サンタクロースの木
前回の探索で、ヨルは手応えを感じていた。チェンソーマンが接触してきたのだ。自分は敵に近づいていると実感する。
「じゃあ、もう戦うの?」
「はあ?ユウコにも一人で勝てない私が…チェンソーマンに勝てるワケないだろ…!」
弱音を吐いたヨルは、アサの視線に気づく。
「勘違いするなよ、私は強い!あとは強い武器があれば勝てるんだ!」
ヨルは次の探索に向かうようアサに命令した。3番目に新しい目撃談があったのは、T公園。ここにも噂があった。
T公園には1本だけサンタクロースの木がある。そこに欲しいものを書いた紙を隠すと、欲しいものがプレゼントされる。プレゼントが届く前に、必ず電話があるという。
「持って帰る手間が省けるのは有り難いな」
「いや…住所知られてるとか、怖いんだけど」
T公園にやってきた2人は早速、園内の木を調べ始める。伊勢海のノートによると、木の幹の穴に隠すらしい。欲しいものが書かれた紙の隠された木が早速、数本見つかるとアサの気が滅入ってきた。
「…どれだと思う?」
「さあな…もう少し調べてみろ」
アサが探索を続けていると、ヨルが主導権を要求して来た。身体を明け渡すと、ヨルは鳥の巣を投石によって落下させる。ヨルは怒り出すアサを無視して雛鳥の死体を鞄に入れて、木の探索を続けた。
やがて、ヨルは1本の木を発見する。これまで見つけた木の洞に隠されていた紙は数枚程度だったのだが、見つけた1本は遠目で見ても穴が白く見えるほど詰め込まれている。だというのに、公園の管理者はこれに気づいていないらしい。
「これ……だよね」
「恐らくこれだろう。図々しい奴が多いな」
ヨルは欲しいものを書いた紙をそっと穴に差し込んで、足早に公園から立ち去った。アサの個人的な情報は記されていない為、ガセネタならば何も起こらない。
翌日の夜、アサの自宅に電話がかかってきた。何気なく受話器をとると、相手は僅かに間をおいて話を始めた。
「ご…注文のじな……おどどげ…あがりまじだ」
それだけ言って、相手は電話を切った。待ちかねた様子のヨルに急かされ、ドアの覗き穴から玄関前を確認するが誰もいない。
恐る恐るドアを開けてみると、スムーズに開かなかった。ドアの前に何か置いてあり、開閉を邪魔しているらしい。顔を出して確かめると、既製品の段ボール箱がアサを見上げている。抱え上げてみるが、さほど重くない。
自宅の中に運び、アサはびくびくしながら中身を確かめる。入っていたのは1着のウェディングドレス。取り出すと、箱の底に結婚写真が見つかった。
「なっ……こっ、これ…」
アサの知る頃より若く見えるが、母が写っていた。ドレスを広げてじっくりと確かめてみると、写真と同じデザインに思える。
「あっ、なんで……!?」
母のウェディングドレス、という事なのだろうか?だとしたら何故ここにあるのか。
「ほう。やるじゃないか、サンタクロース」
「はっ…!?」
これが本当にアサの母親のものか、ヨルにも判断がつかない。しかし、大事なのはそこではなく、アサがこれを武器にする事に強い罪悪感を覚える事。要望に応える品が届き、ヨルは喜んだ。
戦果:雛鳥の死体
公園の樹上に作られていた鳥の巣を落下させて入手した数羽の雛鳥が死んだもの。
母親のウェディングドレス?:
ウェディングドレス姿の母親の写真と共に届いた、ウェディングドレス。もし本当に母親のものだとすれば……。