ゲッター自己犠牲トリオ
妖精帝國との戦いの勝利からわずか1週間後のこと。
「俺、今日研究所を出ようと思う」
「……は?」
命を預け合った戦友の言葉に、イーグレットは耳を疑った。
戦場となったペリゴール研究所は、別棟が僅かに形を保っている程度でほとんど跡形もない。
職員たちは職場と住む場所を失った。
加えて所長のルーズまでもが死に、彼らの不安は計り知れない。
そんな彼らのためにも自分が支えなければ、と考えていた矢先の出来事だったので、なお信じられなかった。
「……なんで、そんな急に」
「前々から考えてはいたんだ。前に言ったろ? 俺は流れもんだって。それなのにもう随分と1つの場所に止まっちまった。だから最後の戦いが終わったら、ここを去ろうってな」
「でも研究所の皆んなはどうするんだ。博士も亡くなって、皆不安だろう。少しでも人が必要な時期だと私は思うんだ。それなのにここを去るなんて……」
「それは大丈夫だ。ここは必ずゲッターの意思によって生き延びる。何が合っても」
「馬鹿さん……?」
今の馬鹿の発言に、イーグレットは違和感を覚えた。
まるでアカのようじゃないかと。
馬鹿は察したように自らの眉間を指差す。
「あの戦い以来、頭の中でそういう予感をピンピン感じるようになった。きっとゲッター線をモロに浴びたせいだろう。今ならバーガーの電波発言も理解できると思うぜ」
そして馬鹿は「もっと言うとな」と言葉を続ける。
「……俺はゲッターが怖くなったんだ。情けない話だけど、取り込まれかけて、よく分からないものを見せられた。宇宙の真理とかそういう類のやつかな。だからしばらくゲッターから離れていたい。ゲッターに2度と負けないために。このまま負けっぱなしで終わらないために。それが本音だ」
「……分かったよ、貴方の気持ちは。その口ぶりならきっといつかは戻ってきてくれるんだろう?」
「ああ、今よりずっとパワーアップしてな!」
馬鹿はニッと笑うと、サムズアップを突き出した。
「今よりパワーアップしたらどうなっちゃうんだ」と笑顔を溢すイーグレット。
そんな2人の前にアカが現れた。
「2人ともやっぱりここでしたか」
「アカさん」
「お疲れ様です。馬鹿さんはどこか旅に出かけるんですか?」
「当ったりー。それもお得意の予知か?」
「格好見たら分かりますよ」
何故か得意げな馬鹿に、アカは呆れたようにため息をついた。
「まあ、最近の予知に馬鹿さんの姿がないとは思いましたが……しばらく戻らない、って感じですね」
「ああ……」
「……奇遇ですね。僕もそうしようかと思っていたところです」
そう言ってアカは手に持っていた封筒を開ける。
中には書類が何枚か入っており、そのうちの1枚に「招聘状」と書かれていた。
「これは……」
「クッパは倒しましたが、まだ妖精帝國そのものが滅んだわけじゃない。世界各国は防衛システムに新たにスーパーロボットを組み込み、これに警戒することにしました。その元締として『連合軍』という組織が結成されるそうです。そこでの技術指導を僕に、と」
「そっか……となると私たち3人は」
離れ離れか、というイーグレットの言葉を馬鹿は遮るように手をかざした。
「やめようぜ、辛気臭いのはよ。バーガー、良いと思うぜ俺は。お前は人の上に立つのが多分合ってる」
「……そうだな。私たちもアカさんの指示に何度も助けられた」
「フフッ……」
アカは微笑むと、イーグレットの肩に手を置いた。
「そういうイーグレットの覚悟と優しさに、僕たちは救われてきました」
「お前は俺たちの中で1番マトモなままだ。これからも研究所の皆を頼む」
「ああ……!」
イーグレットは馬鹿の胸にドンと拳を当てた。
「そして馬鹿さん。貴方は決して約束を破らないし、嘘をつかない。さっきの言葉通り、必ずずっと強くなって戻ってきてくれ」
「馬鹿さんの思い切りの良さは、いつも悪い状況をひっくり返してきた。この選択も遠い未来で大きな意味があるものと信じます」
「……任しとけよ!」
馬鹿は彼らの言葉に大きな声で答えた。
胸に宿る万感の思い。
頭に過ぎる戦いの、そして彼らと過ごした日々。
「俺たちはよく似てると言われるが、きっと根本のところで違うんだ。だから面白い……」
3人はお互いに見つめ合う。
その時間は一瞬とも悠久の時ともとれるほどに不思議な時間で……。
そして、
「じゃあ2人とも! 健康には気をつけるんだぞ!」
「いつかまた、必ず会いましょう!」
「あばよ、ダチ公!」
かくして3人の若者は、別々の道を歩み始める。
しかし、彼らの目指す先が違うことはない。
彼らの心は、1つの正義のもとに常にあり続けるからだ。
友よ、また会おう。
完