グエルと4号の一幕
「じゃあ、彼女達とは和解できたんだ。グエル、良かったね」
「ああ、ひと先ずな。ホッとしているよ」
朱を含んだ茜色の夕空が学園の上に広がる。
スレッタ・マーキュリーとミオリネに温室の件で謝罪して和解を終えたグエルは、エラン・ケレスと会い、立ち話をしていた。今回のループでグエルは氷の君と呼ばれていたエランと仲を深め、友人関係を構築することに成功していた。このエランは未来からやって来てグエルを何度も助けてくれた彼とも、自身の生存のために手段を選ばない賢さと善性を併せ持つ彼とも違う。だがグエルにとっては、彼も大切な友人であることには違いなかった。
「エランは、スレッタ・マーキュリーについてはどう思っているんだ?」
世間話がてら、スレッタを話題に出す。エランがペイル社から受けているであろう密命についての情報を引き出したかったし、スレッタに興味を惹かれている友人の常とは異なる様子が純粋に気になった。
「――――そうだね、僕は彼女に興味がある。彼女は僕と似たところがあると思うし、きっと互いに理解し合えると思うんだ。彼女についてまだ知らないことが沢山あるけど、これから知っていきたいと思ってるよ」
「お、おぉ。情熱的だな…」
立て板に水のように話すエランの熱弁に圧倒されるとともに、何だかホッとした。エランは自分の生存に執着していないような諦観と危うさを感じる節がある。だから、彼が誰かに関心を持つ様子を見ると人間味を感じて安堵する。
ふと、ループする前の遠い過去の記憶にいたエランについて思いをはせる。同じ決闘委員会に所属していたのに、エランと個人的な交流を深めることはなかったし、何も知らなかった。ずっと無表情で無関心、読書が趣味の少年。氷の君なんて揶揄されていた彼は、氷のように冷たく、心に血が通っていないような印象を抱かせていた。
だけど、目の前のエランが頬を緩ませて饒舌に想いの内を語る様子を見ると、それは自分が知らなかっただけなのだと思う。今回のループでは自分が知らない一面を知ることができて、彼と友人になることができた。それは素直に嬉しい。
「エランは、良い意味で変わったな。前は人を寄り付かせない雰囲気だったのに、大分やわらかくなった」
「君もそうだろう? 以前の君なら絶対にミオリネ・レンブランに謝罪なんてしなかっただろうし」
「ぐっ…、そ、それは、まぁ、そうなんだが…」
ループして記憶が塗り替えられる前の暴君状態だったであろう自分を思い出すと胃が痛くなる。喉の奥で声をつまらせるグエルを見て、エランがおかしさをこらえきれないように微笑んだ。
―――――これから起こるであろう数多の受難を乗り越えて。目の前で笑うエランとも、同じ顔をした別人の彼らとも、いつか笑い合える日が来たら良いと思った。