは100年早いよ』
「……殺す!!」
シュラの笑みが憤怒に塗り潰される。
同時に、何処か気怠げだった「運命」の放つ空気が一変した。