コピペしたss其の一
男の握りしめた拳に覇気が宿る。危険な熱を帯びた一撃は吊るされたサンドバッグに緑色の痕を残す。
ジャブ、フック、ブロー、ストレート。拳闘の基本たる一撃が加えられる度にサンドバッグに残る緑色の拳痕は熱を帯びて黄色く染まっていく。
「フッ、フッ、シャッ!」
男の体は高熱を纏い汗は蒸気となって部屋の天井に滞留する。息を吐くたび部屋全体が温まり温度計の赤色はぐんぐんと上へと伸びていく。
「ハァッ!」
右腕の筋肉に力がみなぎり、サンドバッグを打ち据えると打ち付けられた拳痕は赤くなり、耐え切れないと絶叫するかのように爆発した。
「ぬうん!」
耐熱繊維製が故に爆炎に耐えきって揺れるサンドバッグを受け止めると、男――アルコバレノ・"ボンバドゥール"・ディオスは手の甲で額の汗を拭い、トレーニング部屋の窓を開く。
涼やかな風が彼の汗を乾かし、失われた水分を取り戻さんと部屋の隅の冷蔵庫を開いた。
冷えたスポーツドリンクのボトルを手に取ろうとすれば必ず見える位置にそれは置かれている。
セカン島での格闘興業の折に発見した、爆破粘菌の変異株が詰まったボトル。
「まだまだ、お前に挑戦するには遠いみたいだな」
地脈の力を受けて育った、今纏っている爆破粘菌とは比べ物にならないほどの爆発力を隠しもしないじゃじゃ馬。
己の力をさらに高める鍵。しかし己の力量では未だに手を出すことすら叶わない。発見した当初はあまりの爆発力に全身の甲殻が割り砕かれ生死の境をさまよった。
「強くなるぜ。俺は」
スポーツドリンクを飲み干すと、残りを冷蔵庫へと仕舞い込む。
まだ見ぬ強者に挑戦するにはヤツの力が必要だ。そのためには、まず己に挑戦し続けなければならない。