シャーレの先生
“……大丈夫かな。こんにちは。私のことがわかるかな？そう、シャーレの先生だよ。初めまして、よろしくね。
ああ、そんなに激しく動かない方がいいよ。まだ薬が抜けてすぐだから辛いと思う。暴れたくて苦しいと思う。だからちょっと、ちょっとだけ抑えてくれないかな。……うん、ありがとう。○○はいい子だね。
なんで名前を知ってるのかって？当たり前だよ。先生として、この施設に送られてきた子の名前や情報はちゃんと目を通して覚えるようにしてるんだ。だからそんなに警戒しないで。私は先生だから、あなた達を傷つけるようなことは絶対にしないって誓わせてほしい。もし身体や心を傷つけるようなことがあったら、その時は私に仕返しをしていいからね。
うん。落ち着いてくれたかな？嬉しいよ。ここに送られてきた経緯は………そうか……大変だったね。任務中に罠に引っかかって薬を吸入してしまい、そのままハイになって意識が昏倒しちゃったんだ。うんうん、わかるよ。初めてで大量に薬を取り込んだ時はそうなっちゃうよね。誰も悪くないことだから気に病まないで。それでここに運ばれてきたんだね。
もう大丈夫、ここに来たからには苦しい思いなんてさせないよ。私は先生だから、生徒であるあなたを必ず楽にしてみせるよ。ほら、落ち着いて深呼吸をしよう。心持ちのあり方一つで薬が足りない状況でも随分と楽になるからね。はい、私の声に従って、吸って……吐いて……吸って……吐いて……
かなり楽になったんじゃないかな。そうだったら私も嬉しいよ。うん、偉いね。辛いのに、苦しいのに、ちゃんとしっかり耐えられて○○は偉いよ。……ああ、ごめん。ここに来ると不安になって苦しくて泣いちゃう子もいるから、頭を撫でたりして宥めてるんだ。嫌だったかな？……大丈夫、むしろいい感じ？よかった。なら暫くこうするね。落ち着いたら言って欲しい。
………もう大丈夫？落ち着いた？ならよかった。それで、これからどうしたいのかを聞かせてもらっていいかな。私は先生だから、○○が辛いことはさせたくないし、もしそんなことをさせようとする人がいるなら私が全力で守ってあげるつもりだよ。だから私は、○○がしたいことを聞かせて欲しい。そうだね……例えば、今の辛い状況から解き放たれたいと思うか、かな。どうかな？ちょっとは落ち着いたけど、まだすごい苦しくて、辛くて、頭がおかしくなりそうだと思う。それは日を跨ぐことに酷くなるから、きっとこれからもっと大変になるよ。それはどう？……うん。嫌なんだ。今すぐにでも解き放たれたいんだね。わかった。私がなんとかするよ。だからちょっと待っててくれるかな。このアイマスクをつけてゆっくりしてほしい。ホットアイマスクだから目が安らぐよ。気休めにしかならないけど……
………これでよし。あ、寝ちゃってるね。起きて○○。………あ、あまり激しく動かない方がいいよ。うん。吸入器はいいけど、点滴の方は外れちゃうかもしれないから。そのままでいて。そう、ゆっくりして。
今から吸入器からは甘いお砂糖が、点滴からはお塩が注入されるからね。二つともを一緒に投与すると頭の中が色んな状態になりながら幸福感だけがとても沢山与えられるんだよ。だから落ち着いて欲しいな。吸入も点滴も吸収率は一緒だからね、どっちも味わえるよ。
大丈夫、怖くないよ。その苦しい状態が楽になって、幸せになれるんだ。生徒の幸せのために働くのが私の役目だから、安心して私に任せてくれていいよ。……うん。私もよく使ってるしね。自分で使ったり、ホシノが作ってくれた塩飴を食べることもあるけど、ヒナやハナコが私にあげたがる時もあるんだ。優しい子達だよね。幸せになりすぎちゃった時の自分を生徒達に見られるのはちょっと恥ずかしいんだけど……でも見たいって言われたら断る理由もないからね。
あ、そうだ。……っ………ほら、よく見て。塩飴を今食べて見たけれど、私は別に辛そうじゃないでしょう？ちょっと、恥ずかしいぐらいに幸せな顔してると思うんだ。声も蕩けちゃってるかな？いつもと全然違うって言われるんだよね。私はそんな自覚はないんだけど。勿論、気持ちが良いけどおかしくはなってないよ。二つを一緒に摂取するとそんな風になるからね。……うん。食べてる姿を見せてよかった。この姿を見て怖さも和らいだみたいだね。じゃあそろそろ投与するよ。3……2……1……0。
わっ、そんなに跳ねちゃダメ。針が外れちゃうよ。そうだね、初めての経験だから怖いよね。落ち着いて、落ち着いて……息はどうしても荒くなっちゃうかもしれないけど、自分のできる範囲で息を整えていこう。怖いよね。でもほら、安心して。……私の心音が聞こえる？ゆっくりしてるでしょう？それに耳を傾けて……背中もゆっくり、トントンって……頭もゆっくり撫でるね……ハグが嫌だったら言ってね。別の方法で慰めるよ。
うん。良い子良い子。緊張が和らいでるね。ほら、薬に身を任せてみて。スーって楽になって……さっきまでの不安や恐怖、絶望が消えていくでしょう？大丈夫。それで良いからね。薬が全部吸収されるまで。されてからも暫くは、私がずーっとこうするからね………あなたが幸せになれるまで、ずーっと、ずーっと……”