グレおじがいっぱい!
本当にツイてない、とため息を吐く。まさか俺が歩いていた場所がピンポイントで崩れて一人だけ落下するとか。なんとか受け身をとることはできたものの、上に戻れそうな足場もなくこうして彷徨う羽目になっている。
(っと、行き止まりか)
道を塞ぐドアを観察する。休憩室とだけ書かれたプレートがかかっている。ここの地図なんかが置いてあるかもしれない。幻想体の休憩室になっている可能性もあるので、中から物音がしないのを確かめてから慎重に扉を開けた。
「っんぎゅっ、ま、まって、ぁっ、ん〜ッ!」
「ほらあ、我慢するな。力抜けよ」
「大丈夫、怖くないから、な?」
「っは、あ、ぎっ…!うぅ〜っ…!」
「………は?」
中の様子をうかがおうとしたのも忘れて呆然と立ちつくす。柔らかな暖色の照明で満たされた豪奢な室内、その中心の大きなベッド。そこで乱されているのは「俺」だった。正確には、自分よりさらに侵食が進んだG社課長代理としての「俺」。その股座に顔を埋めて悪戯っぽく笑っているのはミートパイ屋の人格の「俺」。さらに、後ろに倒れそうになる課長代理の身体を支えて頭を撫でながら耳に声を吹きこんでいるのがバラのスパナ工房の「俺」。こんがらがってくる、頭がおかしくなりそうだ。
ぐぷ、じゅぶとやらしい音が聞こえてくる。りょミパの「俺」の愛撫に耐えられなくなったのか、課長代理の「俺」は必死に首を横に振った。
「むりっ、りゃめへ…!はっ、うぅ゛ッ!い、く、でちゃっ…!」
「だーかーらー、飲んでみたいのはこっちなんだって。遠慮してないでさっさと出せよお」
「あんまり脅かしてやんなよ、久しぶりの人肌で慣れてないんだろ。ま、遠慮しなくていいってのは同感だけどな。どうせ「俺」同士なんだしそんなに怯えるなって」
「あ、でもっ…うあっ…!?」
同じ「俺」だから嫌悪感が薄いのか、工房の「俺」は躊躇なく飛び出した虫の触角に唇を触れさせた。そのままちろちろと刺激し、それを辿るようにして今度は口の中に舌を差し込む。抗えずにきゅっと目をつむって開いた「俺」の口から唾液がこぼれた。
「ふっ、んむっ…んあ…」
「んッ…ンンッ…!」
「そうそう、そうやってリラックスしてなって。精液はそっちのほうが味がいいから…んっ、んぐっ…!」
「ッ!?ン〜〜〜っ!?」
いきなり喉奥まで呑みこまれ、刺激に耐えられなかった課長代理の脚がぎくぎくと痙攣する。羽根がさざめき、改造された腕がシーツを切り裂いた。幸いかろうじて制御することはできたのか、ほかの二人を傷つけることはなかった。
「んくっ、んっ…んっ…」
「ぷはっ…!?のっ、飲むなっ、はずかしっ…!ひぃっ!?すうっなあ!?」
「この「俺」にゃなに言っても無駄だって。諦めて気持ちよくなってようぜ」
「そんっ、な…あぅっ、うう…!」
涙を張った目の奥に、しかし確かに欲の熱が灯る。それにはっと正気を取り戻して慌てて部屋に押し入った。どうせ「俺」同士なら気兼ねすることもない。
「おっおい待てって!一旦やめ、いやそもそもどうなって」
「手ェ離すなバカ!!」
「へ?」
視界外から飛んできた五人目の声に反射的にそちらへ目を向ける。クローゼットを調べていたらしいリウ協会の「俺」が青ざめた顔で通り抜けていった。その先にある俺が入ってきた扉に必死に手をかけるが、なぜか開く様子がない。
「あーくそっ!わかってた、わかってたよちくしょう!「俺」ならこうなるってな!」
「……なあ、これ、なにがどうなってる?」
「あんりゃあ、やっぱりこうなったか」
まさかと思って振り向けば、バスルームから出てきたのは先日抽出したばかりのツヴァイ協会の「俺」だった。かるく肩をすくめた彼がドアの上にあるプレートを指さす。そこに書かれているのは。
「……【自分同士でエッチしないと出られない部屋】ァ!?!?」
「ご丁寧な読み上げどうも。そういうわけなんで協力してくれや」
「いやっ、いやいやいや力づくで出られないのか!?こんだけ人数そろってれば」
「出られる算段が立ってたらこんなことしてると思うか?」
へらりと笑う工房の「俺」の腕の中で身動きした課長代理の「俺」が、静かに自分を見つめる。そこにちらりと、しかし確かに仄暗い色が見えて思わず後ずさる。それはいつの間にか後ろに立っていたリウの「俺」に阻まれたが。
「はあ〜…しょうがない、さっさと出るためにも協力してもらうぞ」
「いやだが!?」
「俺だっていやに決まってるだろ!でもこうしなきゃ出られないんだって!」
「まーまー、こうしてても埒あかないしとりあえずシャワーでも浴びようぜ。ほらバンザーイ」
「ぎゃあああお前仮にも自分の服躊躇なくひっぺがすなよ!?」
「なんで手慣れてんだ…」
「不審者の身体検査とかするにはこっちのが手っ取り早いんでな」
呑気に会話を続けるリウとツヴァイの「俺」に引きずられるようにしてバスルームに連れこまれる。虫の腕に臆することなく、そして俺の抵抗を意にも介さずあっさりと衣服をひん剥いて、自分たちもポンッと服を脱ぎ捨てた。
「ほら見てみろよ、めちゃくちゃ広いぜ」
「ラブホの風呂なんて大概広いだろ」
「い、行ったことないからわからないんだが…」
「あ〜、そりゃお前さんはそうか」
もはや抗う気力も湧かず、なすがままに丸洗いされる。代わりに義手を外した二人も手伝ってやると、リウの「俺」は自分でできるのにと膨れつつ、ツヴァイの「俺」は人懐こそうな笑みとともに礼を言ってきた。同じ「俺」なのにまるで違う、と今更ながら不思議な心地がする。
「なあ、トップとボトムどっちがいい?」
「へっ!?ぬ、抜き合いとか…じゃ、ダメなのか…?」
「ん?…あ〜、その線もありか」
「アイツらに聞いてみる。俺らより先に部屋にいたし」
「頼んだ」
三人入ってもまだ余裕のあるバスタブから出るリウの「俺」を視線だけで追いかける。俺より若干細く引き締まった身体は実にしなやかそうで、あの手から繰り出される炎の軌跡はどんなものなのか、と少しだけ想像した。
「…さて、と」
「おわっ!?」
リウの「俺」が出ていったタイミングでツヴァイの「俺」がずいと近寄る。ぎょっとして後ろに下がろうとして滑った身体が、剣だこができた手で支えられた。
「アイツが帰ってくるまでに実験といくか」
「じっ、じっけ、いやというか自分に勃つわけないし、それに、俺、は…」
思わず自分の右腕に目を向ける。いくら自分とはいえ、否、だからこそ腕の暴走に巻き込むのは気が引けた。なのに、それを知ってか知らずかツヴァイの「俺」はへらへらと笑う。
「だーいじょぶだって。仕事柄傷を負うのも鎮圧にも慣れてるからな。それに」
「っ!?」
密着した腹に擦りつけられた固さにぎょっとする。乗っかってきた「俺」を怖々と見上げると、急に入れたりはしないと笑われた。
「なんつーかな、顔は同じはずなのにお前さんはいじめたくなる、というか。うん、率直に言って興奮する。…なあ、触っていいか?」
「っ……!」
聞き慣れた自分の声だというのに、耳元で低く囁かれると背中がゾクゾクする。無意識に首を縦に振った俺に満足げに息を吐いて、「俺」の左手がお湯の中に沈んだ。
「んっ、ふぁ…!」
「よしよし、元気に育ててやるからな」
「オッサンみたいなこと言うなよ…」
「オジサンだろ〜実際」
軽口を叩きながらも、さすがに「俺」のいいところはわかるのか的確な刺激に腰が跳ねる。唇を噛んで声を抑えると、窘めるように舐められた。
「血ぃ出て痛いだろ、我慢するなって」
「聞かせられるわけっんあっ!?」
「ははっ、いい声」
二つまとめて握りこまれ、噛み殺しきれない喘ぎが漏れる。嬉しそうに手の中のムスコたちを弄ぶ「俺」になんとか反撃できないかと思っていると、バスルームの扉が音もなく開いた。戻ってきたリウの「俺」がしぃーっと指を立てる。そして慎重に忍び寄り、夢中になって気づかないツヴァイの「俺」を後ろから抱きしめた。
「よっ、と」
「のわあっ!?」
「ビビりすぎだろ。ってか俺を除け者にするのはズルくないか?」
「いやいや除け者ってわけじゃっんんっ!?」
「いじめがいがあると思ってたんだよなあ、この乳首。ミートパイ屋の「俺」もそれなりだったけど」
「ひっ、んんッ…!うあ…!」
いちいち取り外すのが億劫なのか義手を付けたまま入ってきたので、ツヴァイの「俺」は両方の乳首を弄られて蕩けた声を出しながら悶える。それを聞きながらリウの「俺」はそうそう、と告げた。
「アイツらに聞いたら抜き合いじゃダメなんじゃないかってことでな。たぶん挿入した状態での絶頂が条件なんだろ。ってことで、どうする?俺としてはボトムはアンタに頼みたいんだが」
「なんでだよ!?むしろビジュアル的に一番向いてないだろ!?」
「基本造形は「俺」たちみんな同じだろ。まあ、万が一暴走しても組み敷いてりゃ抑えるのは容易だし。それにその腕じゃ腰振るにしても身体支えずらいだろ?」
「ぐぅ…」
これが「俺」以外から言われたことなら怒りもしただろうが、なにせ同じ「俺」の言葉だし嘲りの意図もない純粋な提案なのでなにも言えない。自分が受け入れる側にまわるという不服を除けばだが。しかし、このまま拒んでいてはにっちもさっちも行かないというのもどうしようもない事実だった。
こくり、と一つうなずいた俺に決まりだなとつぶやいて、リウの「俺」は乳首いじめを中断してバスルームの棚を漁る。まもなく取り出してきたのは透明ななにか…おそらくローションが詰まったボトルで、傾けると粘度の高そうな液体の中で小さな泡ができた。
「んじゃ尻ほぐすんで…んー、バスタブの中でやったほうが負担少ないか?」
「マット敷くのも、っん…面倒だしな。それでいいか?」
「どっちでもいいから早く終わらせてくれ…」
「「はいはい」」
俺をバスタブの縁につかまらせ、ツヴァイの「俺」がボトルを受け取って逆さまにする。とぷとぷ零れていくそれを直視したくなくて目をそらすと、じっとこちらを見ているリウの「俺」にいたたまれない気持ちにさせられる。
「みっ、見るなよ…」
「つってもなあ」
「入れるぞ〜」
「っ、ぐ…!」
侵入してきた異物感に顔をしかめる。今のところ痛みはないが当然快楽も感じているはずがなく、これは相当辛いことになるぞと身構える。と、静観していたリウの「俺」がいつの間にか顔を寄せてきていた。
「っは!?」
「こうすりゃ少しは気が紛れるだろ。それともいやか?」
「いや…そ、の」
「…ん」
かぱ、と開かれた口の中の赤に頭がぐらつく。誘われたそこにおずおずと口づけると、手で頭を押さえつけられて退路が絶たれる。なのに、それがなぜかいやではなくて、ちうちうと相手の舌に吸いついしまう。
「んぐっ、ッ、っ……」
「っ、は……鼻で息しろ、ほら、落ち着いて、逃げねえから」
「っあ、はあ、はあ…んんぅ……」
一生懸命に絡み合っていると頭がふわふわして、変な幸福感で胸がいっぱいになってくる。全身があまったるい感じになって力が抜けていくのに理性が警鐘を鳴らす。一旦やめろと言おうとしたそのとき、急に胎内に温かいものが流れこんで悲鳴をあげた。
「ひぃっ!?ぅ、あ゛、なに…!?」
「あ、やっべえお湯入ってら。おーい平気か?」
「んなわけあるかっ!早くぬ、抜けって…!んんっ…!」
そう言いつつも、腹の中が満たされていく感覚にぞくぞくが止まらない。目の奥でなにかがチカッ、チカッと光る。崩れ落ちそうになるのを「俺」に支えられ、必死にそこにしがみつく。
「お゛っ、あ、ああッ…!?ぐぅっ…!」
「いでっ…なあおい、もしかしてそれ変なもん入ってたりしたか?」
「渡す前に確認しろよお…おわ、媚薬入りって書いてある」
「マジか。悪いことしたな」
「まあ苦しいよりは気持ちいいほうがよくないか?なあ、「俺」もそう思うだろ?」
「ひゅぐぅっ!?あえ゛っ、やめっ、広げんな、ぁ〜!?」
広げられた尻からお湯が流れていくのをまざまざと感じさせられる。快感と、粗相をしているような感覚と、それをよりにもよって「自分」に見られていることへの羞恥で涙がにじむ。
「ぐっ、うぅ゛…!見るな、見んなってぇ…!」
「……えっろ」
「はは…すっかり準備万端って感じだな」
余裕たっぷりの二人に寄りかかりながらなんとかバスルームを出る。全身をざっと拭くだけ拭いてから部屋に戻ると、相変わらず課長代理の「俺」はほかの二人に貪られているらしかった。
「んっ、んあっ!ははっ、気持ちいいかあ?」
「あああッ!?なかあついっ、だめっ、締めないでぇ!?ひっ、あ、あひっ!?」
「こっちも忘れてもらっちゃ困るんだよなあ…!な、ほんとに齧っちゃダメか?羽根の端っこでいいからさ」
「だ、ダメだっ、それは絶対、だめ、ぅああっ!?」
「ちぇ、仕方ないか。しゃぶるだけで我慢するかねえ…んっ、ちゅ…!」
「へえ、あんさん羽根も感じるのか。どぉれ、根元のほうは…」
「ふやっ、あああっ!?しら、しらなっ、こんなのしらにゃいぃっ!?やえろっ、どめっとめでぇ!?」
「…痛々しいけどかわいいよな、あの「俺」」
「あんまりそういうこと言ってやるなって。あ、ここ使っていいかー?」
「んっ!好きにしていいぞ」
「あいよー」
ベッドの上に寝転がされた俺は、息も絶え絶えになりながらめちゃくちゃにされる課長代理の「俺」を眺める。あっちもどろどろになりながらじ、っと俺のほうを見てくる。
「んじゃ、どっちが先にするか」
「勝負といきますか」
「「…ジャーンケーンポン!」」
バカやってる協会二人を横目に、なにかを察した工房の「俺」が腰を上げる。腸液にまみれたペニスをかるく扱きながら課長代理の「俺」に囁くと、彼の目が見開かれた。
「…で、でも」
「こういうこと、今しかできないだろ?なにも殺せって言うんじゃないし」
「………」
また、見られる。黒々とした光のない目。うねる衝動。同期化したとき伝わってきた感情を思い出す。戦場を駆ける身体への誇り、だけど、その片隅に確かにあったのは。
「…いいぞ」
そう言ってしまったのは憐れみからか、親しさからか。ある意味ではもっとも自分に近い可能性は、その言葉にはく、と口を開いた。口元の触角が震える。
「決まりだな」
「っふう…もうちょっと楽しんでたかったんだが」
「今度は俺が入れてやるって。ほら、あんさんは行ってきな」
「あ……」
りょミパの「俺」からも解放され、かるく背中を押された「俺」がシーツの海に倒れかける。なんとか身体を起こした彼は、膝ずりで少しずつ俺に近寄った。俺も気だるい身体を動かして、左脚を支えながら目いっぱい持ち上げる。
「……あ、の」
「いいんだ。…アンタの気持ちは、少しだけ、わかるから。だから、今だけは全部ぶつけてくれ」
「っ……」
小さくうなずき、「俺」がベッドに鎌を突き立てる。擦りつけられたチンコを手に取って入り口に添えると、そのままぐうっと押し入ってきた。性急な動きだが、よくほぐされたからか痛みはない。どちらともなく息を吐く。「俺」が持ち上げられた左脚にかぷ、と噛みついた。小さな痛みと流れ落ちていく赤い液体。じゅるりと啜り上げる姿に喉が鳴る。
「っし勝った!!…って、あ!?」
「くそう、先越された…!」
「バカやってるからだろ〜。なあ、こっちも相手してくれよ。さみしいんだって」
「ん〜…俺、リウのほうがいいんだけど。柔らかそうだ」
「食おうとするなバカ!」
「んじゃ俺は工房さんのほうをいただきますかねっと」
「へへっ、優しくしてくれよ旦那ぁ」
色に染まっていく「俺」たちの会話を聞き流しながら、内臓に打ちこまれる熱に意識を持っていく。強く深い律動。頭上からギチギチと牙を鳴らす音がする。
「ふっ、んぎゅっ、あうぅ゛…!」
「はっ、あっ、ああ゛っ…!ひぃ、いっ、っうう゛…!おあ゛っ、あ〜…!」
頭の中がめちゃくちゃになって、思考がとっ散らかる。きもちいい。くるしい。ごめんなおれだけ。もっとほしい。あたたかい。さびしい。ベッドに突き刺さる鎌と俺の右腕がぶつかってカチカチ音を立てる。人間の左手で、そっと彼の虫の腕に触れた。
「いいっ、ぞ、ぐれごぉる…」
「ッ、あ…!」
ぼろっとこぼれてきた涙に手を伸ばす。止まらないそれを拭ってやると、強請るように顔が降りてきた。口を開いて迎える。二人で無心に互いを貪っていると、ナカで弾ける気配がした。それに感じ入って背をそらす。自分のモノからも欲が押し出されるのがわかって、その感覚がずっと続いて、頭が痺れる。
「ぷ、はあ…もっと、したい……くれ、ほしい、もう少しだけ…」
「うん、うん…いっぱいやるから、ぅあっ…!」
ナカで大きくなったそれに呻く声は、我ながら欲情に塗れていて。さあ、ここから出られるのはいつになるのやら。もう一度深く口づけを交わしながら、そういうことはひとまず頭の隅に追いやった。