ゲーム開発部のとある夜
リハビリ深夜48時。ゲーム開発部のメンバー6人は血走った目で集会を開いていた。
「発表します」
重苦しい雰囲気を破ったのはケイだ。
ケイはゲーム開発部において、経理とスケジュール管理と文章校正とデバッグとバランス調整と広報と金策とお菓子のつまみ食いを担当している。
「約60時間のデスマーチの末、開発プロジェクトは全て達成されました。我々はGGCNN――ゲームガールズコネクトネクストノヴァに参加できます」
「「「「「「やったー!!!!!!」」」」」」
テレテテテッテテーレテレッテー!
というようなどこかで聞いたようなBGMが聞こえたが気のせいだ。
「しかしこれで終わったわけではありません。GGCNNの開始は約10時間後。我々はその2時間前には現地入りしなければなりません。そして――」
ケイは後ろの段ボールを指さす。
「いまだ重要な作業。「梱包」が残っています」
そこにあるのは空のディスクや専用ケース、パッケージの紙など、要するにゲームを売り物にするのに必要な素材だ。
そう。ゲーム開発部はゲームの開発こそ達成したが、まだ製品を用意出来てはいなかったのだ!
「今回の頒布物は5種類。メインとなる新作ノベルゲーム。それの前日譚的短編(150P)。私とプロトが趣味で作っているカードゲームの拡張セットと基本セット。ミドリのペラ本。このうち完成していないのは今しがた完成したゲーム本体です。これをミレニアムの設備を使って全力で焼き、開催までに間に合わせます。売る本数は200本程度です。200本であればパッケージング作業は3時間以内に終わる計算です。つまり――」
ケイはここで一度言葉を切る。タメを作って次のセリフにインパクトを乗せるためだ。
「我々の勝利はここに確定しました!!!!」
「「「「「「うおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
テレテテテッテテーレテレッテー!
全員テンションが無駄に高い。ずっと寝ずに作業を続けているのだから当然だろう。
ケイは手を降ろすようにしてゲーム開発部の面々を鎮める。まだセリフが残っていたのだ。
「そこで一つ私から提案があります。我々には移動とパッケージングの時間を差し引いても4時間ほどの時間がある。この貴重な4時間を睡眠にあてるのはどうでしょうか」
「異議あり!ここで寝たらダメな気がする!」
即座に反応したのは才羽モモイだ。ちなみにモモイはゲーム開発部において、主にシナリオとプロトの膝枕を担当している。
「寝過ごして朝を迎えるって言ってる気がする……!主に私のゴーストが!」
「そこは問題ありません。わたしが起こします。それにミドリを見てください。限界ギリギリです」
「そんなこと……ないよ」
そう答えたのはミドリ。顔の筋肉がガチガチで意識が落ちる寸前だ。どうして意識が保てているのかわからないレベル。
ちなみにミドリはゲーム開発部において、主にデザインを担当している。
「大丈夫。妖怪MAX DEATH ENERGY OVER ENDを呑んだから大丈夫。もう少ししたら効いてくるはず。大丈夫大丈夫」
「ミドリ。それはとっくに消えました。少し休みましょう」
そう言ったのはプロト。ちなみにプロトはゲーム開発部においては何でも屋だ。だいたいなんでもできるのだ。
「プロトは賛成します。ユズはどうしますか?」
「私も賛成……かな。ていうか……ごめんね……少し休みたいな……目が……重くて……」
そう言いながら、体育すわりのまま意識を落としたのはユズ。
ちなみにユズはゲーム開発部において、プログラミングとバランス調整を担当している。
「……アリスも賛成します」
アリスが小さな声で言った。
「モモイ。少し休みましょう。ついさっきまでみんなで奇声をあげながら作業をしていました。このままでは壊れてしまいます」
「……そうだね。ヨシ!一度休もう!ケイ!ちゃんと起こしてね!」
「「はい!」」
ケイは首を傾げた。自分の発言に誰かが同じ言葉をかぶせていたからだ。
ケイが背後を振り返ると、自販機がゲーミング発光で自己主張していた。
「私が朝の4時に大音量で起こします!安心して下さ――」
アリスが自販機を窓の外へ投げ飛ばした。自販機は星になった。いつものことだ。
きっとそのうち勝手に帰ってくるだろう。
「それじゃあおやすみ!」
モモイがそう言って床にうつ伏せに倒れる。モモイは目を開けたまま気絶していた。アリスはその瞼をゆっくりと降ろした。
ユズは体育座りのままだった。このままだと姿勢が悪くて起きたときガチガチになってしまう。
アリスはユズに声をかける。ユズには意識がギリギリ残っていたようで、それでユズは体を伸ばした。
ミドリはモモイに近づいて、モモイに覆いかぶさって寝た。
このままだとモモイがよく眠れないので、アリスはミドリを引きはがし、モモイの横に置いた。たぶん無意識だろうが、二人は手をつなぎ、そしてリラックスした表情になった。
「アリス。私たちも寝ましょう」
ケイがアリスに言う。アリスはケイとプロト、2人の間に入り、一緒に毛布をかぶった。
3人はいつもこうしている。今のアリスにとっては、これが一番よく眠れるのだ。
「おやすみなさい」
アリスは目を閉じる。そして両隣に居る二人の重さを感じながら夢へと落ちていった。