ザ・エッグジュース

ザ・エッグジュース


民間の姫野キリヤと邂逅した日の勤務終了後、フミコは日本料理店で先輩デビルハンターの小暮と食事を摂っていた。豆腐や湯葉をメインにした創作懐石のコースである。

「それで…特異4課にいた頃の話が聞きたいとの事でしたね」

「はい。同僚の方々の様子や仕事ぶりについて、教えていただきたいです」

フミコは湯葉の吸い物を味わうと、小暮に肯く。彼が4課に配属されたのは6年前。所属していたのは、およそ1年間という事だ。

「そもそも、何故4課は無くなったんでしょう?」

「人員不足ですね。大規模な戦闘で人が減り、特異7課に合併されたんですよ。

う〜ん…いなくなった者も多いですが、仲間について言いふらす訳には…ご馳走になっていて恐縮ですが……」

「そこは気にしないでください。でしたら、チェンソーマンについて、聞いた事はありませんか?」

フミコはチェンソーマンについて切り出した。

「チェンソーマン!先輩は見たことがあったそうですが、自分は見た事ないんですよね」

「!!その方はどちらに…」

「殉職しました…」

フミコは内心歯噛みをした。これだ。

5年という月日は決して短いものではない。5年あれば、新入りも一通りの仕事を覚えられるもの。殉職率の高い公安デビルハンターの5年は、一般の勤め人以上に長い…フミコはまだ実感が湧かないが、以前そう聞いている。

「チェンソーマンについて調べているのですか」

「はい。昔助けてもらって…。できれば会って、一度お礼が言いたいんです」

「そうですか…自分が入る前の事……」

小倉は言葉を詰まらせる。しばらく食事だけの時間が過ぎ、やがて「退魔2課にいる同期にも心当たりがないか聞いてみます」と小暮は絞り出すように言った。

「あまり収穫は無かったな」

(贅沢言わないでください。時間とってもらったんですから)

会計を済ませ、料理店を出たフミコは帰路に就く。このまま動き続ければ、チェンソーマンについて調べて回っている職員がいる、という情報が広まる。その時には、状況も動くはずだ。良い方向であれ、悪い方向であれ。


翌朝、戦争の悪魔はフミコの身体で朝食を作っていた。体を動かす感覚に慣れる為の訓練である。横に立つフミコに口を出されながら、ベーコンエッグとトースト、クラムチャウダー、サラダを用意する。

「こんな事より、素振りでもやる方が身になると思うがな」

「いいですね〜。次の休日は公園でもいきますか」

戦争の悪魔に交代した状態で訓練施設を利用する事はできないし、休日は身体を休めたいのだが、今後は週一くらいのペースで身体を貸しても良いかもしれない。

出勤したフミコがパトロールに出ていると、本部から通報が入る。フミコとバディは現場に向かい、周囲を封鎖する警察官から状況の説明を受けた。

現場となっているビルを所有する業者で扱っている食品に、悪魔の肉片が使われている事が発覚した為、公安が調査に向かった所、建物内を突如悪魔の体組織らしい何かが侵食。入口や表に面した窓からは腸のような肉片がはみ出しており、内部の惨状を窺わせる。

公安の職員とビル内の従業員は、まだ中にいるらしい。通報を受けてきたもう二組の計6名で、彼らの救出と悪魔の駆除を行うことになった。

「妙だな…」

(何か気付きました?)

ビル内を探索中、戦争の悪魔が呟いた。

「このビルにいる奴…卵の悪魔か?これほどの力を持つとは思えないが」

(仲間がいるのかもしれませんね〜)

突入したビルの壁や床は肉片で覆われており、生き物の体内を思わせる。あちこちに丸い卵の殻が無数に埋め込まれており、割ると鶏卵のような粘りのある液体が出てきた。

フミコ達は探索を進めていき、従業員や公安の職員を発見する度に、外に運び出す。応援の人員が到着すれば、ペースはさらに早くなるだろう。

ビル内に取り残されている人々の位置がわかっていない為、外からの攻撃は救出が完了するまでは行わない事になっている。

人員の輸送が行われているビルの最奥、社長室にあたる部屋に大人が収まるほどの巨大な卵が鎮座している。卵の悪魔は、戦争の悪魔が推察する通り決して強い悪魔ではない。ただ、ある能力を備えていた。

卵は生き物を誕生させるものだ。このビルにある卵もまた、自らに亀裂を入れて何かを産み落とそうとしていた。


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