シホ殿、やはり少しだけ髪伸びました?
薄く瞼を開き、目の前の椅子に座る小柄な少女を見る。
肩に届くくらいの長さに切られた髪は月の光のような色を映している。
それが少しだけ動き、たまに止まるとまた動き出す。
…が、徐々に止まっている時間が増えてきた。
どうやら自分の主である少女…シホ殿の勉強は行き詰まっているらしい。
時計を見れば既に彼女が机に向かってから2時間弱が過ぎている。
集中も切れる頃だろう。さて、そろそろ…
「ーーシホ殿、お茶をお持ちしましたよ。」
「え?あ、ありがとう。太公望さん。」
「ふふ、いえいえこのくらいでしたらいくらでも。ところで今は何の勉強を?
僕でよければお手伝いしますよ!」
胸を張り、宣言してみたがシホ殿は翠緑の瞳をどこかじとり…とさせて此方を見てくる…あれェ?
「…そう言ってこの間の英語、微妙に間違えてなかったっけ?」
「…ははは!なんでかなァ!」
「ふふ」
気まずくなって目を逸らせばシホ殿は小さく笑っていた。
…この特異点で彼女に出会ってから既に数ヶ月が経過している。
特異点外との時間軸のズレからカルデアとの通信ができない時間がしばらく続いているため正確なところは分からないが外部では僅か数日が経過したほどだろう。
この数ヶ月の間でシホ殿の表情が徐々に緩んできたことを嬉しく感じる自分がいる。
仙人となり、永くを生きてもこうして僕は小さい変化を繰り返す。
なれば目の前のまだ若く、未来ある少女が変わるのも道理というものなのかもしれない。
そして自分が彼女や、その仲間たちともに変わっていけることがとても好ましい。
…あぁ、そうだ変化といえば。
「シホ殿…前よりも少しだけ髪、伸びましたか?」
「…いや、昨日穂波にすこし切ってもらったんだけど…。」
おかしいなァ!