シャンプー事変
左右どちらでとっても可
現パロ 同棲中
あのクソ高いシャンプー使っても怒られないのこれくらいの距離感じゃないか???
カラカラと引き戸の動く音がする。この家で引き戸といえば、それは脱衣所と風呂場に繋がるものだけで。そこからリビングへと向けて足音が聞こえてくる。とどのつまり、風呂を出たものがこちらに向かっているというわけだ。
少しドアノブの下がる音、そして、静かで鳴らない蝶番。パタンとドアが閉じた音からするに、相手は律儀に立ち止まってドアを閉めたのだろう。生真面目な男ではあるが、ここまで優等生というわけではないはずなのだが。
「何か嫌なことでもあったか? ドレーク」
リビングで一人ソファに座り、残り数ページとなった小説から顔を上ずにホーキンスは尋ねる。パサつきなく整えられた髪は、先ほど風呂に入った証だろう。
尋ねられた方のドレークはといえば、困ったように眉を下げてその場でウロウロと歩いていた。二メートルを優に超える立派な体格からは、そうそう思い描けない姿である。
しかしいつまでも問いに答えぬわけにもいかない。そう、ドレークは生真面目なのだ。
「すまない。お前のシャンプーを使った」
「あァそうか。よく泡だっただろう? 香りは・・・・・・いつも嗅いでいるから知っているか。好きだろう? その香り」
まるで飼い主が新しく買った洋服を善意で飼い主の元に運んだら涎でべちゃべちゃになってしまっていた犬のような様のドレークだが、対してホーキンスはそれお前の服だぞと言わんばかりの態度である。言葉を切るとパタリと本を閉じ、ドーベルマ・・・・・・ドレークのそばに歩み寄った。
「・・・・・・怒ってくれ、ホーキンス。自分のシャンプーをストックしていなかったおれが悪い」
「どこに怒る理由がある。おれはおれのものを勝手に使うなと言った覚えはない」
飼い主はどうも気分がいいらしく、鼻歌でも歌いそうなほど軽やかに動く。ドレークのもとに十分近づけば、ひらりとあげた手でわさわさともみあげをまさぐった。しなやかな指はやがてセットされていない柔らかな髪に伸ばされ、くるくると指に絡めていく。
「いいな、お前から同じ香りがする・・・・・・艶も出て指通りもいい。高いものを買った甲斐があったというものだ」
「・・・・・・本当に良かったのか?」
「あァ。これからも使ってくれて構わない」
ドレークはホーキンスの長い髪を掬い取ってそっと口を寄せる。ドレークはホーキンスの美しく長い髪が好きだった。良い香りがすることはもちろんだが、毛先が肌に触れたときの柔らかさも好きだった。───ぽん、と。ドレークの顔が赤くなる。
「何を思い出した?」
「意地悪を言うな・・・・・・なんでもない」
ホーキンスは風呂上がりでまだ熱を持つドレークの腰に手を回し、踊るようにくるくる回りだす。
自分のものをドレークが使ったことがよほど嬉しいのだろう、ホーキンスは案外、お揃いというのが好きなようであった。
そこまで楽しそうにされると、申し訳ない気持ちでいっぱいだったドレークもなんだか楽しくなってくる。思わずホーキンスの背に回した手に力がこもれば、くつくつとわらうその振動が伝わってきた。
いい香りに包まれた二人は、きっといい夢を見るだろう。